第一章六話「冷たい眼、冷ややかな眼、軽蔑の眼」
地獄。それは死したものが落ちていくとされている場所。そこには拷問のような針地獄などがあり永遠にそれをやらされるという場所だ。一言で言えば「酷い」場所だと言える。
僕の目の前に広がっている光景はその地獄のような場所だった。
数個の家が壊滅状態になり、そこらじゅうから悲鳴が上がる、人が倒れている、死んでいる? どちらにせよ大人が見ても耐えられないこの光景を17歳の少年は、ルカは見てしまった。目の当たりにしてしまった。自分の知っている人たちが泣き叫び、倒れている者もいるのだ。
少年は片膝をついて絶望した...
「もう...おしまいなのかな...」
目の前で巨大なタコが大暴れしている。それに応戦してるイフリート様たちがいる。しかし村民を守りながらだからか攻撃が全然通っていない。 魔獣の進撃は止まらない。
(バカ野郎!何やってんだ!)
姿が見えないがかたりかけてきたのはヴァルだろう。
(だってこんな化け物相手にどうしろって言うんだ!僕は水の魔法がパーソナリティだっていうのにうまく扱えないんだぞ!もちろん他の魔法も!)
(それをカバーするのに俺がいるんだろ!それにこのままじゃお前の幼馴染もあのタコ野郎にやられちまうぞ。)
それを言われて僕はサラがまだ四大精霊のそばにいないことに気が付いた。クレアさんもだ
そうだこんなとこで膝をついてるわけにはいかない。
「ヴァル、行こう。サラを探しに」
「やっと、何をすべきか思い出したか」
そう決意した直後にサラの悲鳴が聞こえてきた。
「!?」
その声がした方向に僕は駆けていく。
そこにはお母さんを抱えるサラがいた。その目の前には魔獣もいた。
魔獣が自分の触手をサラ達に振り下ろそうとする。誰もがもう駄目だと思った。
(ヴァル。やってくれ。)
(いいのか?この村にいられなくなるかもしれないぞ?)
それは僕も思っていたことだった。
(でも..サラを失うのはもっと嫌だ!)
「わかったよ。任せろ」
触手が振り下ろされる。サラ達がつぶされる...その時
タコの全身に赤い、焔をまとった鎖が絡みついた。相当なほどに熱いのか魔獣は大きい呻き声を上げた。
「サラ!クレアさん!早くこっちに!」
そういって僕はサラと一緒にクレアさんを抱えて四大の下へ向かった。
他の村民と四大精霊は空へ浮かぶ黒い青年に釘付けだった。
「なんだあれは?」
「この村のものじゃないぞ」
「見たこともない魔法を使ってるぞ」
「悪魔だ!悪魔が出た!」
そんな村民の騒ぎなど気にせずに悪魔は
「ハッ!誰から呼び出された魔獣か知らないが死ね。」
〔悪魔の焔よ・悪魔ヴァルジュの名の下に・アイツを焼き尽くせ!〕
そうやって空に浮く悪魔が唱えると魔獣を中心にどでかい炎の柱が出来上がった。
「「「!?」」」
炎の柱が消え去るとあの時と同じように塵となって消え去っていた。
「タコ焼きにするには火加減が強すぎたかな?」
空から降りてきたそんなことをいう青年に村民は悪魔だと確信した。
「ありがとうヴァル」
「ふん、あの程度、余裕だ」
そんなやり取りをした僕を見て村民の一人が
「ルカの坊主、その悪魔とはお前さんが契約したのかえ?」
と人を軽蔑するような眼をして言った
「ま...まぁ...」
もうこうなってしまった以上そう答えることしかできなかった。
「悪魔に魂を売るとはこの村の面汚しめ!」
一人がそういった瞬間周りからも似たような罵詈雑言が飛んでくる。
「静まれ!」
四大精霊の一人、イフリートがそう一喝するとすぐに静まった。
「ルカ、お前は村の掟を破った。普通なら処刑ものだが、村民を助けってもらったのも事実だ。明日までにはこの村を出て行ってもらおう。」
「えっ...」
わかってはいたがここまできつく言われるとは思ってなかった。そこでサラに助けを求めようとしてサラを見た...が。
(!?)
「はい。わかりました。明日までに出ていきます。」
そういって僕は家へ向かって走り出した。
「おい!いきなりどうしたって言うんだ!」
ヴァルジュは村民を一睨みしてルカを追った。
家に向かって走るルカは。泣いていた。
(助けたから、助けることができたから、悪魔と契約してると知ってもサラは、サラだけは僕の味方だって信じてたのにっ...)
僕はあの目を一生忘れることができないだろう。いままで10数年間仲良く過ごしてきた幼馴染のあの軽蔑したような、自分を見下すようなあの眼を。
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(『あの時』と形は違えど同じことになってしまった。無念だ...)
「イフリート。そんなに悲しまないで。あなたの決断は間違ってはいないわ。村の長として正しいことをしただけよ。」
しかしそんなことを言ったウンディーネは四大の中で一番悲しんでいた。悔やんでいた。
たった一人の悪魔と契約してしまった少年を村から追い出すことになってしまったことに。
その日はそれから朝まで大雨が降り続いた。誰かが涙が枯れるまで泣き続けているようにも思えた。
さて村から出ることになってしまった少年はこれからどう生きていくのか...