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第13話 水草と言霊と。

「たびびろふぁん、むぐっ。カワセミさんが水草を採ってきてくれたのです」


 ミノスケはなにやら頬張っていたものを飲み込むと旅人に声をかける。

 めだか号としばらく遊んでいた旅人が川岸に戻ると平たい石の上に座ってミノスケとカワセミが水草を食べているところだった。


「先に始めさせてもらっているよ」


 カワセミもそう言うと水草の葉を千切って口に運んだ。


 もみの木のような形状をしたその水草には手のひらほどの大きさの葉がわさわさと茂っている。

 葉も茎も半透明の緑色をしていて旅人にはそれが巨大なグミのようにも見えた。


「喋るめだかに会ったんだ……」


 旅人は二人の間に腰を下ろすと誰にともなく呟いた。

 そして自分でも何を言っているのだろうと思い首を捻る。


「川のギャングさんと仲良しになるなんてさすが旅人さんなのです」


 ミノスケが水草をむしゃむしゃ頬張りながらそう言うとカワセミも後に続く。


「ああ、あのめだか号が従える事ができるのは川の主くらいのものだと思っていたが……」


 カワセミの説明によるとめだか号は夜の大河を暴走したり、川岸の小石を割って回ったりと時折そういうよく分からない悪さをするらしい。

 

「ああ、そう……」


 わりとどうでもいい悪さの内容に旅人は生返事を返した。

 それよりも人の言葉を喋っている事の方が遥かに不条理に感じていたからだ。


「言葉? 私達が使っているのは言霊の一種だよ」


「えっ……!?」


 カワセミの言葉に旅人は狼狽する。

 口に出してしていない心の内を読まれたからだ。


 そんな旅人を気にする事なくカワセミは続ける。


「言葉というのは同種族間でしか通じないものと思われがちだけど、相手にしっかり伝える意識さえ持てればどんな相手とも言葉を交わす事ができるんだよ。もっと言えば言葉に出さない相手の意識さえ読み取る事もできるんだ」


「へ、へぇ……」


 言霊というのはネガティブな事ばかり口にすると不幸が寄ってくるとかそういった類いのあれだろうかと旅人は考える。

 旅人も町にいた頃に実践した事があったが永久の森へと辿り着いた経緯を考えれば結果はお察しだった。

 

 しかし永久の森ではその言霊を用いて相手に意思を伝えたり読み取ったりする事ができるらしい。


「人間たちもかつては大地や精霊の声を聞く事ができたんだけど、今は色々なものが進化しすぎて忘れてしまったんだろうね……」


 カワセミは最後に寂しそうにそう言った。

 旅人には正直よく分からない話だったが心の内まで読まれるのは少し嫌だなと思っていた。


「安心したまえ旅人君。口に出さない言葉まで聞けるのは私のように感受性豊かな者だけだ。かく言う私も全ての心の声を聞ける訳ではないけどね」


「ミノスケにも旅人さんの気持ちが分かるのですよ! 旅人さんは今お腹がペコペコなのです! 急いで水草を食べるのです!」


「……」

 

 今朝食べた丸いので未だ胸焼けしていた旅人はミノスケの的外れな指摘に呆れながらも内心少しほっとした。

 そしてカワセミからも勧められて水草を一つ口にする。


「美味しい……」


 水草が口の中で弾けると爽やかな水分が口いっぱいに広がっていった。

 味も臭いもほとんどなかったが微かに酸味があり旅人にはそれが果実のようにも感じられた。


「――旅人くんは人間だったのか~」


 突然に声に旅人が振り返れば先ほど川で別れためだか号が水草の端にあぐあぐと齧り付いていた。

 石の上にべったりとうつ伏せになっているその姿はめだかというよりハゼのようだ。


「……お前、大丈夫なの?」


 呆気に取られつつも旅人は丘に上がっためだか号に問いかける。


「何が~?」


「いや、エラ呼吸とか色々……」


「やっぱり水の中の方が気持ちいいよね~」


「……ああ、そう」


 太陽がめだか号の背にさんさんと照りつけていたが全く気にしていないようだった。

 

「川のギャングか……」


 のほほんとした様子で水草に齧り付いている姿からはギャング要素が一切感じられなかった。


「ぼくは一匹狼なのさ~」


「……ああ、そう」


 めだか号が「ふふ~ん」と鼻を鳴らすと少なくとも狼ではないだろうと旅人は思う。


「本当に気に入られているみたいだね。やはり旅人君は只者ではないようだ……」


 旅人とめだか号のやり取りを見ていたカワセミは腕を組むとそう言った。


「ムムムです! これはきっとあれなのです! 旅人さんがたんぽぽ畑の人狩りクマさんと雌雄を決する日も近いのです!」


「……」


 小さな拳を握り締めなにやら闘志を燃やしている様子のミノスケに、旅人はたんぽぽ畑にだけは絶対近付くまいと強く心に誓うのであった。







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