列車旅
私たちは峯呉の街へ向かうため、人混みに紛れやっとの思いで列車に乗り込んだ。ちょうど混雑する日時が重なったため、列車内は人でごった返すような有様。なんとか人混みをかき分けなんとか座席を確保することが出来た。前の相席の人に一声かけ座席に座る。
「つぐみちゃんお腹すいてない?」
「ん。へーき」
つぐみは窓側の席に座り移り変わる風景を眺めている。時折窓を開けたり手持ちの小さい画板に絵を描くなど、この列車旅を素直に楽しんでいる様子。
「ねぇお母さん。変な頭の人がいる。」
遠くで母親らしき人物の叱責する声がする。
一方の私は頭巾か何か用意すべきだったと後悔する。しかし、戦時体制下に直面している最中。一庶民として、あれこれと私物を肥やすのは憚られるご時世なのである。このぐらい知らぬふりで我慢すべきと自分に言い聞かせる。
幸い、駅員に見咎められたり、乗客に絡まれるなんてこともないのでよしとする。
何駅か移動して相席の人が降りた。そしてまた乗車した人達から奇異の視線が向けられる。やけに混み合っているのに、誰も中央付近の空席に座りたがらないのだから警戒するのは当然なのかもしれない。
ダメだ……。この席は疎外感を感じられずにはいられないうえにどうしようもなく目立つ。少なくとも2人で4人座る分の相席まで占拠してるようでいやでも視線が集まってくる。つぐみには悪いけど列車の奥のほうへ移動しよう。
そんな風に考えてた時である。私の頭に何かが被さる。何事かと思えばさきほどの声の主であろう幼げな和服姿の女の子が、私の頭に白いハイカラ帽子を被せてきたのだ。
相席が空いたままなのをみて、なんとなく私たちが腫物の様に扱われているような雰囲気を感じとったのかもしれない。
「あ、あり……がとう」
なんていえばいいのか迷ったが、ひとまずお礼をいうことにした。大人が避ける中、気にもせずに私の目の前に腰かける。
「その帽子似合うと思ったんだ!!ねぇここ座ってもいい?お母さんも」
つぐみの了解も得られたので了承するとその幼い少女は窓際の座席に移動する。姿の見えない我が子を探しているのだろう。母親が人の中をかき分けこちらに寄ってきた。自分の娘が席に座っているのを見て観念したのだろう。軽い会釈をして私の前の席に座る。
「あなたたちはまどうしなの?」
直球な質問をされる。
「そーだよ。私達スーパー魔導師」
つぐみが自身顔で答える。つぐみはあまり初対面の人としゃべりたがらないので、今日は機嫌がいい日みたいだ。どうやら馬が合うらしく、二人の会話は途切れずに進んでいく。
「へぇ凄い遠くから来たんだ。その峯呉には何しに行くの?」
「えーとなんだったかな?新聞配り?」
事情を濁すあたりつぐみはきちんと言葉を選ぶ。それなりに考えているようで少し安堵する。
「じゃー私たちの特技見せちゃいます」
一通りの談笑が終わったため今度はつぐみの能力芸が始まる。
「ほい」
手元の画板の紙に文字を書き込み少女に渡す。すると少女の手の上で折り込まれ瞬く間に折り鶴へ変化する。少女はその光景に目をキラキラと輝かせ、すぐさま折られた鶴を嬉しそうに母親に見せる。これには母親も驚いたみたいで、二人で物珍しそうに鶴を眺める。
「すごい。どうやったの!?」
「こっからが本番。今からその鶴を空へ飛ばしてみせましょう」
つぐみからの熱い目配せがきた。目立ちたくないとは思いつつもつぐみのお願いを断れるわけもなく。今度は私の能力を渋々ながら使うことに。鶴は少女の手を離れ、そして天井付近まで飛ぶと周りの乗客に邪魔にならない範囲で旋回させた。その光景に今度はほかの乗客も驚いたらしく、その異様な鶴を食い入るように見ている。私たちの座席はちょっとばかし注目の的となった。
魔導学校では誰からも期待されなかったこの能力でも、少なくとも目の前の少女を喜ばせることはできるみたいだ。
つぐみも同じ気持ちのようで少し満足気だ。さっきまでの蔑視のような視線も今や興味感嘆の視線に変わりつつあった。それも当然なのかもしれないと今更ながらに思う。魔導師は大抵、軍に徴兵されるから大の大人であろうと普通の人には珍しいのだろう。魔導を一度も見たことない人が能力に興味を示さないわけがなかった。
「じゃあ最後に飛行機を飛ばしてみせます」
最後は打ち合わせをする羽目に。本来みだりに使うのを良しとしないのだが、乗り掛かった舟なので終わりまで付き合うことに。そして私個人目の前にいるこの子に帽子のお礼をしたかった。
つぐみももしかするとそのつもりで芸を始めたのかも知れない。
打ち合わせが終わるとつぐみが窓から一枚の紙を外へ放り出した。風で流されたその紙はつぐみの能力で海軍の戦闘機に変身する。その小さな飛行機を今度は私の能力で手繰り操る。約20糎程度の飛行機。この世の理に縛られることのない真の自由を手に悠々と飛行する飛行機は、忠実に再現した精巧なフォルムときめ細やかな動きでみる者を圧巻させた。
宙返りまでは叶わなかったが、バンクさせたり様々な飛行姿勢を試してみる。
この小さな飛行機は駅の間近まで追従し観るものを楽しませた。
たまにはこんな風に目立つのも悪くない。
どうせ目立つならみんなが楽しいと思う行動をして目立つほうが、良い選択なのかもしれない。




