#005「八月八日月曜日」
――修行とはいえ、この猛暑に檀家回りをするんだから、お坊さんも大変だよなぁ。
汗をかくと大変なのは、女性も同じか。メイクが崩れる度に直さなきゃいけないもんなぁ。
あぁ。言われてみれば、最近このオネェ系タレントの名前を聞かなくなったなぁ。まっ、飽和状態だもんな。
ヘェ。食事時間を一日八時間に限定したり、よく噛んで食べるようにしたりすると、減量に効果があるんだ。妹に伝えておこう。
それから、物を入れっぱなしのバッグやポーチの中身を、抜き打ち点検してやろうかなぁ。本人同様、パンパンに膨らんでる中には、絶対、不要なものが詰め込まれてるはずだ。
ただ点検するだけでは嫌がるだろうから、ハイ・ブランドに見えるプチプラっていうコイツを買って釣ってみるか。
*
「お疲れさまです、松本主任」
「お疲れ、木村くん」
「ここにきて寝不足ですか、主任? 僕が言うのも変ですけど、日曜の夜は早く寝たほうがいいですよ。そうそう。枕を良質なものに変えるだけでも、睡眠の質が格段に上がるそうです」
「ありがとう。でも、違うのよ。ちょっと前から頭が痛くて」
「声が響くようなら、大人しくしてますけど?」
「話してるほうが気が紛れて良いわ。ねぇ。満員電車でキツイ匂いの香水を漂わせてる中年には辟易するのは前からけど、最近は柔軟剤の匂いも気になると思わない?」
「そうですね。実験室や保健室に特有の、薬品の匂いがしますね」
「わたしは出産未経験だけど、妊娠中の女性は、そういう匂いに敏感らしいから大変だと思うわ」
「腋臭や加齢臭と同じで、ニオイを発生させている本人は無自覚であることが厄介ですね」
「臭気計を持ち歩く訳にもいかないものね」
「お喋りに騒音計、派手なものに輝度計、猛暑に温度湿度計」
「数値を出したところで、本質的な解決にはならないわね。――他には、どんなトピックがあったのかしら?」
「ここまでのは序の口ですよ。一番のトピックは、誰が何といっても、今日の十五時に行われる天皇陛下のお気持ち表明でしょう。何でも、昭和天皇の崩御の時でさえも平然とアニメを放送していたアノ放送局ですら、緊急特番を組むそうですから」
「玉音放送以来の衝撃ね。やっぱり、生前退位について言及されるのかしら?」
「直截に言ってしまうと政治発言になり、憲法に抵触してしまうので、含みを持たせた表現に留まると予想されているそうです」
「皇室のありかたについて、一から考え直す時期が来たのかもしれないわね」
「そうですね」
「あぁ、ごめん。コメントに困る質問だったわね」
「今回の五輪でキャスターを務めている誰かさんも、コメントが浅いこともあって、登板に疑問の声が挙がってるそうです」
「あぁ、スケートの彼ね。五輪出場経験者には違いないけど、冬季だものね。木村くんは、今回の五輪については、どう思ってる?」
「報道陣用のテントに銃弾が打ち込まれたり、麻薬が流通したりと、何かと深刻なトピックが目立つ今回の五輪ですが、初日の男子水泳で金メダルが獲得されたのは嬉しいですね」
「参加することに意義があるとはいえ、出場したからにはメダルを取ってほしいというのが人情だものね」
「勝つために不正をして、その所為で出場を取り消されたら元も子もありませんからねぇ」
「そうね。選手宣誓と同じね」
「そういえば、高校野球の時期ですね。フェア・プレーの精神に則り、正々堂々と戦ってほしいですね」