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ミノムシの少女と森の旅人(旧題:眠れない夜の書)  作者: fin
虫たちのさざめく季節。
20/72

第20話 草食系男子の謎に迫る。

 ミノスケはぷるぷると小さな体を震わせて雨水を振り落とすと草履を脱いで洞の中へと入ってきた。

 サイズは多少小さかったが旅人とお揃いの藁で編まれた草履だ。

 旅人が洞内では草履を脱いで過ごしていたため、ミノスケやカワセミも遊び来ると履物を脱ぐようになっていた。


 ぽいっと草履を入り口の隅に転がしたミノスケを見て旅人は、そのうち靴棚でも作ってみるかと考える。

 工作はあまり得意ではなかったし釘や工具もなかったが簡単なものならなんとかなるだろうと結論付ける。


 町にいた頃は人を迎え入れられるような部屋に住んだ試しはなかったし、わざわざ訪ねてくれるほど親密な間柄の友人も居なかった。


 今は色んな意味で状況が180度変わってしまったなと旅人は苦笑する。

 

「雨さんは苦手なのです」


 ミノスケが蓑から藁をぶしっと抜いて傘にしていた葉っぱの汚れを丁寧に拭いながらそう言ってくる。

 傘の拭き方だけは丁寧なんだなと旅人が見ていると、ミノスケはそれを真ん中からぺりぺりと千切り一方を差し出してきた。


「おい……」


 あまりにも自然な所作に思わず差し出された葉っぱを受け取ってしまった旅人だがこれをどうしろというのかと戸惑う。


「小松菜さんです。とても美味しいのです」


「ああ、小松菜なのか……大きいな。って傘は、どうするの?」


「帰る時考えるです」


 ミノスケは既に床にちょこんと座り込み、小松菜をむしゃむしゃと食べ始めていた。


 小さいくせに時折豪胆な姿勢をみせるミノスケに、旅人はそのうちミノスケさんとでも呼んでしまいそうだ、などとばかな事を考えるが即座に頭を振って否定した。


 そして自分も難しく考えるのを止めて小松菜を食べる事にした。


 美味いなあと旅人は思う。

 味噌汁に入れるには大きすぎたが調理どころか調味料すらかかっていない新鮮そのものの小松菜は甘みがあって後味も爽やかだった。


 町にいた頃は別段ベジタリアンという訳でもなかったはずなのだがと旅人は今更ながら不思議に思う。


「そのうちバッタにでもなるんだろうか……」


 小松菜を口にしながら誰にともなく呟くと旅人はまた外の様子を眺めた。


 巨木から伸びる枝と葉に遮られ洞の中にまで雨水が吹き込んでくるような事はなかったが、雨は一層激しさを増し嵐の様相を呈していた。


「おおー、人間さんにはバッタさんに変身する強者さんがいるです! まさか旅人さんだったですね!」


「いや、違うから」


 なんでそんなの知ってるんだと呆れながらも旅人は否定する。


「人間は生の葉っぱなんて食べないんだよ、普通は――」


 旅人は遠くの空にゴロゴロと稲妻が光るのを見て言葉を止めた。


「……?」


 旅人が再び室内に視線を戻すとミノスケがぽとりと食べていた小松菜を床に落とすのが見えた。

 そしてじっと俯いて固まってしまったように床に落ちた小松菜を見つめている。


「どうした?」


 もしかして雷が苦手なのだろうか。

 固まってしまったミノスケを心配した旅人はそう声をかける。


「なな、なんでもないのです! へ、へぇー、そ、そうなのですか、人間さんは葉っぱを食べないですか、へぇー、あっ! そんな事より見て下さい! 今日はとても良いお天気なので、す……」


 外はまだ昼前だと言うのに真っ暗な空から強い風を纏った豪雨が降り注いでいる。

 旅人はちらりとその様子を見てから、どこがだよと視線でミノスケに訴えかける。


「……ミノスケのせいかも知れないのです」


 ミノスケはしょんぼりとうな垂れてそう言った。 


「ん? 何が――」


 また雷の音が聞こえた。

 旅人はさっきより近いなと微かな不安を覚える。

 

「旅人さんが葉っぱ好きになってしまったのは、ミノスケのせいかも……知れないのです……」


 ミノスケの悲しげな表情を、ピカッと近くに落ちた稲光が轟音と共に照らした。












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