#000「八月一日月曜日」
――テロに対する警戒が手薄な日本は、経由地や潜伏場所として格好の場所なのね。いつまでも平和ボケしていられないってことか。
公が当てにならないとすれば、自分の身は、自分で守らないといけないわね。
お化け屋敷に、火祭り。納涼行事は多いけど、不特定多数の人間が集まる場所では、浮かれすぎないようにしないといけないのかぁ。
良い機会だから、旦那と部屋の片付けをしようっと。
あぁ、そうだ。帰りに保湿クリームを買っておかないと。
*
「お疲れ、木村くん」
「お疲れさまです、松本主任」
「早速、今朝のトピックだけど、イスラム系の過激派組織が問題になってるのは知ってるわよね?」
「もちろんです。テロが収まる気配がないので、海外旅行は不安ですね」
「それが、日本国内にいれば安全だとも言えなくなってきてるらしいのよ」
「えぇっ。そうなんですか。そうなると、いよいよ家に引き篭もるしか、身を守る方法がなくなりそうですね」
「篭城作戦ね。せっかく円高で海外に行き易くなったのに、無用心な外出は控えなきゃいけないわね」
「何だか皮肉ですね」
「そういえば、新しいお部屋は決まったの?」
「それが、まだ難航しているんです。良いなぁと思う物件を見つけては、不動産屋に足を運んでるんですけど」
「もう契約済みだから、少し値が張るけどコチラの物件を、と言われるのね?」
「そうです」
「それ、釣り物件よ。まだ硬くて美味しくない魚に、活魚のシールを貼って売ってるようなものね」
「ずるいですね」
「大人は、ずるい生き物だから」
「それは本当に、大人と言えるんですかねぇ」