第4話 草むらの安全地帯。
「旅人さんは虫さん捕まえないのですか?」
ミノスケは一通りはしゃぐと改めて旅人に問いかけてきた。
「捕まえないよ」
「でも人間さんは、こうぶーんぶーんって虫さん追いかけ回すですよ?」
ミノスケの虫取り網を振り回すようなジェスチャーに、旅人と呼ばれる事になった青年は苦笑する。
「いや、しないから」
「そうですか、安心したです……」
言葉と裏腹にガックリと肩を落とすミノスケに、旅人は思わずズッコケそうになった。
「なぜそこで落ち込む」
「良かったです。旅人さんが虫さん捕まえない人間さんで……ハァ……」
旅人はさっきまでより自分の意識が大分はっきりしてきているのを感じていた。
ならば最後にもうしばらく、このおかしな相手に付き合ってやるのも悪くないかと身を起こす。
昨日からずっと身を預けていた巨木を支えに立ち上がると軽い目眩を感じたが、体調自体は悪くないようだった。
むしろ以前より体が軽くなっているような気さえして旅人は不思議に思う。
「たまには童心に返ってみるのも悪くないかな」
「虫さん捕まえに行くですか……?」
ミノスケは立ち上がった旅人を見上げて訊ねてくる。
そして旅人が頷くと嬉しそうに顔を綻ばせるが、すぐに怯えたような表情になった。
「そ、それで、虫さん捕まえて、どっ、どうするです?」
「ん? まあ、とりあえず観察とか……?」
「閉じ込める気なのですね! 人間さん捕まえた虫さん閉じ込めるです! 更には干からびさせるのです! そしてそして、あげくの果てにはミイラさんなのです! 他にもこーんな大きな注射器をぐさーっと刺して、は、箱詰めに、ひゃぁーッ!」
ミノスケは自分で言っていて恐くなったのか逃げ出すようにまた草むらに飛び込むとブルブルと身を震わせた。
「なんだかなあ……」
小刻みに震える草むらを見ながら旅人は呟く。
見上げれば天上を覆う若葉を黄色く透かしながら、初夏の木漏れ日が優しく降り注いでいる。