103・生々流転
俺は、トラックに撥ねられて死んだはずだ。
今居る場所は……病院でもなく、道端でもない。荒れ果てた部屋で、瓦礫に囲まれている。
天井もなく、床も壁もボロボロで、周りを囲む湖が見渡せる。
少女がひとり、こっちを見ていた。
俺を不思議そうに観察している。
何か話かけてきたが、ここは外国なのだろうか。
何を話しているのか、まったく分からなかった。
自分の体を調べた。
十七歳だった俺は、なんと子供の体に若返っていた。十歳くらいだろうか。
怪我もなく気分も悪くない。そして、何かが体の中から溢れてくる。
チカラの源のような、煮えたぎる何かが、次から次へと溢れ出すのだ。
自分の手を見て、違和感に気付いた。
何かの表示が、手の上に浮きあがっている。
『魔王 125000』
なんだこれは。――魔王!?
フォログラムのように浮き上がったそれは、俺の知っている言語で表示されていた。
つまり、日本語だ。日本の漢字で、魔王と書かれていた。
近くに居た少女を見てみる。
『人間(仮)36000』
なんだその(仮)ってのは。こいつ人間じゃないのか?
「おい君。ここはどこだ?」
「???」
駄目だ、言葉が通じない。
俺は立ち上って、部屋をもう一度確かめた。
少し離れた所に、もうひとり少女が倒れていた。
見た所怪我もなさそうだ。
俺は何故か見ただけで、そう判断できた。
もう一度自分の体を見る。
『魔王 125000』
この数字はなんだろう。
てか、魔王って……。
俺は死んだ。そして、魔王。
これは、あれか。転生したってやつか。
俺は平成生まれの日本人だ。この手のSFファンタジーのラノベや、アニメくらいたしなむ。
推測するに、俺は死んで魔王となって転生した。そしてこの数字は、魔力か体力かな。
あの少女が(36000)って事は、俺の数字はかなり高いのかもしれない。魔王だし。
だが魔法とか使えるのだろうか。
なんとなく何かのチカラは感じるが、使い方がまるで分からない。
周辺の感知くらいは自然に出来るようだ。
すると近くの湖の一部で、人の反応があった。
沈んでいる。少女だ。まだ生きている。
俺に魔法が使えたら、助けられるのかも知れないが、そんな事出来そうにない。
俺は近くの少女に、湖に向けて指を指した。あそこで少女が沈んでいるぞ、と。
少女は最初はハテナマークだったが、やがて理解したようだ。
そのまま湖へ向かおうとしたので、俺は彼女に必要な物がないか探した。
潜水道具なんかあるわけもなかった。ロープさえも見当たらない。この場所には玉座があるだけだ。
すると突然、空中に杖が出現した。
その杖は勝手に飛び跳ね――
「???」
――なんか喋ってた。
杖が喋るだと?
なるほど、ファンタジーだ。
少女も驚いていたが、その杖を手にすると湖へ飛び込んだ。
これでなんとかなる。そんな気がした。
さて、これからどうするか。
俺は魔王。
これが何を意味するのか。もしかして勇者とか現れて、俺は討伐されてしまうのだろうか。
この溢れるチカラ、そして(125000)もの数字は恐らく魔力か体力だ。
魔力ならこれを使えるようにしたい。魔法とか使ってみたい。
さっきの杖を見るからに、魔法の存在を予感させる。
あの少女がもし、魔法を使えるというのなら、教えてもらえないだろうか。
いや、その前にこの世界の言語をなんとかしないと、意思の疎通さえもできない。
魔王もいいが、前途多難だな。
俺は荒木信吾。十七歳の高校生。日本人だ。
死んだはずが異世界とはいえ、生き返ったのだ。
子供の姿になってしまったが、前世の記憶もある。
その記憶が役に立つかは分からないが、とりあえずこの世界で生きるしかない。
なに、気楽に行こうじゃないか。
なるようになるさ。
なにせ俺は――
魔王だ。




