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お風呂好きな二人

 

 二人は高藤さんから一通りの話を聞きそして今後の日程を聞かされる。出航する軍艦に乗艦するまで約二週間。私たちはその短い時間で撮影機材の扱いをマスターしなければならない。


 一応海軍側からも魔導師としての能力テストが行われるらしいが、そちらはいままでの魔導学校の検査に近い方式なので問題ないだろう。


「峯呉の軍港は遠いから、向こうに下宿先を用意させる。以上で説明は終わり。何か質問はないか」


「いえ。私は特にありません。」「んーわたしもー」


「そうか、私はどうにも忙しくて同行することが出来ない。機材の扱いは向こうで教えてもらうように」






 私たちの向かう軍港のある街には列車で向かうことになる。明日すぐ出立しなければならないらしく、夕飯の後に二人で持っていくものを考える。


「枕は絶対いーる!!」


「絶対要らない!!下宿先に枕ある」


 断言した私につぐみは頬を膨らます。不服な意を顔いっぱいで表現する。


「んー。符にするんだからかさばらなーいーじゃん」


「紙の中に封しても結局要らないっていうの。この前つぐみちゃんが片づけなかった私物まだ全部残ってるの」


 物を取り込むことのできる入れ物符はいくらでも作ることが出来る。それはつぐみの能力だ。

 

 つぐみの能力は私の能力とは比べものにならない。


 つぐみの有する能力はある意味夢想魔術師のあるべき姿。現実を歪める最高峰の能力。文字を現実に起こす能力だ。


 と、聞けば誰もが憧れる能力だったのだが、魔術学校では私と同じ落ちこぼれだった。

 

 具体的に説明すると物質に文字を書くと物質を書いたその通りの状態にする能力。

 木を歩かせることから銃をターゲットの前まで飛翔させてそのまま撃つなんて芸当もできるはずだが、彼女にできたことはあまりにも少なかった。


 その当時できたことといえば、紙に飛行機と書いて紙飛行機をつくったり、空きビンに動くと書いて坂道を登らせる等、出会った当初は夢想の力で遊び道具を作って遊ぶ少女だった。現実に与える影響が大きいと歪めることが出来ないのはすべての夢想魔導師にいえることで、その個体差も人それぞれなのだ。


 そのため現実を歪める力があまりにも小さかった彼女は誰だからも相手にされず、いつも独りぼっちだった。


 彼女の能力が本格的に開花したのは、私と出会ってからのことでつぐみの「現実」を歪める力は今も破竹の勢いで成長を続けている。

(ただ、5歳の頃から始めた「きゃらめる」は未だ成功しないそうだ。7年間毎日欠かさず挑戦しているらしいから余程の執念とみえる)


 そしてこっからは私の能力になるのだが、私の能力でその入れ物符を体に取り込むのだ。

 つぐみの能力を発揮させるうえで私の能力も重要だった。


 本来、夢想魔術というのは他の魔術と干渉することが出来ない。理由も不確かであるが、互いに現実を歪ませる状況が生まれるとどちらの能力も消失する。私とつぐみだけが唯一の例外らしい。


 私とつぐみの能力は強大な相乗効果を生み出した。


 まず一つはつぐみの能力の一定時間経過するとその効力を失う。その持続問題を解決したことだ。つぐみの入れ物符は約28時間しかもたない。他の符も同様である。しかし、私の能力で体に取り込む間は持続時間の影響を受けない。


 しかもつぐみの能力が付与した符の受け入れ制限がない。符の取り込みは無制限で、様々な符を大量に保持している。例外で入れ物札に物が入っている場合は取り込む際に総重量制限がある。今の段階では2000キロ程度までなら取り込みが可能だ。


 あとは符の運用方法だ。念力が届く範囲なら相手に貼り付けることも造作なく、符を戦略的に運用させることが期待出来る。


 この力でどうやって戦うのかは結局のところ思い浮かばなかった。


 だけど私たち二人で協力すれば他の魔導師に負けない自信はあった。





「んー。けーちー」


 つぐみは荷造りに少し飽きてきたようでベットに寝転がる。


 ただ選別自体はいらないものを減らす作業なのでそこまで徹底して行うわけではない。


「ねえつぐみちゃん。先にお風呂入らない?」


「はいるー」







 お風呂には毎日一緒に入っている。符の取り換えをしないといけないからだ。毎日欠かさずに交換する為二人の日課となっている。


 私の場合取り込んだ符は持続時間を気にすることはないが、つぐみに貼り付けている護符は不可視化させても持続制限がある。なので毎日お風呂上りに私が貼りなおすのだ。


(ちなみに私の能力で他の人間の体に不可視化状態で貼ることが出来るのはつぐみただ一人である。他の人には不可視化させることが出来ず、貼り付けても届く範囲から離れると効力を失う)


「ほら、服脱がすよ」


「あーい」


 服を脱がし体を覆うものすべて取っ払う。私の能力を使い体に張り付けてある不可視化されたすべての符を解放させる。そして効果の違う何枚かを除く護符をそのまま私のもとに束ねる。


