表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

第三部・オーディション編

サーカスのオーディション用の衣装を買おうと妻に提案。

「熊の体のあなたに合うサイズ、どこで売ってるの?」

そうか、オーダーメイドじゃなきゃ厳しいかもな。

「と言うか……前々から疑問だったんだけど」

と、妻。

「会社用のスーツは、なぜ熊の体になった直後でも着れたの?」

それは私も疑問だ。



今日はサーカスのオーディション。

見栄え良くバリっとした特注品の燕尾服えんびふくを身につけるが、不服そうな妻。

「それ、支配人の格好?」

やっぱりピエロかな……慌てて着替える。

「似合わない。いっそ、こうしちゃったら」

バリっと服を破かれ、私は裸に。

これってまさか……猛獣役?



俺の名は否衛路ぴえろまさお。世界一のピエロになるため、幼い頃から芸を仕込まれてきた。

そして今日は、誰にも負けられないサーカスのオーディション。

昨日までの稽古も万全、メイクも完璧。

どんな奴でもかかってこい!

……と、俺より一つ前の演技者。

顔は猫で体は熊、足は象で手はTレックス。

芸を始めると火種も無いのに口から火を噴いている。

……こいつ、勝てる気がしねェ!



私の名は斉藤さいとうたかし。今年の夏期休暇中、なぜか合成生物キメラに変身した。

今日はサーカスのオーディション。

実技では、火を吹く技が評判を勝ち得、見事面接へと進んだ。

しかし、言葉は通じるのか……

「家族構成は?」

「ワンギョウ」

「以前は何してたの?」

「ギョギョエ」

「なるほど……天涯孤独の身で、派遣切り……泣かせる話だ」

いや、そんなこと言ってませんが。



サーカスの面接にて、言葉が通じないながらも団長に気に入られた合成生物キメラの私。

いよいよ採用決定かと思いきや、副団長の「待った」の声。

「一つ確認だが、あんた一体何の生き物なんだ?」

ええぇ! 今更!?

すると団長、

「宇宙ヒーローだと言っておるよ」

いや、言ってないです。



サーカスの面接を終えた合成生物キメラの私。

帰り道にオーディションで見かけたピエロと出くわす。

私の後の出番で玉乗りをしていたな……落ち込んだ表情だが不合格だったのか。

巧いのに惜しかった……あの玉。

あの玉のことを考えると私の頭……

あたま……あのたま……玉……

いや落ちつけ、私。



俺の名は否衛路ぴえろまさお。

オーディションは結局、猫面の化け物の圧勝。

俺の十八番の玉乗りは不評に終わった。

「ワンギョ」

そこへ猫面の化け物。

慰めてくれるのか?

「あなた、いい化け物なんですね……」

「ギョエェ(君の玉が欲しい)」

「ありがとう……お気持、嬉しいです……」

「ワンギョ(玉とじゃれたい。玉くれ、玉)」



あたしの名は斉藤さいとうミヨコ。今年の夏、夫が合成生物キメラに変身した。

今日は夫のオーディションの日。帰宅した夫へ、早速結果を尋ねる。

だが夫は、持ち帰った玉にじゃれるのに夢中。

まるで猫。

腹が立ち、麺棒を床に叩きつけるあたし。

「折角料理しながら待ってたのに、あなたったら!」

と、突然麺棒に飛びつく夫。

口に咥えて私に差し出し、尻尾を振る。

……そう、どっちもイケる口なのね。



翌日。

合成生物キメラの私へ、サーカスの団長から電話が。

「君を雇うことに決めたよ」

喜び勇んでサーカス場へ。

が。

「君は誰かね? 普通のサラリーマンなど呼んではおらん」

気づくと私は元の人間に……そんな!


――というところで目が覚めた。

「あなた、良かったわ。まだ合成生物キメラよ」

……本当に良いのかコレ?



朝食の最中。

「あなたが寝てる間電話があったわ」

「……ワンギョ(サーカス団から!?)」

「違うわ。お宅に宇宙ヒーローいます? なんて変なこと聞くから切っちゃった」

へぇ、宇宙ヒーロー……

カチャン。

「箸落ちたわよ。ドジね」

「ギョエェ(違う、それサーカス団からだ!)」



「あなたが宇宙ヒーロー? おっかしー!」

ケラケラ笑う妻。

「ワンギョ(向こうが勝手に思い込んだんだ……)」

「ヒーローってこんな熊みたいなずんぐりした体?」

「ギョエェ(む……いいじゃないか別に……!)」

「でも、ヒーローは食事中に箸落としたりしないわ」

ごめんなさい。



サーカス団の元へ向かうと、副団長と団長の言い合う姿。

「彼、電話に出なかったのだが……」

「ヒーローは敵が多いから、自分の居場所を安易に言わないのだ」

「では電話に出た女性は……天涯孤独の筈……」

「愛人だ。孤独なヒーローには付きものだ」

何やら誤解が酷くなっていた。



「だが本当に彼を入れるのか? ヒーローを見せ物にしていいのか!」

団長に異議を唱える副団長。

「当然だ! 彼を使えば沢山の客が集まる筈!」

な、何だって! ひょっとして騙されたのか!?

……しかし、ふと我に返る。

私はヒーローじゃない、ただの合成生物キメラ

騙してるのは私だ!



「だが本当に彼を入れるのか? ヒーローを見せ物にしていいのか!」

団長に異議を唱えるワタクシは副団長。

「当然だ! 彼を使えば沢山の客が集まる筈!」

「結局金目当てか!」

「無論! 金も得られなければ、震災復興支援公演の意味が無い!」

ガタッと物音。

振り返るとそこに、涙を流す例の宇宙ヒーローが。



震災復興支援チャリティサーカス団に入団を決めた合成生物キメラの私。

「いいのか?君のギャラは出ないかもしれないが……」

「ギョ(構いません!)」

帰宅し、妻に報告。

「良かったわね。晩ご飯にしましょう」

……が。

出されたのは乾パン1枚。

「ウチも復興支援必要なの、知ってた?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