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夏の幻影  作者: 佐倉志依
3/4

夏祭り

第三公園にはすでにテントが立ち並んでおり、中央にあるやぐらが"こっちはもう準備できてるぞ"といった出で立ちでドンと佇んでいた。


ここも変わらないな。。


第三公園とは名ばかりでこの町で一番大きい公園である。

第三とは3番目にできたからだと昔母が言っていた気がするが、本当かどうかは分からない。

まあだから、何かイベントをするときは決まってここで開催される。

今日も聞いたことのない演歌歌手の告知ポスターが貼られており、ステージではその人ららしき女性がリハーサルを行なっていた。


「こっちこっち!」


声をする方を振り向くと盛大に手を振っているやすこの姿があった。


「綿菓子の作り方覚えてる?6年ぶりとかやっけ?」

「ああ。覚えてるよ。」

「おっけー。じゃあここにざらめと割り箸置いとくから、客来たらチケットと引き換えに適当に作って渡してー。でも、ほんま助かったわー。ただしが急にバイト入ったとかで来られへんって言い出して。どうしよっかと思ってたんよ。」

やすこはそれを言うと「うちは向こうで受付やらなあかんからー!」といってそそくさと去って行った。


ただしはやすこの上の弟である。年は確か俺らの3つ下だから20才になるくらいか。バイトとか言ってたから大学生にでもなったのだろうか。あいつら兄弟にも連絡とってなかったな〜。


「お!たえこちゃんとこの坊やないか!ひっさしぶりやのー。どや東京は?べっぴんな嬢ちゃんは捕まえれたか?」

「ええ、まあ。ぼちぼちやってます。」

「なんやしょうもないのー。おまえまだ大学行ってるんやって?なんや、院とかいうとこ行ってるみたいやないか。そんな勉強して頭ばーかり、でかなっとるんとちゃうか?」


声をかけてきたのは隣の喫茶店をしているおばあちゃんの息子でこの町一の工場で働いている母の同級生のこういちおじさんである。まあ体力が自慢のいわゆる体育会系の人で、昔から貧弱だった僕に男とはこうゆうものだというのを会うたびに説いてくる人だ。


「おまえ、また男のくせにちまちまと綿菓子作ろうと思ってるんかいな。男やったらな、テントを組み立てるとか椅子運ぶとか肉体労働せんかー肉体労働!なんや、たえこちゃんにやれって言われたんか?」

「いえ、やすこに言われて。。」

「なんや!おまえまだやすこちゃんの腰巾着みたいなことしてんのかいな。ほんまあかんで!結婚したらおまえが尻に敷かれてるのが目に浮かぶわ!やっぱ結婚するならな、可愛くてな主人を立てて、斜め後ろからついてきてくれるような奴にせんと!!東京にやったらようさんおるやろー!」

「はあ。。」


別にやすこと結婚する気は今の俺にはないんだけどな。。と思いながら滔々と語るこういちおじさんの話を話半分に聞いていた。


「ちょっと!!あんた何油売ってんのー!!始まるまでにやることようさんあるんやから!ちゃっちゃと働き!」


声のする方へ振り向くと鬼の形相をしたけいこおばさんがこっちに向かってきていた。


「おっ、おー!今行くー。ほなな、けいこが俺を必要としてるみたいやから!おまえもちゃんとやるんやで!」


そう言ってこういちおじさんは駆け足でけいこおばさんのところへ向かって行った。

その後、こういちおじさんがけいこおばさんに叱られてペコペコしながら、ものを運んでいる姿が見えた。


あれだからなんか憎めないんだよなー。


こういちおじさんはなんやかんや言いながら家族を一番に考えてて、けいこおばさんには歯が立たない。

なんか昔と変わらないその姿に少し懐かしさを覚えた。


その後近所のおばちゃん達に質問攻めに会い、同じような問答を繰り返すうちに日も暮れ、提灯などが付き、曲が流れ始めていた。

そして町内会長の始まりの音頭とともに人が次々にばらけていった。


「綿菓子一つ!」


もうすでに疲労困憊だったが、僕は今できる精一杯の笑顔を客に向け、「はい。どうぞ!」と言って作った綿菓子を渡した。

その後も次々と綿菓子は売れていき、「おまえどこの高校?」とかどう反応していいか分からない言葉なども投げかけられながら、淡々と売りさばいていた。


「お疲れー。ちゃんと働いてるやないの!あんたの分の焼きそばとたこ焼き貰ってきたからちょっと休憩してき!その間母さんがここやっとくから。」


母がそう言って焼きそばとたこ焼きを渡してきたので、僕はその言葉に甘えて綿菓子のテントから外に出た。空にはすでに星が散りばめられており、多くの人間がやぐらの周りで楽しそうに踊っていた。


ちょっと、夜風に当たりたいな。


そう思って僕は第三公園を出て右手にある神社へと向かった。

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