序章 最低、最悪の選択肢
僕は私立中学校に通う極々一般的な中学生。
正しくは"一般的な中学生だった"。
どんな理由でこんなことに巻き込まれたのか自分で理解することはできない。というより誰にも理解できないと思う。
もはや、ファンタジー。
もはや、超常現象。
誰かに話したところで、「そんな夢でも見たの?病院行く?」と聞かれるレベル。
何故中学三年生の秋、こんな季節に空から
巫女服を着た神様を名乗るロリっ子が"空から落ちてくる"のか。
何故その子に僕の未来が"託されてしまった"のか。
誰にも信じてもらえないし
自分でも信じたくない。
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中学生も残り三ヶ月。そんな受験シーズンの真っ只中。その日の朝が、
「ほら、起きないか!朝だぞ」
小煩い神様を名乗る僕の"主"とともにやってきた。
「そんなに声出さなくても起きてるよ…」
寝ぼけながら身体を起こす。
時計を見ると、朝五時。普通の中学生が起きる時間ではない。特に用事がある訳でもないのにこの時間に起きてしまうのは、主のせいである。
じっとその主の顔を睨む僕に対して一言。
「何でそんな不機嫌そうな顔で僕を見るんだい?早朝変顔大会かい?」
堪忍袋の緒が切れるというのはこういうことを言うのだろう。毎日切れてるが。
「お前のせいだよ!毎朝毎朝、こんな時間に部屋のドア蹴っ飛ばし侵入してきやがって!僕にはプライバシーがないのか!」
「ない!」
ここまで言い切られると逆に心地よい。
「僕と君は、主従関係だろう?隠し事の一つもあったらいけないんだ。所謂、監視だよ」
どうやら、神様には常識が通じないらしい。
この非常識、ロリ巫女、僕っ子、超行動派の神様は天照大御神というらしい。といっても天照本人が言っているだけなので確証は一切ない。しかし、空から落ちてきたこと、時々重力無視でプカプカ浮いていることを考えると、認めざるを得ない。
そして僕。この間までは普通の中学生だった僕は、高咲 智樹という。まさに名前までよくある名前。
そんな僕が何故天照のような神様と主従関係になったのか。
それもとても信じたくない理由だった。
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それは僕が初めて天照と出会った日。天照が落ちてきた日のこと。
この事は、詳しく後々話すことにするが、
天照を受け止めた僕に開口一声。天照はこう言い放った。
「君を助けに来た!」
どこのRPGだよ、と。しかも僕はヒロインかよ、と。
話を聞くに、
ー僕はあまりに多くの不運にこれから見舞われる。
ー僕の命を狙う厄介な連中が天界にいる。
とかで。
そんな僕の人生、将来、未来を変えるため、人生の選択を選ばせてあげるという。
僕はこの時思った。
これは、主人公ルートきたな。
これで、僕は勝ち組なのか。
しかし、そのように自分の想像に陶酔する僕に天照は残酷な言葉を口に紡いだ。
「考えられる最悪、最低の人生の選択肢を選ぶことになるケドね」
いつの間にか信じていた天照の言葉に絶望した瞬間であった。
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その後、死ぬよりマシ。死にたくないでしょという天照の言葉に説得され、何故か主従関係を結ばされた(この時、主の方が僕だと思っていた)。
更に、「それなら僕のこれからの人生を教えてくれ」と言えば、
「天界のルールでそれはできない」
と言われた。
僕に救いの神様は降りないらしい。
その後、君の主なんだから宿を貸してくれと言われ、一ヶ月ほど経ち、今に至る。
「選択肢がどうとか言ってたのにあれから一度も無いよな。どうなってんの?」
「その時があるのさ。今はその時ではないだけだよ」
つまり今のところ天照は僕の家で無銭飲食状態である。ちなみに僕がご飯を作っている訳でもない。
更に親に許可をとり、部屋も貸した。貸したが、冒頭のように毎朝僕の部屋に突っ込んでくる。もはや、神様とかいうより迷惑な居候と言った方がしっくりくる。
と、そんな回想を含め話をする間に学校へ行く準備が整い、時計を見てみると丁度良い時間である。靴をはき、玄関のドアに手を掛ける。
「それじゃ、学校行って来ます」
「行ってくるよ」
早出勤で父、母ともにいない家に向かい、挨拶をする。そしてドアをあけ…
「ちょっと待て。何故一緒に行こうとしている」
「学校に用事があってね」
ロリ巫女が中学校に用事。異常な事。異常な事だが面倒なので無視をする。
まさか、学校での用事で会う人が神様だとは思うまい。