#003「八月四日木曜日」
――ところ構わず騒ぐ人間をウェイ系と言うんだ。二年前までは俺も、馬鹿騒ぎしてたもんなぁ。
洗面所にゴチャゴチャと物を置いてると、水滴が溜まって黴の温床になるのか。妹に、使う物だけ置くように言わないとな。
プールでは伝染病に注意しないといけないし、夏の水場は要チェックだな。
*
「お疲れさまです、松本主任」
「お疲れ、木村くん」
「ニット・ベストは暑くありませんか?」
「体幹を冷やすと風邪を引くもの。特にお腹周りは暖かくしておかないと。――今朝は、どんなトピックがあったの?」
「今朝はライフ・ハック系のトピックばかりでした。方眼紙に青ペンでキー・ワードと具体的な行動をメモすると、作業効率が良いそうです」
「欧米のどこぞ大学で研究されたものかしら?」
「リサーチ先は、外資系のコンサルタント企業のようです」
「どちらにしても、頭でっかちなエリートが考えそうなことね。他には?」
「料理に関しての知恵で、ハンバーグ作りではパン粉ではなくお麩を混ぜる、唐揚げ作りでは鶏肉をコーラに漬ける、卵焼き作りには水を加えると一味違うそうです」
「旦那に伝えておくわ。わたしが台所に立つと嫌がるから」
「専業主夫らしいですね」
「料理器具の場所を変えられると困るらしいの。それに、わたしが料理すると、調味料を使い過ぎたり、食材を半端に余らせたり、量を作りすぎたりするからよ」
「適材適所ですね。物臭でズボラな妹に比べたら、よっぽど良いほうですよ。正月に餅を温めるのに、横着して電子レンジを使って爆発させましたから」
「そこは、さすがにオーブン・トースターを使うわ。それから?」
「あとは、防犯に関してですかねぇ。夜道には気をつけてくださいね、主任。スマート・フォンを通話できる状態にして手に持っておくだけでも、抑止力になるそうです」
「そういうのは、もっと若くてピチピチした子に言うべきだと思うけど?」
「まだまだ若いですよ、主任」
「お世辞は結構よ。まぁ、熟女狙いの性犯罪者もいるみたいだから、気を付けるわ。今朝は、それくらい?」
「新しい都知事に関して、職員は歓迎しているけれども議員は反発しているというトピックもあったんですけど、やめておきます」
「話すのも億劫になるほど、低レベルで幼稚な争いだったのね?」
「えぇ。毎度、馬鹿馬鹿しいお話でした」
「世間が下らないのは、江戸時代から変わらないのね」
「最近、転生がテーマの小説や漫画が増えてますけど、生まれ変わっても同じことで嘆きそうです」
「いつの、どこの、何になっても、悩みは付き物ね」