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ミノムシの少女と森の旅人(旧題:眠れない夜の書)  作者: fin
虫たちのさざめく季節。
21/72

第21話 葉っぱを美味しく食べる能力者。

「もしかしたらミノスケがお名前を付けたから旅人さんは葉っぱ好きになってしまったかもしれないのです……」


 外から聞こえてくる豪雨に掻き消されてしまいそうなほど、か細い声でミノスケはそう告げた。


 そういえば出会ったばかりの頃にミノスケが自分の名付け親とか言っていたなと旅人は思い出す。


 ミノスケは青年を旅人呼び、青年はそれを受け入れた。


 旅人はそれを友人にあだ名を付ける程度のものと捉えていたが、どうやら曲がりなりにも神格を得ているミノスケが名を授けるという行為はそれなりに特別な事らしい。


 実際ミノスケやカワセミもこの永久の森の治める山神という存在に名を授けられた事で擬人化したそうだ。


 名を授けた神格の力は弱体化するが、その代償として授けられた者は内なる生命力を高め、一部の能力が受け継がれる。


 低位の神格であるミノスケに名を授けられた旅人は知らぬうちに葉っぱを美味しく食べられるという恐ろしく微妙な特殊能力を授かっていたようだ。


「それは、すごい能力だ……」

 

 旅人はかわいそうなほど身を縮こめているミノスケを見てそう言った。


 正直なところ選べるならもう少しまともな能力が欲しかったが、お陰でこの地で食べていくには困らないし、何より小さく身を縮こめているミノスケの姿に心が痛んだ。

 

「本当にそう思って頂けるですか……?」


「ああ、葉っぱ最高」


 顔色を伺うように上目使いで訊ねてくるミノスケに旅人は小松菜をもりもり食べる事で答えた。


 旅人が美味い美味いと言いながら小松菜を食べ始めると、ミノスケはぽろぽろと涙を零しながらその様子を見つめていた。


 旅人は気まずい沈黙の中何も言えずに無心で小松菜を食べ続ける。


 静かな室内には旅人が葉っぱを咀嚼する音と外から聞こえる雨音だけが響いていた。


 ふいにその中に「じゅるり」と涎をすする音が混じり、ミノスケは思い出したように床に落とした食べかけの小松菜を拾って食べ始めた。


「……たびびろふぁんはやふぁひいのれふ」


 ミノスケが小松菜を頬張りながら何やらもごもご言ってくると旅人は苦笑しながらもほっと胸を撫で下ろした。


「でも、ミノスケは弱体化しちゃったんだろ?」


 ミノスケはごくりと咀嚼していた葉っぱ飲み込む。


「前はたくさん糸を出せたですが、今はあまり出せないのです」


「糸……?」


 ミノスケは、んべっと口から拳大の白い塊を吐き出した。


「うわ、汚なっ!」


「ムッ! 酷いのです旅人さん! これはとても便利なものなのですよ! こうして糸状に伸ばせるだけでなく乾かすと接着効果もあるのです!」


 ミノスケは吐き出した粘着性のある白い塊をびよーんと伸ばしたりこねたりして遊んでいる。


「それか! 乙女の秘密って」


 旅人は部屋の片隅の水がめ指差す。


「ムッ、ばれてしまっては仕方ないのです。ならば旅人さんにも伝授するまでです」


「嫌だよ、そんな変なの出せるようになっても困る」


 すっかりいつもの調子を取り戻したミノスケに旅人は安堵する。そしていつの間にか室内が明るくなっている事に今更ながら気付いた。


 外の様子を見ればあれほど激しく降っていた雨も今は止み、森には穏やかな木漏れ日が差し込んでいた。


「おおー、いつの間にかお日様が出ていたのです」


 ミノスケはそう言うと白い塊をこねながら旅人の横に並んでくる。


「ミノスケと同じだな」


「ん? 何がです?」


 さっきまで泣いていたのに今はにこにこしているミノスケを見て旅人も微笑んだ。


「ごめんな。その変なの出せなくなって……」


「ム! 変なのじゃないです! でもいいのです。代わりにとても大切なお友達ができたのです」


「そっか……」


 雨に濡れた森の緑は日差しを浴びてキラキラと瑞々しい輝きを放っていた。

 遠くの空には大きくて鮮明な虹も出ている。


 地面はぬかるんでいるが、雨上がりの森を散策するのも悪くないなと旅人は考える。

 きっとミノスケは美味しい葉っぱのある場所をたくさん知ってるだろうから今日はそこを案内してもらおう。


 遠くの虹を眺める旅人は午後の予定をそう決めるのだった。














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