 この符は全身敷き詰めるようくまなく貼る必要がある為、結構な枚数を取り換えることになる。


「体洗ってあげる」


「わーい」


「髪も洗うから背中向けて」


「んー」


 一緒に入るからといってここまで身の世話する必要は全くないが、つぐみが気持ちよさげにしてるのでなんだかんだで面倒を見てしまう。


 私のほうがかえってつぐみの世話を焼きたいのかも知れない。


 私はつぐみの長く伸びた髪を手で梳かす。彼女の髪は真っ白だ。生まれつきらしく、はぐれたとしてもすぐ見つけることが出来るだろう。私の髪の色も淡い金色を帯びており、つぐみもはぐれたらそれを目印に探し出すだろう。しかし目立つと周囲からどんな反応をもらうか落ちこぼれの私は嫌になるほど体験している。なので私は今でも髪を触られるのが怖い。


 この白くて美しい髪に触れられるのは私だけの特権。お風呂は私一番の楽しめる時間なのだ。

 

 この髪も戦場に行けば目立つし、そのうち切らないといけないのかな……?

 

 ふと、これからのみなりについて思案する。流石に女性も丸刈りなんてことはないだろうが、どういった髪型なら良いのか見当もつかない。女性魔導兵の映像を見たことあるが、モノクロのため色の見分けが付つきにくく、どんな色髪の夢想魔導兵がいたかはわからなかった。「色」のある髪は概ね夢想の魔導師だ。


 軍隊でも防諜の為黒に染めることを推奨されている。しかし夢想能力はコンディションに左右されやすい為強制的な名目でもない。

 

 この髪だと敵国から魔導兵と間違われることになるかも知れない……。でも、髪を切ると夢想能力の成長が止まる可能性もある。


 つぐみはともかく私はもう少し短くすべきかな……?


「かーりー考え事?」


 手が止まっていたので、つぐみはこちらを覗きこむために天井を見上げるように首を傾ける。そしてそのまま背中ごと私のほうへもたれかかる。


「出立する前に髪を切っておこうかな~って」


「私も切ったほうがいい?」


「つぐみちゃんも伸びたままだけど、そのままでいいと思うよ。私はこの綺麗な髪好きだから」


 つぐみは褒められたのが嬉しいらしく鼻歌混じりで体を元の姿勢にもどした。その隙に洗い終わった頭にお湯を被せてつぐみを湯船へ入れる。狭い風呂釜だが、子ども二人ならスペースに問題はない。底板は私が足を付けてつぐみを抱きかかえるようにして入る。


「ふぅー極楽じゃー」


「つぐみちゃんおっさんみたいに言わないの」


「んー」


「こら。狭いんだから暴れるな」


 風呂釜の側面は熱を帯びているため触らないように注意する。

(ちなみにつぐみはこのタイプのお風呂が苦手なので私が抱いたまま湯船に沈めないといけない。)


「かーりーここのお風呂今日で最後なんだね」


 ふと、つぐみはそんなことを口にする。


「そうだね。だけどこれから戦地に行ったら毎日お風呂入れないかも」


「えー。お風呂毎日入りたい」


 つぐみは両手を振り回して抗議。彼女もお風呂好きなので当然の反応だった。


「そんなこといったって我慢しないと」


「ドラム缶持ってけばいいじゃん」


「でもほら、他の人に見られるし……。そんな勝手なことして怒られるかもわからないし」


 まず軍艦に乗り込む私たちが入浴できるのかさっぱりわからないので、毎日お風呂は期待しないほうがいい。それに私たちが入るなら混浴になる。水兵さん達の憩いの場でお目汚しさせてしまうのは忍びないだろう。


「私たちの待遇は行ってみないとわからないよ。お風呂が無くてもお湯は準備するから」


「んー。じゃあ我慢する」


 偉い偉い。とつぐみの頭を撫でる。程よく湯船に浸かったので、そろそろ出よう。

 私は能力を使い自分の体を白紙で覆い水気を吸わせ、吸い切ってふやけた白紙をまた取り込み再度体を白紙で覆い直す。その一連を繰り返し、水気を全て吸収させたらすぐさま寝間着に着替える。


 着替え終えるとつぐみの体が冷えないうちに護符を貼る作業に取り掛かる。つぐみの体はタオルを使ってふき取る。符は多少の水気くらいは大丈夫だが、破ける恐れがある為キチンと拭いてやる。


 毎日の習慣なので10分もしないうちに貼り終えることができた。


 あとは部屋で髪を乾かして、お布団で寝れば一日が終わる。

 

 今日はいろいろあったなあ……。


 髪を乾かし寝室に移動したが、既につぐみは眠たいらしくうつらうつらと船を漕ぐ。明日の準備もしたいのだが仕方なし。寝る準備を手早く済ませて家に一つしかない布団で微睡むつぐみを寝かしつける。


 寝る時は同じ布団に必ず手を握って一緒に就寝している。あの頃からずっとこの調子だ。




「つぐみちゃんおやすみ。明日からも頑張ろうね」

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