101・抗うものたち
俺はフォウの展開した結界の中でそれを見ていた。
ニナが倒れ、ルルが倒れ、フォウが倒れている。
フォウは咄嗟に俺だけに最小限の結界を、最速で展開したのだ。その結界にフォウ自らは入っていなかった。
俺たちは扉を開けて入った瞬間に、攻撃されたのだ。
ニナが回復魔法で復活してこちらに駆けようとした瞬間、第二波が襲い、ニナは衝撃で転がっていった。
「サーラぁ!」
俺は叫んだ。だがサーラは冷たい眼で、俺たちを静かに見ているだけだ。
この部屋には中央に玉座がひとつ、あるだけだった。
その玉座の前に立ち、杖を構えたサーラが俺たちを睥睨する。
「サーラ! 目を覚ませ! 俺だ! アランだ!」
「ア……ラン……」
その言葉が聞こえた瞬間に理解した。サーラはまだ存在している!
魔王になりかけだが、サーラはまだその中に居るのだ!
だがその杖からまたしても衝撃波が放たれ、俺たちを襲う。
激しい音と閃光が生じ、フォウの結界が壊れた。
今度は俺も吹き飛ばされ、フォウを巻き込んで転がった。
「がっ……はっ!」
俺の口から血がドボドボと吐き出される……内臓までやられた……たった一撃で俺は死ぬ寸前まで追い込まれている。
フォウの結界がクッションになっていなかったら、すでに死んでいただろう。
フォウは俺の下敷きだ。ニナは……少し離れた場所で気を失っている。
ルルは――
「おじいちゃん!」
――ルルは叫ぶや、サーラに飛び込んで行った。
サーラはルルに向けて杖を振るうが、何も起こらない。
その杖の赤いはずの魔石は、今は黄色に輝いていた。
「おじいちゃん! ウチだよ! ルルはここだよ!」
ルルがサーラに抱きついた。その杖ごと。
杖に嵌め込まれた魔石は、ルルのおじいちゃんだと、初めてルルと会った時に聞いている。
その杖は――魔石は、身内のルルに反応して、攻撃する事が出来なくなっているのだ。
だがサーラは杖がなくとも、魔法はいくらでも使える。
サーラを抱きしめているルルは、次第にその姿を、存在を薄くしていた。
「サーラ! 止めろぉ!」
ルルの姿が透明に近くなり、消滅して行く。
ルルの存在がほぼ無くなりかけた時、床が激しく揺れ、俺の後ろから凄まじい程のオーラが放出された。
フォウは両手を広げ宙に浮き、その体を眩しいくらいに輝かせていた。
青き髪は天に広がり、瞳は閉じて。
ルルが稼いだ時間は、フォウの詠唱を完成させていた。
その目が開くと――世界は光に包まれた。
フォウを起点に、サーラに向けて床が次々と剥がされて行く。
サーラと共に居たルルの姿は既になく、その杖も消失していた。
サーラは光に包まれた。
両手は前に向けて開いている。
光りに対抗しているのだろうか。全身は小刻みに震えている。
やがてその両手を天に翳し、地に叩きつけるように振り下ろした。
床を粉砕しながら、撥ね返されたチカラは、俺とフォウを直撃した。
俺は床を激しく転がりながら、時間がゆっくりと回っていくのを感じていた。
ゆっくりと体が回転している。
ゆっくりと右腕が千切れた。
ゆっくりと左足がもがれた。
ゆっくりと顔の半分が、床に削られて無くなった。
フォウが倒れているのが見えた。動いていない。
ニナが粉砕された床から、湖に落ちて行くのが見えた。
それが、最後に見た光景だ。
俺は死んだ。




