三章 回帰と喜び
ーどうやら助かったらしい。
当たり前だが、初めに思ったことはそのことだった。
周りを見回し、自分の心臓が鼓動を刻んでいることを確認し安堵する。
ここは恐らく学校の保健室。白い壁やカーテンがかかっている。
さっきまでは屋上にいたため誰かぎ見つけて運んでくれたのか。それとも始めからここに"あっち"から吐き出されたのか。
そこで再び脳裏に蘇るあの光景。
死ぬという選択。それを選んだ末路。これから先、絶対に忘れることのない恐怖。
それは、僕の戒めとなるのだろう。
ー絶対に死ぬという選択をするな。
そう言っているのだろう。
しかし、今は命が在る事に喜びを持とう。
「目は覚めたかい?」
唐突に声をかけられ不意に身構える。
「天照…」
そこにいたのは、僕の主である神様。
「ごめんね、さっきは。天界のルールだったんだ。ー地上の生物の意見を絶対尊守。
そう決められてたんだよ。だから、君の意見を通し、死ぬということを強制したのさ」
天照の言っていることは、はっきりとは分からなかった。しかし、死ぬという選択が尊守されて死にかけたことだけは分かった。天照が天界のルールに従っただけだということも理解できた。
「僕こそ悪かった。軽い気持ちで死ぬなんて言って」
天照が私的理由で選択を使用。それも責任があるかもしれないが、今回の一件は僕の軽い言葉。それが原因だった。
しかしそうなると次の疑問が挙がる。
「でもなんで助かったんだ…?」
僕の意見は尊守され、死んだ。それが結末だったはずだ。
「地上の生物の意見は絶対尊守。取り消すという言葉が尊守されたんだと思うよ」
「あぁ…」
つまりそういうこと。取り消すという言葉が死ぬという選択を取り消させたらしい。
「それでなんだけどね…」
そこで天照が口に出そうとしている事。それが瞬時に嫌でも頭に浮かんだ。
「何でも言う事を聞く。そう言ったからね。
"絶対尊守"だからね。守らせてもらうよ?」
さっき叫んだ言葉。それが天照の都合によくあると助かる。そういう理由で尊守ということにしてるのだろう。
「お前…それ私的理由だろ…」
まぁいつもだったらすぐに取り消すと言ってるだろう。でも天照がこの場を和ませようとしているように思えて。こうして"非"日常に回帰できたことがただただ嬉しくて。
「まぁ、取り消さないけどな」
こうしてまた、新しい日々が始まっていく。