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#010「八月十五日月曜日」

――この秋冬は、アース・カラーが流行するのか。あたし、こういうくすんだ色合いは似合わないのよねぇ。

シャワーだけでは、背中の汚れが落ちないのか。分かっていても、仕事終わりに湯船に浸かる気になれないのよねぇ。

フゥン。コミケに、あの人気アーティストが来場して、伝説を残していったのね。革命と名乗るだけのことはあるわ。

ヘェ。この洋楽アーティストは、ソロで活動してたんだ。雰囲気がガラッと変わったわね。

  *

「お疲れ、木村くん」

「お疲れさまです、松本主任。心なしか痩せたみたいですけど、ちゃんと食べてますか?」

「食欲が無いのは確かだけど、ちゃんと三食、バランスよく摂取してるわ」

「食べる物が違うんですね。ファスト・フードばかりで、夏痩せとは無縁の生活を送ってる誰かさんとは雲泥の差です」

「ポテトや炭酸飲料ではなくて、サラダやホット・ドリンクと一緒に食べるだけでも違うものよ。セットで買わないことね」

「伝えておきます。あと、お菓子の衝動買いもやめるように言わないと。最近は、包装デザインに趣向を凝らしたものが多いですからねぇ」

「きっと、お洒落で可愛らしいものを、思わずパッケージ買いしてしまうという心理を利用してるのね」

「妹は、その販売戦略にまんまと嵌まってしまってる訳か」

「このまま今朝のトピックに移るわね。あの競泳の怪物が、五輪最多記録更新したそうよ」

「相変わらす、その米国の水泳選手は凄いですよね。今大会で二十三個目の金を獲得したんですよね?」

「メダルを総なめする勢いね。次回からは出場しないみたいだけど、東京五輪では新たな怪物が現れることでしょうね。日本人も負けていられないわ。競歩や近代五種にはメダルが期待されてる選手が多いから、後半も見逃せないところね」

「最後まで目が離せませんね」

「五輪期間中のトピックとして、国民的五人組アイドルの解散報道があったんだけど、間の悪さや事務所の闇深さを感じるものだったわ」

「今年の初めに解散しないと言っておいて、このタイミングで発表するんですからねぇ。ファンは呆れたことでしょう」

「いよいよ、一大帝国の凋落が始まったわね。帝国といえば、超大作スペース・オペラに出演していた、あの俳優が亡くなったというトピックもあったわ」

「それは、僕も知ってます。あの小さなロボットに入って演技してる人間がいるって知ったときは、衝撃でした」

「今なら遠隔操作か、もしくはシー・ジーで合成してしまうところでしょうけど、四十年前には、そこまで精密な動きが出来る機械が作れなかったんでしょうね。あとは、熊本地震で唯一の行方不明者だったあの大学生が、ようやく見つかったというトピックもあったわ」

「少し前に、乗っていた自動車が見つかってましたよね。ご両親は、さぞかし安堵したことでしょうね」

「生きて帰って来なかったのは残念でしょうけど、お盆のこの時期に見つかったのは、運命的なものを感じるわね」

「胡瓜の馬に乗って還って来たんですね。――電話だ」

「それで、茄子の牛に乗って還る訳ね。――出て良いわよ」

「それじゃあ、失礼して。――はい、木村です。今ですか? 休憩中ですけど」

「誰から?」

「天宮さんというかたです。合コンで知り合って。――はい。えっ? 嫌だなぁ、会社の人ですよ。はい。仕事終わりに、今度はこちらから掛けますね。はい。また」

「親しげな様子ね」

「あぁ、すみません。何の話でしたっけ?」

「わたしからは以上よ。今度は、木村くんから聞かせてもらおうかしら。天宮さんについて」

「うっ。弱ったなぁ」


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