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第六部・サーカス編

「何? プレゼントって」

ついニヤけつつ、私は妻に差し出す。

「こ、これ……チケット?」

「ワンギョ(明日サーカスの初舞台なんだ)」

「宝石かと思った」

グサリ。

「ご、ごめん……でも子どもたちも期待外れみたい」

と、子どもらのリアクションに更なる衝撃。

チケットをむしゃむしゃ食べている――おやつじゃないっ!



もう直ぐサーカスが始まる。

「トップは君だ。威勢よく火を吹いてくれよ!」

団長に軽く肩を叩かれ、私は早速火を噴いて応えようと……。

あれ、変だ、火が出ない!?

「おい、まさかエネルギー切れ……!? 早く変身を解け! もう3分経つぞ!」

だから某宇宙ヒーローじゃないってば!



サーカスでトップに見せる炎が出せなくなり、ピンチの私。

「ガソリン飲ませるか?」

と、ピエロ。

「ワンギョ(私の技は、そういう芸じゃない!)」

「じゃあ、火薬食う?」

「ギョギョエ(殺す気か!)」

「へぇ。俺ら意外と言葉通じるね」

ハッ、そう言えば。

……って感動してる場合か!



「彼、ガソリンや火薬は嫌だと言ってますよ」

団長に報告してくれたピエロ。

私の言葉は本当に通じていたようだ……やはり感動せずにはいられない。

「彼の言葉がわかるのか!凄いな君は……」

「ええ、最近ロ●ッタストーンで勉強してるもので」

えっ、私の言葉って習えるの!?



サーカスのトップを飾る火が吹けなくなった私。

「そうだ、思いついた!」

と副団長が道具箱から取り出したものは、緑色の野菜。何コレ、ピーマン?

「ハラペーニョっていう、トウガラシの一種さ」

「ギョッ(ちょ……漫画じゃないんですから!)」

「いいから試してみなさい」

もぐっ……ゴバーッ!!

「わぁ、本当に出た♪」

い、嫌だこんな体質!



あたしは斉藤さいとうミヨコ。今日は、夫の初舞台。

舞台がスポットライトに照らされる。

「いよいよ、パパの登場ね!」

子どもたちに告げると、

「ぱぁぱ」

と長女。

……まさか今、喋ったの!?

「まぁま」

続いて次女。つい涙が溢れる……こんなにも感動的だなんて!

「おっぱい」

と、最後に長男が呟いたのは聞かなかったことに。



「皆さま、お越し戴きありがとうございます!」

燕尾服えんびふくの男性が舞台に現れた。

団長かしら。

「ホラ、パパ出てくるわよ」

子ども達に言うと、

「まず最初は、口から火を吹く宇宙ヒーローの登場です!」

「あら違ったみたい。帰りましょう」

「……まぁま」

袖を引っ張る次女。



サーカスの舞台に立った合成生物キメラの私。

「彼が炎を吹く瞬間をご覧あれ!」

と団長が指差し。

てか、もう出てるし。

止めどなくじゃんじゃん出ててるし。

自分でも熱いし。

……あ、今テント引火したし。

急に燃え盛ってるし。

悲鳴上がったし。

団員皆慌ててるし。

どうしたらいいの私。



合成生物キメラの私が吹いた炎がテントに燃え移り、大混乱のサーカス場。

「皆さん落ち着いて!」

そう言われても次々と狭い出口に押し寄せる人々。

必死に整列させようとする団員らを、私も加勢しようとするが。

「ギャーッ! 火種がこっちに来る!」

しまった、まだ止まってなかった!



炎に巻かれるサーカス場から、何とか客全員を逃がす事に成功。

私もようやく口から出続けていた火が止まり、妻との再会を果たす。

「ワンギョ(皆無事か!?)」

「ええ、子ども達も無事よ」

おぉ良かった……長女も次女も、猫も。

……って、また長男が猫と入れ替わってる!!



炎に巻かれるサーカス場で、取り残された長男を探す私。

崩れかけた足場、もうもうと立ち上る煙と熱気。

キメラの体でなくとも進むのは困難を極めた筈。

が、諦めるものか。

私は口を開き、声を大に――

と、重大な問題に気づく。

何を叫べばいい……長男、まだ名付けてないのに!



火事の中。長男を探すも、名前が無いので呼ぶことも出来ない私。無力さに思わず涙が零れる。

「ワンギョ……!」

はは、泣き声まで合成生物キメラの泣き声になってしまったか……。

って、待てよ。

別に呼ぶのが名前である必要なんてなくね?

それにどうせ私、「ワンギョ」しか喋れなくね?



火事の中で長男を探す私。

「ワンギョッ、ギョーッ(パパだ! 長男、返事してくれ!!)」

ありったけの声で叫ぶ。

きっと気づいてくれる筈……!

「だぁー!」

と、赤ん坊の声。

間違いない、長男だ!

すぐさま声のした方向を向き――

凍り付く私。

長男、なぜ大砲の中にいるの……?



大砲の中に入り込んでしまった長男を救い出そうとする合成生物キメラの私。

必死に手を伸ばすが、如何いかせんTレックスの手。

短くて届かない。

思いっきり身を乗り出してみると……。

スポッ!

あ、や、やば……抜けな――

と、また妙な音が。

ジジジジジ……。

こ、これは……導火線が燃える音!?



火事の中、長男を探しに行った夫が戻らない。あたしの胸が不安でざわめく。

と、突然テントの中で爆発音。

な、何!?

「おい、何か飛び出してきた!」

「砲弾? いや違う。あれは……!」

不意に溢れ出る涙。間違い無い。

長男を抱えて空を飛ぶ夫の姿は、宇宙ヒーローそのものだった。



火事で焼け落ちたサーカス場。

怪我人は出なかったが、折角のチャリティイベントの筈が……そして、合成生物キメラの私の初舞台が台無しだ。

しょげ返るサーカス団一同。

と、我々の前に立つお客さん達。

罵声を浴びせられると思ったら、次々とお金を差し出される。

「チャリティイベント、だからね」

「いいもの見せて貰ったよ」

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