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第八部・夫の誘拐編

合成生物キメラの夫が、一人で散歩に出てしまった夜。

「ぱぁぱ」

夫の不在に気付き、急に起き出す長女。

「パパは夜のお散歩。悪い人よね……ホラ、パパみたいに悪い人になりたくなかったら、さっさと寝るの」

「ぱぁぱー!」

「どうして怒るの……あ、そうか、パパは人じゃなくて合成生物キメラだったわ」

「……まぁま」

次女も起き出した。



いくらあやしても「ぱぁぱー!」と騒ぐ長女。

「しょうがないわね……じゃあ、一緒にパパ迎えに行こうかしら?」

ようやく笑顔の花が咲く。

「まぁま」

と、次女も私の袖を引っ張る。

はいはい、次女も一緒にね。

「おっぱい」

――急に目覚めた長男は、家の柱にくくりつけて、っと。



長女と次女を連れ、家を飛び出すあたし。夫が言っていたコンビニに辿り着くが、夫の姿は無い。

「まぁま!」

と、次女が何かを見つけた。

なんと、夫が大事にしていた大玉!

夫がこれを捨てる筈が無い……まさか事件に巻き込まれたの!?

――って、何で大玉なんか持って来たのあの人。



とある施設。真っ暗な一室で、今一度電話越しに、誰かと誰かの会話が交わされる――。

目標ターゲットは捕獲したか?」

「ええ、檻にも入れました」

「人目につかぬよう慎重に運べ」

「それは無理です」

「何……まさか誰かに見られ……?」

「ええ。さっきから電車の中で見られっ放しです」

「馬鹿! なぜ交通手段を鉄道にした!?」

「交通費安く済ませようと思って……!」



行方不明の夫を探すあたしと娘たち。

とは言え、何も手掛かりが無い……。

「まぁまー!」

と、また何かを見つけた次女。

これは……夫が好きなマーブルチョコが、道なりに落ちている!

「勿体無い! 30分ルールでまだ食べれる筈」

「……まぁま」

不服そうな娘。何か違った?

あ、3秒ルール?



マーブルチョコの跡を辿ると駅に着く。

「電車に乗ったのかしら……」

となると、どこへ向ったか見当もつかない。

お手上げか……。

と、アナウンスが。

「ただ今お隣池ノ上駅ホームにて、合成生物キメラが暴れているとのこと。そのため、列車運休しております」

「あら、運休ならもう諦めて帰ろうかしら」

「……まぁま」



檻に入れられ、電車で何処かへ運ばれようとしていた合成生物キメラの私。

途中駅で扉が開いた瞬間勢いよく檻を倒して破壊し、逃げ出そうとしたが。

「誰か捕まえてください!」

「痴漢か!?」

「うわっ、変な格好している! 間違い無く痴漢だ!」

誤解され、追われの身に。

……理不尽だ!



タクシーで隣駅へ向うあたし、斉藤さいとうミヨコと娘たち。

直ぐに到着して降りようとするが、

「734円です」

電車だと120円なのに、その6倍もしちゃうのね……。

「カードは?」

「使えますよ」

「じゃあコレで」

見せると、運転手は困惑した表情を浮かべる。

「……え、これ……クレジット、じゃないですよね……」

「えっ、知らないの、これ。」

「ただの赤いカードじゃ……」

「何言ってるの、レッドカードよ。これ出されたら即退場でしょ」

「え、えぇっと……我々、別にサッカーやってるわけじゃないですし……」

「まぁまっ!(駄目よママ、この人ツッコミ下手過ぎ!)」



オレはピエロ。だがそれは仮の姿。裏ではある方に仕え、工作員として働いている。

今、駅員のお陰で合成生物キメラの再捕獲に成功。

「事務所へ来なさい」

「その必要は無い。オレが警察へ突き出すから」

「取り調べは駅で行う決まりです」

「いや、それは困る…オレが連れていかねば」

「え、あんたこのキメラの保護者かなにか? なら、あんたも一緒に」

ややこしいことになった。



あたし、斉藤さいとうミヨコの渾身のボケが運転手に通じず、渋々タクシー代を払って駅構内へ。

夫である合成生物キメラの居場所を駅員に訊くと、駅の事務所で取り調べ中だと言う。

「痴漢に問われているようで……」

「夫が痴漢するわけない! そんなこと言うのはどこの女よ!」

怒って事務所に入ると、夫と一緒にいたのは男性。

「あなた……同性相手に痴漢したの?」

「そこで疑うんですか奥さん」



オレはピエロ。だがそれは仮の姿で、本来はある方に仕える工作員。

折角、合成生物キメラを捕獲したのに、やつの妻が取り戻しにきた。

こうなりゃ……!

と、隠し持つナイフを合成生物キメラの首に近づける。

「こいつの命が惜しければ、誰も近寄るな!」

悲鳴を上げる駅員ら。

「しまった、痴漢はこの男か!」

「つまり合成生物キメラは被害者? 凄い性癖だな…」

やかましい。



あたしは斉藤さいとうミヨコ。

今、夫が変質者の人質にされてしまっている。

「くそぉおお! 折角苦労して奪い返しに来たのに、コンチクショオォォ!!」

というのはあたしの台詞。

「……まぁま」

またも次女からのツッコミ。何か間違えたかしら?

「あ、夫は合成生物キメラだから人質じゃなくてキメラ質よね♪」

「……まぁまっ!!」



合成生物キメラを人質に駅を飛び出したオレ、ピエロ。または工作員。

「近くのバーまで走れ。そこに車を用意している」

ボスの連絡を頼りに最寄りのバーへ。

が、車は無い。店を間違えた?

電話すると、

「そこにあるだろう、自転車が」

自転車!?

「不満か? 経費削減だ」

「どちらにせよニケツは無理でしょ!!」



あたしは斉藤さいとうミヨコ。

夫を人質に駅を飛び出した変質者を追うも、直ぐに見失う。

夫が何か手掛かりを残してくれていないだろうか……。

と、道端に落ちているマーブルチョコの筒。

そこに文字が。

〝私のことは心配するな。必ず自力で帰ってみせる〟

あなたったら……。

手がTレックスなのにまだ字が書けるなんて。



サーカス団の仲間と思っていたピエロに捕まった、合成生物キメラの私。

奴が逃走を図ろうとしたところ、ボスが用意したのは何と粗末なことに自転車。

これは逃げるチャンス!

……と思ったら、

「仕方ない。キメラは後輪に括り付けるか」

え?

……ギャアアァ! 背中が擦れる! もの凄い漕ぐのね、この人!



あたし、斉藤さいとうミヨコの夫がさらわれた。

妻として何をすべきか。〝自力で帰ってみせる〟という言葉……それを信じ、ただ待つしかないのか。

「……まぁま」

次女が袖を引っ張る。

そうだ……あたしはこの子達を守らないと。

「わかった……家へ帰るわ」


――いや警察に届けろよ、と心の中で呟く次女であった。

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