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配属


 いつも通りに新聞社に訪れたかりんとつぐみであったが、今日は何やら雰囲気が違う。車が用意されていて高藤さんのいわれるまま車に乗り込んだ。詳しい話は到着してから話すといわれたので、これからのことはさっぱりだ。


 たどり着いたのは軍施設。ここがどこかはまだわからないけど、軍服姿の大人が門の前にいるから軍事施設だということだけは理解できた。


「私たち魔導兵になるの?」


「どうだろ……?新聞社のインタビューにお呼ばれしたとか?」


 付き添いではないのは薄々と感じている。ただ私たち二人には軍隊からお呼びがかかる理由が思い当たらなかった。それゆえ戸惑いの色を隠すことが出来ない。


 車から降りた私たちは建物内奥の一室で待機するように命じられた。高藤さんの付き添いではないことは明白だ。ちらりと椅子に腰かけているつぐみの顔を覗く。


「つぐみちゃんは大丈夫なの?」


「ん。かーりーがついてるからへーき」


 彼女の性格を羨ましく思う。


「さて、待たせて悪かったね。今日は大事な話をするためにここに連れてきたんだ」


 高藤さんからさっそく仕事内容を伝えられた。

 しかしそれはいままでこなしてきた仕事とはまるで違うものだった。

 今までの仕事は新聞を配ることから内部の雑務。これから能力運用を兼ねて内部の仕事に目を向けていくと聞かされていただけで今の二人の立場は単なる雑用係なのだ。

 そんな私達二人に命じられた仕事とは……。


「私たち二人が従軍記者ですか……?」


「そうだ。とても危険な仕事なのは重々承知だけど、君達にしかできない仕事なんだ。機材の扱いについてはこれから教わればいい」


「ちょ、ちょっと待ってください。私たちにそんな大役務まるでしょうか?」


「確かにうちの社から抜擢するならベテランを送り出したい。けれどいくらベテランといえど命を懸けたフィルムを守れずに命を落とすかも知れない。君達は素人同然で記者としてはこれからだけど、我が社の人間で生き残りフィルム使命を全う出来るのは君達二人だけなんだ」


 確かに高藤さんの話は一理あった。私たちはそもそも戦争の訓練をしていた。年端いかないけれど能力の存在も考えれば一般的な歩兵隊より生存率が上なのは間違いない。一般人である記者とは比べものにならない。敵兵と会敵した場合でも二人なら逃げるどころかもしかすると返り討ちにすることだって可能かもしれない。

 そして他の魔導師は皆すべて徴兵されている身。徴兵されなかったものも予備役という扱いを受ける。つまり他を当たろうにも戦争下ではこれから私たちのような存在を囲うのも難しいのだ。


 高藤さんは頭を下げる。


「いえ、急な話なんでどう答えていいかわかりません。それにつぐみちゃんにも聞いてみないと私だけの話じゃないですから……」


「私は、かーりーがいいっていうんだったらしてもいいよ」


 つぐみは即答する。つぐみらしい答え。私に決定権を委ねられたがすぐに返事を出すことが出来ない。

 

「もし断った場合はどうなるんですか?」


「危険な仕事だから断ってもらっても誰も君たちを責めたりしない。その時は僕が代わりの従軍記者を務める。今までは僕が保護者のような立ち位置でいたけども、他の人が受け持つ。待遇もこれまで通りにするよう伝えておく」


 私はもう一度考えを逡巡させる。この前のラジオ放送を思い出す。戦争の火蓋は切って落とされた。私は皇軍の列に加わることが出来なかったが彼らの有志をフィルムに収めるチャンスが今確かに目の前に存在している。

 だけど……。それでもその千載一遇ともいえるチャンスを摑みあぐねている。

 今まさに死地へ赴けと命令されて臆病風に吹かれている自分に腹が立つ。でも、それでも本当に正しいのかわからない。

 つぐみちゃんは何の迷いもなく戦地に赴くだろう。そして私に手を引かれていくのだ。でも私はつぐみちゃんを失うことに耐えることはできない。死なせたくない。私はなんて答えればいいのだろう?


「ねえかーりー。かーりーは怖いの?」


 つぐみは抑揚のないマイペースな声で私に問いかける。


「そう、かも知れない。急に言われるとちょっと答えられないな」


 言葉を濁す私の手をぎゅっと握ってくる。


「なら、私がかーりーを守ってあげる。私はかーりーを絶対に死なせない。絶対に殺させないから大丈夫」


 つぐみの手から温かさが伝わってくる。端正な顔から覗かせる瞳には強い意志が宿っている。幼い顔には微塵の恐怖も見受けられない。

 私は彼女が言いたいことをなんとなくわかってしまう。

 自分自身が不甲斐ないから「怖い」

 きっと彼女はそう思ったのかもしれない。

 つぐみは私がいれば銃弾飛び交う戦場も地獄のような訓練も乗り越えられる。

 だからかーりーは私が付いてるから怖がらなくてもいいんだ。と。私はつぐみの温かい手を握り返す。

 そうだ。私にはつぐみがいる。彼女が付いてくれるのなら、私はどこへだって行ける。


「高藤さん。決心が付きました。従軍記者のお仕事お引き受けします」

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