存在
とある日の帰り道。私は彼女と共に帰り道を歩いていた。彼女は笑みを浮かべ、しかし奥の見えない感情を持っていた。そして海に見える夕焼けを見ながらこう私に問いかけた。
「人間は、死んじゃったら存在って消えちゃうのかなあ」
「難しい質問だね。君は、どう思うんだい?」
「質問に質問で返さないでよー。あと私の名前は未来!ちゃんとした名前があるからそれで呼んで、翼」
そうだ、名前で呼べと言われていたんだった。未来。忘れていた。いかんせん友達というものを持ったことはなく、名前呼びなどもう必要のないものだと思っていた。だが……まあ良いだろう。悪くない。
「それで? どう思うの?」
「おそらく消えないよ、永遠に」
「え、何それ超怖いんですけど」
「怖くないよ。その人としては存在出来なくなるかもしれないけど、魂は、心は、永遠に存在してる」
「やっぱりそうなのかなあ。いやね? 今日担任の先生がいきなり、死んだら寝たみたいに意識がなくなるって言ってたの。それでそのまま、自分という存在を確認できないまま、終わっちゃう。なんか心に引っ掛かっちゃってさあ」
未来は何がおかしいのかクスリと笑った。
「それも一理あるじゃない? でも、やっぱり認めたくなかった。生きていた証は、その存在は、私は残したいし、せっかく生きてきたのに最期がそんななのもったいない」
「確かにな」
「だから翼がそう言ってくれて嬉しかった」
夕日が完全に沈むのに、そう時間はかからないらしい。さっきはあんなに顔を見せていたのに、もう見えなくなっていた。
隣にいた未来は「沈んだねー」といいながら子供のようにピョコピョコ跳んでいる。
「あはは、また哲学的な質問しちゃうけど。生まれ変わったら、何になりたい?」
「はー? なんだろう……人間かな」
「やっぱりそうなるよね。私は星になりたい」
「星? また何で」
「この世にある星ってさ、地球にある砂粒の数よりも多いんでしょう? 私はその一員になりたい。星になれば、拒むことも拒まれることも感情もないから良いかなって思うの」
「でも寿命長い気がする」
「いいじゃん。それでこの世の行く末を見るの。それはきっと美しいはず」
「この世の壊れる様子なんてみたくないよ」
「そうかな? だって最期の瞬間に存在できるんだよ。良くない?」
私は思わず天を仰いだ。一番星。金星が輝いて見える。果たして、星に感情はあるのだろうか。笑う? 怒る? それとも、ちっぽけな私たちをみてせせら笑っているのだろうか。
いや、もしかしたら楽しんでいるかもしれない。人間は、あまりにも愚かで、自己中心だから。
「変な質問して、ごめんね」
「どうしてき……未来が謝らなければならない? 悪いことはしていない」
「いま君って言おうとしたよね? もういいや。ははっ、だって答えは出てるのに、きっとこれから分かるのに質問したから」
「別にいい」
「じゃあ、そろそろお別れだね」
ちょうど十字路になったとき、未来はそう言った。唐突に放たれたその言葉は、別の意味も含まれているように思えた。
しかしあえて気にせず、私は答えた。
「ああ、また明日な」
「うん、またね」
彼女に、あ、いや未来に、私の思いは伝わったのだろうか。
明日は待たなくとも、否応なしに必ず来る。来てしまう。
それがどんなに辛くとも。同じ日が続こうとも。
命が終わらなければ、の話だが。
「よお、翼。未来知らねー?」
「知らないよ。さっき行っちゃった」
「おう。どこにだ?」
「知らない。図書館にでもいったのかも」
「そうか。サンキューな。」
私は、友達なんか要らない。そう、あまりにも酷くて、幸せなど存在しないから。でも。
何故か、未来だけは救いたいって思った。同じ境遇だからか。きっとそうだろう。
どうしてこの世には、サンドバッグにならなければいけない人が存在するのだろう。
未来はまた明日ねとは言わなかった。
存在って、何。
私は決して後ろを振り返らず、前だけを見て足を進めた。