#004「八月五日金曜日」
――俳優の結婚に、歌手とモデルの熱愛報道。おめでたいトピックが多いわね。
あの漫画がアニメ化されるんだ。アニメにしても、ドラマや映画にしても、小説や漫画が原作になってるものばかりね。
この暑さだから、ショート・ヘアーが人気になるのは分かるけど、短くしてしまうと変にボリュームが出るし、顔にかかるから嫌なのよねぇ。
そうだ。昨日、組み立て家具が届いたから、旦那を手伝ってあげなきゃ。工具が無かったり、二人で組み立てなきゃいけないなら、事前にそのことを知らせてほしいものだわ。
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「お疲れ、木村くん」
「お疲れさまです、松本主任」
「今日はスニーカーなのね」
「靴屋でサマー・セールをやってたものですから、つい、覗いているうちに買ってしまいました」
「その靴屋さんはきっと、金曜日に私服出社する会社員を狙ってルアーを仕掛けたのね」
「見事に釣られてしまいました。ハハッ」
「今朝のトピックに関係するんだけど、木村くんは小・中学生の頃、習い事や部活動は何をしてた?」
「小学生の頃は算盤と書道を習わされていて、中学生の頃は野球部でした」
「定番ね。ちょっと古風だけど」
「最近の小・中学生は違うんですか?」
「今どきは、英会話とプログラミングが人気みたいよ。どちらにしても、他人に何かを伝える姿勢が身に付くらしいの」
「小さい時から、己をプレゼンテーションする訳ですね?」
「そういうこと。中学時代の部活は、どれくらいの練習頻度だったの?」
「平日は毎日、朝と放課後に練習があって、土曜日も午前中いっぱいは練習してました。月に一度程度、日曜日に試合が入ることもありましたね」
「先輩や顧問の先生の指導は厳しくなかった?」
「スポーツに特化した私学ならともかく、ごく普通の公立校ですから、適当なものですよ。ナァナァで済ませてました」
「試合には勝てなさそうだけど、楽しそうね」
「良い思い出になったのは事実ですね。でも、これが何か?」
「休む暇も無いほど練習を詰め込んだり、指導や上下関係が精神的苦痛を伴うものだったりして、部活動のありかたが問われてるの」
「議論の余地はありそうですけど、そもそも、何で学校で本格的な部活動をやらなきゃいけないんでしょう? 各自が好きなことを習いに行けば良いのに」
「学校での仲間作りならともかく、技術面を期待するなら、プロに教わるほうが良いものね」
「まったく、その通りですね」
「わたしからのトピックは以上よ。今日は仕事終わり、用事はあるかしら?」
「えぇ。また妹に買い物を頼まれました。西瓜と生ハムとプリンが欲しいそうです」
「メニューが浮かばないわ」
「全部まとめて食べる訳じゃありませんよ。この投稿レシピを参考に作れというんですけどね」
「どれどれ? ……涼しげで、美味しそうね」
「ろくに運動もしないくせに人一倍食べるから、メタボ一直線ですよ」
「痩せてても、生活習慣病になるわ。それに、食べるという字は、人を良くすると書くのよ?」
「それでも、出不精の怠け者は困りものですよ。暑いのが駄目なので、夜のイルミネーションのイベントにでも引っ張りますかねぇ」
「何だかんだで妹思いなのね。台風五号の接近とゲリラ豪雨には、充分気をつけて行ってらっしゃい」
「行ってきます。冠水したら、妹だけ泳いで帰らせますよ」