第7話 カワセミハウジング。
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「ここは永久の森、山神様の納める聖域さ。人の世の理が通じない神域に近い場所なんだよ」
ミノスケ以外の情報源と出会えた旅人はカワセミが落ち着くのを見計ってこの場所について訊ねてみるとそう返事が返ってきた。
「しかし、名のある修験者でもない限り、普通の人間が辿り着けるような場所ではないのだけれど……」
「旅人さんはあの金剛丸さんをもぽいっと倒してしまうほどの猛者さんなのです。さあ、カワセミさんもどうぞです」
ミノスケはそう言うと大事に抱えていたぶよぶよのバスケットボールみたいなのをカワセミに差し出す。
「おお、これは大クヌギの樹液酵母か! すごいな! なんと、本当にあの金剛丸を倒してしまうとは!」
「……いや、倒してないです」
旅人はなんかこの人もだめそうだと思いながらもそう答える。
「……しかし、もう戻った方が良いだろう。このままここに居続けると、キミは二度と帰れなくなってしまうよ」
カワセミは真剣な表情で旅人を見る。樹液酵母を頬張りながら。
「……」
旅人は少し残念な気持ちになった。
しかし、なんとなくここが自分がいて良いような場所ではないという事も理解していた。
「どれ、それではお礼に私がひとっ飛び運んでいってあげようか」
「旅人さんには帰るお家がないのです!」
「――何だとッ! お家がないのかッ!?」
「……え……まあ、はい」
旅人はテンポの速すぎる会話に戸惑いつつもなんとか返事を返した。
「そうか……現世はある意味自然界より厳しい所だからね……」
カワセミは腕を組んで目を閉じる。
「ミノスケのお家はその辺の草むらですが、旅人さんは人間さんなので屋根のあるお家が必要なのです。そこでカワセミさんにお家探しを手伝ってもらおうという事になった訳なのです」
「そうだったのか……」
「そうだったのか?」
寝耳に水の旅人が聞き返すとカワセミの呟きとかぶってしまった。
「ムっ! 仲良しさんです、ミノスケはジェラシーなのです」
「いやー、仲良しだなんてぇ。そんなぁ、なあ」
カワセミは照れ臭そうに頭をかくと旅人の背中をぽんぽんと叩く。
「いや、なあとか言われても正直、別にとしか……」
「よし分かった! キミがそこまで言うなら私ももはや止めはすまい! 最高の新居を見つけに行こうではないか!」
カワセミがそう宣言すると、ミノスケが「おーっ!」と元気良く拳を天に突き上げた。
「……」
旅人は、本人の意思とは無関係に少しずつこの森の住人として迎え入れられてしまっているようだった。