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第九部・夫の秘密編

気がつくと、合成生物キメラの私は牢屋の中。

「ようやくお目覚めか」

外には私をさらった元ピエロ。

「ワンギョ(私をどうする気だ……!?)」

「落ちつけ。先ずは食事だ」

差し出されたパンを見、涙を零す私。

「どうした、惨めな気分になったか」

「ギョ(いや、無職時代、暫く乾パンしか食べさせて貰えなくて……それよりはマシだったから、逆に嬉しくて)」



猿ぐつわに手錠までかけられ、牢を出された合成生物キメラの私。

連れて行かれた先は、仮面に黒いマントの男のもと。

「遂に会えたな3号」

3号……?

「ググッ……(一体何のことだ?)」

「むっ、こいつは今何を言った?」

「トイレ行きたい! 漏れそう! ……と言っています」

何故そう解釈した。



オレはピエロ、もとい、工作員。

「トイレなら仕方ない」

ボスの好意でキメラをトイレへ連れていくことに。

手錠のままだとやり辛いだろうと、それだけ外す。

コイツ手は短いし大丈夫……と思っていると、伸びた爪で猿ぐつわを外した!

「貴様、爪を……何と不衛生な、ちゃんと切っておけよ!」

「ワンギョ(私の妻みたいなこと言うな)」



猿ぐつわを外した合成生物キメラの私。

もはやこっちのものと盛大に炎を吐く。

相手が怯んだ隙に逃亡だ!

……が。

「待て、お前は秘密を知りたくないのか!」

そう言えば仮面の男が3号とか……立ち止まる私に再び手錠が。

「素直で結構。では教えるぞ、ポリンキーが三角形の秘密を」

だ、騙されたっ!



あたしは斉藤さいとうミヨコ。

家に帰り、娘たちと一緒に布団に入るもなかなか寝付けない。

やはり夫のことが心配なのだ。

頭の中でずっと、夫の声が聞こえる。

――私のことは心配するな、きっと帰ってくる。愛しているよ、君の……。

「おっぱい」

――長男、今晩は柱に括り付けられたまま寝なさいね。お休み。



「誰がポリンキーの秘密を教えると言った!」

合成生物キメラの私と元ピエロが戻るなり、怒鳴る仮面の男。

「我が輩が教えるのは、お前が3号と呼ばれる所以ゆえんだ」

「ググッ……(そうだ……それを知りたかったんだ)」

「むっ、こいつは今何と言った?」

「ポリンキーの秘密の方がいい……と言っています」

少し黙れ元ピエロ。



あたしは斉藤さいとうミヨコ。

目覚めると長男がいなくなっていた。

刃物でスッパリと切られたロープ……間違い無い、さらわれたんだ!

と、電話が鳴る。まさか犯人から身代金の要求!?

恐る恐る受話器を取ると……

「子ども虐待防止センターです。昨晩お宅のお子さんが虐待されていると通報を受けまして――」



子ども虐待防止センターからの電話を切り、絶望に震えるあたし、斉藤さいとうミヨコ。

長男は彼らが預かっていると言う。

それよりも、私が虐待!?

……と、裾を引っ張る次女。長女も私にしがみ付いてくる。

私が、こんなに可愛い子たちを虐待なんか……!

「おっぱい」

――今、一瞬殺意が湧いたけど、空耳?



私は斉藤さいとうたかし。平凡なサラリーマンだった筈が、ある日、合成生物キメラに変身してしまった。

そして今、遂に仮面の男の口から、ある秘密が語られ出す。

「我が輩は、ある組織に頼まれ、動物実験を開始した……異なる動物同士を組み合わせ、新たな生命を生み出す、つまり合成生物キメラの製造だよ……」

やはり私の変身はそれと関係が!?

「……というのは、私が最近執筆中の小説の話だが」

違うんかい!



仮面の男の話は二時間にわたった。

「……つまり、小説のネタのために私はお前を捕えたのだ!」

が、結論は結局そこへ至った。

「ググ……(もう帰らせて)」

「むっ、こいつは今何と言った?」

「腹減ったからポリンキー買ってくる。外に出して……と言ってます」

もうその訳でいいわ。



「残念だが、外には出さん。小説のネタとして、私に一生その身を捧げるのだ!」

勝手な台詞を吐く仮面の男に、遂に怒り心頭の私。

喉の奥に溜めた炎で猿ぐつわを燃やした。

「ワンギョ!」

「こいつ、まだ抵抗を……!?」

「舌火傷した! 熱い! って言ってます」

……それは事実だ。



「が、これでも抵抗出来るか?」

仮面の男が指を鳴らす。

「お呼びですか」

と、背後に巨大なトカゲの顔。

手に、我が息子を抱えている!

「我らの技術が生み出したリザードマンだ。貴様の家に侵入させた」

「ワンギョ(小説のネタ、彼で足りるんじゃ?)」

「む、何と言った?」

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