第十部・喋る白猫編
児童虐待なんて誤解、早く解いて長男を取り戻さなきゃ。
あたし、斉藤ミヨコが家を出ようとすると、
「これは罠にゃ!」
玄関に、喋る白猫が。
「ヤツらはあなたを留守にさせ、他の子らも奪う気にゃ!」
「あなた、長男?」
驚く猫。
「何を言う……ボクはただの猫……」
「嘘!長男でしょ!」
「何故そうにゃる!?」
◇
「ともかく、娘さん達も一緒に来るにゃ! ボクがやつらの場所まで案内するにゃ!」
と、あたし斉藤ミヨコに向かって言う白猫。
「信用出来ない……喋る猫の話なんて……」
「……人間なら信用するかにゃ?」
次の瞬間、姿を変える猫。
いや、顔は猫のまま、体だけが人間のようになる。
某有名アニメ映画に出てくる猫の紳士のように……いや、全然違う。逞しく、男らしい筋肉質の体、小麦色の肌。
そして腰には、赤い褌。
「……余計信用出来ない!」
◇
息子を人質に取られた合成生物の私。
くそ、万事休すか……!?
「大変です、ボス! 我々のアジトへ合成生物の妻たちが!」
と、元ピエロ。何だって!?
「なぜバレた!?」
「猫頭で八頭身の褌男に連れられて……!」
「ワンギョ(って、どんな変態だよそれ!)」
「お前が言うのかその台詞」
◇
「ここがやつらのアジトにゃ!」
喋る八頭身の猫顔褌男に、あたし斉藤ミヨコと娘達が連れてこられた場所。
「……本当に、ここ?」
そこは想像もしなかったと言えば嘘になるが、改めてここだと言われるとやはり驚くしかない場所だった。
「覚悟はいいかにゃ!?」
そして私たちは足を進める――
保健所の中へ。
◇
合成生物の私の前で、仮面の男が言う。
「狼狽えるな。助けが来たところで我々には人質がいる」
確かに私達が逃れられねば意味は無い!
……と、仮面の男の背後から作業着姿の男が。
新たな敵!?
「また妙な仮面被って何遊んでるだ? その大トカゲも檻から出すなと言ったべ?」
「保健所所長!?」
え、保健所?
◇
「そげなことばっかだから税金泥棒さ言われるだ! 公務員の責任持って仕事しろ!」
所長から小突かれる仮面の男。
その拍子に仮面が剥がれ落ちると……何と下から現れたのは、イカの頭!
「遂にバレたか……これが我が輩の正体だ!」
「うわっ、イカ臭! 取れないようにしっかり付けとけって言ったべ?」
また仮面を戻された。
◇
あたし、斉藤ミヨコたちが保健所に入って飛び込んできたのは、作業着の男が仮面の男を小突き続ける光景。
小突くたびに仮面が剥がれてぬるぬるのイカの頭が出てくるが、相当臭うのか、何度も仮面を付け直されている。
他に、トカゲ頭の男、牢の中の猫頭で熊の体の合成生物と、まるで仮装大会のような様子に思わずため息が……。
「って、牢にいるのはあんたの旦那だにゃ!」
◇
「遂に来たか!」
と、所長の攻撃を跳ね除け立ち上がるイカ頭の男。
その視界の先に、合成生物である私の妻と二人の娘、そして謎の褌姿の八頭身猫顔男!?
「待っていたぞ、ふんどしニャイダー1号!」
えーっ、あいつそんな名前なの!?
「ボクも仲間を助けに来たにゃ! 3号!」
えーっ、私も一員なの!?
◇
猫頭八頭身褌男、もといふんどしニャイダーが叫ぶ。
「行くにゃ、2号4号5号!」
「えっ……あたしたち!?」
「まあま!」
「ぱあぱ!」
更に意味不明な展開に……。
「待ちなさい! あたしが2号以下ってどういうこと!? レディーファーストで、あたしは1号でしょ!」
やはり妻の突っ込むポイントはどこかズレていた。
◇
「わかったにゃ! 今回だけ1号譲るにゃ!」
妻に小突かれ負けを認めたふんどしニャイダー……次回もあるのか?
「これで変身するにゃ!」
と、取り出したのは赤、青、黄色の褌。
「こんなの女子が履けるわけないでしょ!」
妻の拳がふんどしニャイダーの顔面にヒット!
◇
「ボス、あいつらが揉めていてるうちに人質を連れて逃げましょう!」
と耳打ちする手下のオレに、ボス。
「よく聞こえない」
え……イカの耳ってどこ?
「この菱形の部分だ」
「へぇ、ヒレじゃなかったんですね! 勉強になります!」
「おい……こっちはもう準備出来たにゃ!」
と叫ぶ我らが敵……しまった!




