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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第1章 めぐりあい編~ニナ~
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9・洞窟


 ニナの案内で道を進むとやがて、街道から少しずつ外れだした。何を目印にしているのか分からないが、彼女の足取りに迷いはない。

 様々な植物が生い茂る場所を抜けると、やがて大きな湖に出た。その先に岩山が見える。おそらくあの岩山に洞窟があるのだろう。

 湖を迂回して岩山にたどり着くと――


「あそこなのー」


――と、ニナはある場所を指さした。そこには洞窟の入り口と思われる穴が見える。


「ここか?」

「うん。入るなの」

「ちょ、ちょっと待てニナ」


 俺は慌ててニナを呼び止める。俺は躊躇った。なぜならそこは、あまりにも禍々しい雰囲気に覆われていて、洞窟の入り口からは黒いもやのようなものさえ漂っているのが、はっきりと見える程なのだ。


「大丈夫なのか?」


 俺は冷や汗をかき、そして思い出した。先ほどの盗賊が言っていた事を……たしかランクAがどうとか。


 もしここがランクA指定の洞窟だとしたら、俺なんかが近寄っていい場所ではない。

 ランクB以下が入っても命の保証はありませんよ、という事なのだ。そして俺のランクはE。

 ランクEがランクA指定の洞窟に入るというのは、ほとんど自殺行為だ。


「だいじょぶなの」


 なにを心配してるの? そんな顔でニナは言う。

 ……そうだな、ニナが一緒なら平気なのかもしれない。何度もここに来ているようだし。

 情けない事だが、彼女頼りで行くしかないようだ。


「盗賊どもは確か、カミノイワヤと言っていたが、ここがそうなのか?」

「ニナはしらなーい。なの」

「そうか、ならいい。行こう」


 俺は覚悟を決めて、洞窟の入り口に向かった。


 入ってすぐに、中が意外と明るい事に驚いた。洞窟の内壁に含まれる蛍光鉱石が何かに反応して輝いている。

 それが洞窟内を充分に明るく満たしていた。

 同時に俺は洞窟に向かうというのに、照明道具さえ用意していなかった事に気がついた。

 ニナの小屋にランタンなどあったかどうかも怪しいが、考えなしだったと反省しつつ、黙って彼女の後を追う。


 妖気とも言える禍々しさは進むにつれて次第に大きくなり、目に見えない重圧に息苦しくなりながら、黙々と進んだ。

 洞窟内の道幅はかなり広く、大人が四人並んで歩けるほどの幅はある。

 いくつもの分岐もあったが、ニナは迷わず進むべき道を選んでいるようだ。


 しばらく何事もなく進んでいると、道の先に赤く光るものが見えた。

 その光点はしだいに数を増し、数えきれないほどの赤が行く手を覆い尽くした。


「なんだあれは」

「たぶん、うるふなの」


 こともなげに言うニナの言葉に戦慄した。あの赤い光はウルフの目なのだろう。

 そうだとしたらあの数は、いったい何匹いるというのだ。

 

 ウルフ。そう呼ばれるものには二種類いる。森に住む動物のウルフと、魔獣のウルフだ。どちらも元は同じものらしい。

 動物のウルフがある特定の条件を満たした時、凶暴化して魔獣になると言われている。今までに遭遇した事はないが、俺が倒せる相手でないのは想像に難くない。

 そしてこんな禍々しい雰囲気の場所で出会うのが、後者であるのは疑いようもない。


「倒せるのか?」


 情けないが俺はもう、ニナに頼るしかないのだ。


「なにもしないなの」


 何もしないって、ニナが? 魔獣が? 彼女の言う事はいつも理解に苦しむ。


 命の危険を目の前にして、俺は心中穏やかではいられない。魔獣のウルフが出会った人間を襲わないなど聞いた事がない。

 赤い光点は今やその姿を徐々に現して、ウルフのシルエットが覗える。

 何十匹も居るであろうその影に、俺は恐怖した。


 だがそれは今、ニナの先ほどの言葉を証明するかのように、少しずづ散開してゆく。


「ウルフが……逃げて行く?」


 俺たちを襲うどころかウルフたちはしだいに数を減らし、やがて居なくなった。

 あれは確実にこちらを認識していたはずだ。それなのに何もしないで去ってくれた。


 俺は安堵してニナから話を聞いてみると、なんとも的の得ない答えが返ってきた。

 はっきり言って何を言ってるのかわからない。


「ニナがこうで~」「あれがあ~で~」「なの~」


 こんな感じだ。それを俺はなんとか頭の中でまとめ上げ、想像しながら足りない言葉を補って結論付けた。

 どうやらニナは魔獣たちに対して、意識的に『威圧』を増幅し、強化できるらしい。

 本人曰く、「むっ」ってやればいいという。

 それが魔法なのかはわからないが実際、洞窟を進んで行く中で色々な魔物たちに出会ったが、それらはみな、彼女を見止めると襲ってくるどころか逃げ去ってゆくのだ。

 吸血蝙蝠も洞窟ワームもウルフも俺の知らない見たこともない魔獣たちも、すべてニナを避けていた。


 こうなるともう、ニナの強さを認めるしかない。間違いなくAランク以上の実力者なのだ。

 Aランク指定の洞窟の魔物たちが手を出せないほどに。

 いくら威圧したところで、魔物が自分より劣ると感じた相手に、引くわけがないのだから。


 いつしか俺たちは、洞窟の行き止まりで立ち止っていた。いや、行き止まりではなかった。

 岩の壁にはなぜか扉が埋め込まれていた。普通に木で出来た扉なのだが、やけに場違いな感じがした。


「着いたの」


 ニナは扉のノブに手をかけて回す。鍵はかかっていないようだ。

 ギギギと軋む音を響かせながらそれは開く。

 ニナの後ろから覗き込むと、そこには広い空間が広がっていた。




   

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