第十四部・完結編
朝起きて鏡を見ると、普通のサラリーマンだった。
「あれっ、元に戻った!?」
驚いて出した声も人間の男性の声だ。
死んだと思ったら……まさか今までの一連の出来事は、全部夢だった?
「あなた……どうしちゃったの!? 合成生物のクセに人間みたいな格好で!」
え、何この妻の反応……。
◇
「おや、勇者のお目覚めにゃ?」
と我が家の台所で目玉焼きを食べつつ空々しい台詞を吐くのは、1号!
「お前……夢の筈じゃ」
「死にかけて記憶飛んだかにゃ? あの後、イカ頭男の弟に戻して貰ったじゃにゃいか」
なるほど!
これで今まで通りの生活が……。
「あなた、朝食の乾パンよ。暫く会社休んでたから、家計が苦しくて」
「 」
◇
働かざる者食うべからず。誘拐や戦いで休んでた分の稼ぎを取り戻すべく、会社へ出勤する。
「よっ、久しぶり!」
が、皆きょとんとした顔。
「誰?」
「えっ……斎藤だけど」
「斎藤!? 斎藤は猫顔で熊体で象足のペットだ! お前みたいな冴えないサラリーマンじゃねぇ!」
ペットかよ……。
◇
結局職場を追い出され、仕方なくサーカス場へ。
元の私の姿は知られてないが、今はメンバーに空きがある筈。
新人として再スタートと思ったが……。
「残念だが人手は足りてる」
「3号じゃにゃいか! ボクの活躍見に来てくれたのにゃ?」
1号! テメエ私のポジション取るんじゃねぇ!
◇
私が元の人間に戻ったと聞き、駆けつけた両親。
「父さん、母さん! 遂に戻ったよ」
が、怪訝な顔をする両親。まさか……。
「お前、そんなに冴えない顔だったか?」
「記憶に残ってたより随分地味だし、それに……」
ヤメテそれ以上言われると人間辞めたくなるっ!!
◇
「どうです? 人間に戻った気分は」
翌日イカ頭男の弟がやって来た。
「あまり良くないよ……会社も入れないしサーカス団にも戻れない。オマケに子ども達も寄り付かないし……」
「お気に召さなかったので。ならば……」
突然、口元に被せられる布。
催眠薬……まさか、また誘拐……ガクッ。
◇
「次はどう改造しますか?」
ここはどこかの薄暗い手術室。イカ頭男弟の声が響く。
寝台に横たわるのは、嘗て合成生物に変身させられた男。
「そうだな、猫の顔は悪くなかった。他はもっと色々混ぜてもいい。案外順応してたから」
そう返すのは死んだ筈のイカ頭男?
――否、女性の声。
◇
「行ってらっしゃい、あなた!」
今日も合成生物の私は仕事へ行く。
猫の顔、猿の尻尾、熊の胴、象の足、Tレックスの手、更に鳥の羽を蝋で固めて作ったイカロスの翼と、よく見かける博士の禿げ上がった頭皮を得た彼は、今や会社にサーカス、ヒーロー業も副業に抱え、毎日大忙しだ。
「ワンギョ(結局こんなオチかよ!)」
(完)
エピローグ
「(完)……と」
弟の蘇生改造で生き返ったイカ頭の男は筆を置く。
「『合成生物に変身した夫』完結おめでとう」
「どうも」
「貴方を悪役にして悪かったわ」
「小説が書ければ問題無いです。しかし奥さん、貴女が真の黒幕だと誰が気付いたでしょう?」
「読者を裏切るのは基本よ」




