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第17話 葉っぱのふんどし。

「皆様、お待たせいたしましたな」


 ヒゲのカイコが数匹の芋虫たちを引き連れてよちよちとやってきた。胸脚には畳んだ葉っぱのようなものを抱えている。


「……」


 旅人がカイコの手にしたものに僅かに嫌な気配を感じていると、頭上から白い糸に吊るされた葉っぱの着流しが降りてきた。


「ほんとに葉っぱだ……」


 それは文字通りよもぎ色をした着流しで、全身に伸びる金色の葉脈が上品な模様を型作っている。


 触れてみると、さらさらの手触りでとても柔らかい。にも関わらず伸縮性としっかりとした剛性もあり旅人はこの地の謎テクノロジーに改めて舌を巻く。


「ミノスケ様、こちらもご覧下さい」


 旅人と一緒に着流しをぺたぺたと触っていたミノスケにカイコは手にしていた畳んだ葉っぱを差し出す。


「むむ! 葉っぱのふんどしさんなのです! これはとても良いものなのです!」


 ミノスケがカイコから受け取った葉っぱを広げると、それは半分に切った葉っぱに腰紐を取り付けたような形状をしていた。


「ミノスケ様ご所望の腰みのを、下着という形でアレンジした次第にございます」


「さすがプロさんなのです!」


「もったいなきお言葉にございます」


「……」


 旅人がミノスケとカイコのやり取りにを白い目を向けていると、またすーっと頭上から筒状のカーテンでが下りてきた。


「ささ、旅人殿どうぞ。早速お着替え下さい」


 促されるまま試着室へ入る旅人は、もはや慣れたもので、芋虫たちへの嫌悪感も薄れたためされるがままに着替えを済ませる。

 さすがに下着を葉っぱのふんどしに取り替えられる際には抵抗したが、カイコの糸攻撃に身動きできぬまま着替えさせられた。


 葉っぱの着流しは想像以上に快適な着心地だった。裏はタオル地のような肌触りで素肌にも心地よく、手足を動かすとぴったりと体にフィットして着崩れするような事もなかった。


 光沢のある深緑色をした腰帯も頑丈な造りで腰周りに適度な圧迫感があり、息苦しさより寧ろ安心感を与えてくれている。


 一つどうしようもなく残念だった事は、最も心地よい肌触りと快適性、そして安心感を与えてくれていたのが無理やり着けさせられた葉っぱのふんどしだった事だろう。


「ぐっ……快適です……」


 着心地を訊ねてきたカイコに旅人は悔しげにそう答えた。


「それは大変ようございました」


 カイコは嬉しそうにヒゲを揺らすと着流しの機能性について語る。


 服とは生き物なので環境の変化に合わせて暑い日は涼しく寒い日には暖かくなるとか、破れたり千切れたりしても水に浸けて日光に当てておけばすぐに元通りの元気な姿になるとか、汗を吸って着用者の体に馴染んでいくと身体能力を向上させる補助効果まであるとか。


 さすがに眉唾だろうと旅人はほとんど聞き流していたがその着心地の良さだけは間違いなくは本物だった。


 カイコが満足げにうなずくとまたすーっと試着室は頭上へと上っていった。


 葉っぱの着流しに身を包んだ旅人が姿を現すと、周囲からは「キィーキィー」と芋虫たちの歓声のような鳴き声と短い胸脚によるペチペチという拍手の音が響いた。


「なんだこれ……」


「旅人殿カッコいいですと、皆申しております」


 接待係のヒゲのない芋虫がそう通訳してくれた。


「ああ、そう……」


「とてもお似合いなのです旅人さん。ミノスケはふんどしさん姿も見たいのです」


「やだよ……」


 旅人がなんの儀式だこれはと困惑していると、ずっと飲んでいたのであろう酔っ払ったカワセミが文字通りの千鳥足でやってきた。


「まー、あれだよたびびろくん、同じものをたべてえ、おなじものをきてさあ、そしたらさあ、もお、なかまなんだよ、うん、でもわらしはもーすこし青いほうがかっこいいとおもうけろぉ……」


 酔っ払いのカワセミが何を言いたいのか旅人にはさっぱり分からなかったが、芋虫たちの小さな歓声とつたない拍手の音はどこか暖みがあって、旅人はなんだか照れくさい気持ちになるのだった。







次話で第1部の終わりです。




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