第1桜
「お、あれ。竹取輝夜ちゃんじゃん」
友人の言葉に、夜桜徹は彼女へ視線を向けた。
彼女の周りには、男が蟻の大群のように並んでいる。カメラを構えているやつや、サインを求めているやつ。さすがは『現代のかぐや姫』。芸能界のアイドルでもないのに、この有様だ。
確かに、学園のアイドルであろう。長い黒髪の前髪がパッツン気味で、まっすぐの瞳。背も平均より少し低めで、凛としている。顔も整っているし、細い足は、黒いタイツで隠されているが、きっと人形のように白いのだろう。噂によれば、アイドル社から、オファーを何回も受けているらしい。そんな彼女の彼氏になりたい男が、いつもつきまとっていた。
その一方で、恐ろしいのは女子である。彼女は男ばかりにモテる。ある女子の彼氏は、その女子より輝夜さんの方がいいと興味を持ち出してしまった。それに気づいた女子は、激怒する。そこから、その話を周りの女子に広げ、輝夜さんを滅ぼしにかかる。この前も、彼女の靴に画鋲が入れられているのを見たことがあった。最近は男子も彼女を守っているので、少しは安心である。
そんな時でも、彼女は不安の表情を浮かべない。速やかに画鋲を落とし、何事もなかったかのように履き歩く。
彼女は、彼女の一つ一つの部分が美しく、それで美しい外見を作っているのではない。一つ一つの部分が調和しあって竹取輝夜という人物を作り出しているのだ。
竹取輝夜という女子は、人気であり不思議なのである。




