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第16話 蚕との邂逅。

 採寸を終えた旅人はミノスケとカワセミと共に桑の巨木の根元に用意されたシルクのソファへと座らされた。

 屋外に置いておくにはあまりにも不釣合いな高級感のあるソファだった。


「歓迎会をしてくれるのです」 


 旅人が座り心地を確かめていると隣に座ったミノスケがそう説明してくれた。


 見れば件の芋虫たちがよちよちと桑の実やら木の器に入ったどろどろした液体やらを運びながら集まってきている。


 旅人は良く分からない流れに戸惑いながらも一匹の芋虫から手渡されたどろどろした液体を恐る恐る口にしてみる。


「リキュールだ……」


「おや、旅人君もいける口のようだね」


 カワセミは酒好きなのかごくごくとその液体を美味そうに飲んでいる。


 それは果実を発酵させた甘いお酒だった。旅人はそれほど酒好きではなかったが、人のいないこの土地で飲めるなどとは思ってもみなかったため軽い衝撃を覚える。どろどろした見た目のわりには甘すぎず、後味も喉越しも悪くなかった。


 木の器に盛られた葉っぱや砕いた木の実などの次々と運ばれてくる料理は、人の暮らしの食事とは比べようもないほど粗末なものだったが、どれも素朴な味わいで口にする度に旅人は自身の中で生命力が溢れてくるのを感じた。


「今急ピッチで作業しておりますので、完成するまでしばらくおくつろぎ下さい」


 畏まった姿勢でそう言ってきたのはカイコと似たようなシルクハットを被ったヒゲのない芋虫だ。


 言葉が喋れるため、カイコが服飾製作に集中する間の接待係を申し付かったらしい。


 旅人はこの森の生き物は全て喋れるものだとばかり思っていたがそうではないようだった。

 辺りを取り囲む芋虫たちの鳴き声は旅人には「キーキー」としか聞こえない。


 接待係の話によると、徳を積んだり長く生きた者だけが他の種族とも喋れるようになるとの事だった。


 更に徳を積んでいくと妖精化したり、ミノスケやカワセミのように神格を得て擬人化するらしい。


 旅人には正直よく分からなかったが、ずいぶんと安っぽい神様だなあとミノスケとカワセミを見る。


 カワセミは近くの芋虫に絡みながら果実酒を飲み続けていたし、ミノスケはいつも通りひたすら葉っぱを食べていた。


「ミノスケ様は我ら虫族の、とりわけ成体前の芋虫科から神格化された尊きお方。我らの誇りなのです」


 熱っぽくそう語る接待係にミノスケも「そうなのです」と胸を張って乗じた。


 旅人はミノスケが金剛丸がいなくなったのを見計らってせせこましく樹液を集めていた姿を思い出して首を捻る。


「金剛丸さんも神格さんなのです。あの方は剛の者なので擬人化する事なくカブトムシさんの姿のまま生きる道を選んだのです」


「へぇ、金剛丸さんカッコいいな……」


「ムっ! なぜそうなるです!」


 ミノスケはそう言うと葉っぱを頬張っていた頬を更に膨らませる。


 周囲を見渡すと集まってきた芋虫たちが小さな胸脚に抱えた桑の葉を齧りながら楽しげに旅人たちの様子を見守っていた。


 最初は群がる芋虫たちに気持ち悪さを感じていた旅人だったが、見慣れてきたのかよく見ると芋虫たちも愛嬌があってなんだか可愛いかもしれないなあとそんな風に思うのだった。







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