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夏の幻影  作者: 佐倉志依
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母への電話

きれいだと君は言った

その横顔を僕は忘れない・・・



「あっつー!どうにかなんないのかよ。」

隣でうちわを扇ぎながら友人あきらはうなだれている。

今、僕の部屋はクーラーが故障していて使えない。

その上ゲームやパソコンをするものだからサウナ状態だ。

それでもこの友人はゲーム目当てなのかブツブツ文句を言いながら

毎日ここにやってくるのだ。


「そろそろ大家に言って直してもらえよー。」

「そうだね。お盆休みが終わったら言うよ。」

えーまじかよーお盆休みまだ始まったばっかだぜーと友人がぼやいているのを

聞きながらふとカレンダーを見た。

「そういや、あきらは実家帰らないのかよ。」

「俺は実家近いからいつでも帰れるしいいんだよ。おまえこそ帰らなくていいのかよ。」

「あーそうだよねー帰るべきだよねー。」

正直帰りたくない。一人暮らしがしたくて東京の大学に行って、働きたくないからといってずるずると院にまできてしまった。一応、奨学金で生活しているので仕送りとかはもらっていないが、将来の目処も立たずゲームしたり動画ばかり見ている。実家に帰れば両親からのこれからどうするの攻撃に始まり、高校の友達の仕事の愚痴攻撃が待っているに違いない。嫌でも現実を突きつけられる環境にわざわざ自分から入り込む勇気なんてとてもじゃないが持ち合わせていなかった。


「まあお前が帰りたくないなら別にいいと思うけどよー。母さんがオレオレ詐欺にひっかからねえぐらいは連絡しとけよー。まあ俺はおまえの買った新作ゲームができるから帰らないほうが好都合なんだけどね〜。」

しばらく黙っていた僕の表情から悟ったのかあきらはそう言ってまたゲームの電源をつけ始めた。


その後、新作ゲームをしばらく堪能したあきらはやっべー夜から彼女とデートだったと言ってそそくさと帰って行った。一人になった僕はふとあきらの言葉を思い出し、携帯を取り出した。

最後に電話したのいつだっけ?院に行くって決めたときだっけ?あのときもとやかく突っ込まれるのがいやで、僕院行くから。お金は奨学金借りるから大丈夫。って言ってそそくさと切った気がする。。


僕はおそるおそる覚えている実家の電話番号を打ち、通話ボタンを押した。

トゥルルートゥルルー

と機械音がなった後、懐かしい声が響いてきた。

「もしもし。」

「ぼくだよぼく。元気にしてた?」

「すいませんがうちには息子なんていませんから。詐欺するならよそでやってもらえる?」

「えっちょっと母ちゃん。さとるだよさとる!息子いないとかひどいわー」

「あーあんたかいな。標準語やから誰かわからんかったわ。いよいよこの家にもオレオレ詐欺がきたんかとおもたわ。」

「母ちゃんなら大丈夫そうだね。。」

「まかせとき!うちはそう簡単に金は盗られんよー。それよりなんやの電話なんかしてきて。なんかあったんか?」

「いや別に特になんもないけど。どうしてるかなーと思って。」

「うちは相変わらずやよ。父ちゃんは最近自転車にはまってよう一人で旅行してるわ。それより、あんた暇なんやったら帰っておいで!ちょうどばあちゃんの7回忌なんよ。あんたおばあちゃん子やったやろ?一緒に墓参りしよ。」

「お盆に墓行ってもばあちゃんおらんのちゃうの?まあいいけど。」

「そっかお盆は家にきてるんやったな〜まあかたいことはええやないの。いないうちに掃除しとくってことで。」

「・・・わかったよ。気が向いたら帰るよ。」

「墓は15日に行くから。それまでに帰っておいでよ。」

「はいはい。でも家帰るかまだ決めたわけじゃないからね。」

「そうか。ほな待ってるから。またね。」

相変わらずやな母ちゃんは。。人の返事も聞かず勝手に決めて勝手に切るなんて。。

僕はそう思い、携帯を投げ捨てベットにダイブした。

あきら。お前の心配なんて僕の家族には必要ないよ。おまえのせいで僕は実家に帰らないといけなくなったじゃないか。。


しばらくベットにうつ伏せになりうなだれていた僕は寝返りをうち仰向けになって天井を見上げた。

ばあちゃんが亡くなってもう丸6年も経つのか。。

僕の祖母は僕が高校3年のとき肺炎で亡くなった。小さい頃から一緒に暮らしており、母も一人っ子、僕も一人っ子であったため、唯一の孫だった僕をとても可愛がってくれた祖母。祖母は僕にとって唯一の理解者であり、心の拠り所であった。その祖母の死は僕にとってかなり衝撃的なことだった。東京の大学を考え始めたのもこの頃からだったと思う。


他人に何言われようとあんたの好きなようにやったらええ。ばあちゃんはいつもあんたの味方やよ。

ふと祖母のいつも言ってくれていた言葉を思い出し僕はベットから立ち上がった。


明日、実家に帰るか!


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