居場所がない(千文字お題小説)
お借りしたお題は「「身に覚え」をテーマに作品を書く。ただし作品中に「身に覚え」の文言を出さない。1000~20000文字」です。
律子はスチャラカなOLである。
いつものように庶務課へ行き、消耗品類をがっさりいただこうと思っていた。
「もう、誰よ、こんなに散らかして!」
庶務課のお局様が激怒していた。他の女子社員は皆小動物のように震えている。
そればかりではない。課長まで新聞で顔を隠していて、しかもその新聞が震えていた。
(今はまずい)
律子は静かに回れ右をした。
「誰ですか、給湯室を水浸しにしたのは!?」
課のフロアに戻ると、実はかなり潔癖症の出島蘭子が仁王立ちで凄んでいた。
須坂は何故か目を上げない。書類に目を通すフリをしている。
そして、生まれ立ての山羊みたいに小刻みに震えていた。
(何かトラウマでもあるのかな?)
蘭子と須坂が密かに付き合っているのを知っている律子はニヤリとしたが、ここにもいてはいけないと野生の勘が働いたので、そっと抜け出した。
「もう嫌だあ、どうしてトイレットペーパーが床に散乱してるのよ!?」
最後の逃げ場である女子トイレで同期の香が叫んでいる。その声に律子はピクンとした。
(ここもダメか)
律子は行き場を失い、もうあそこしかないと考え、喫煙室に向かった。
彼女は煙草を吸う訳ではないが、今は避難場所がそこしかないのだ。
「誰だ、昨日の掃除当番は!? 灰皿が吸殻でいっぱいのままじゃないか!」
梶部係長がイライラしているのがアクリル板の向こうに見えた。
律子はまたしても回れ右をしてそこから離れた。
「律子さん!」
すると廊下の向こうから庶務課のお局様がノッシノッシと歩いて来た。
律子は小さく悲鳴を上げ、角を曲がった。
「律子!」
するとそこには香が腕組みをして立ち塞がっていた。
「ひい!」
律子は踵を返して更に別方向に逃亡を図った。
「律子先輩!」
ところがそちらには蘭子が鬼の形相で待っていた。
「ひいん!」
律子は階段を駆け下りてしぶとく逃走した。
「りったん」
踊り場に恋人の藤崎が立っていた。
(最後の避難場所!)
律子は涙目で藤崎に抱きついた。
「藤崎君、助けてェ」
甘えた声でクネクネしながら懇願したが、
「ダメだよ、りったん。戻って皆さんに謝罪しないと」
すでに香からのメールで事情を知っていた藤崎は律子を笑顔で突き放し、現行犯逮捕した犯人を連行するように階段を昇った。
「それから、僕のシャンプー倒してこぼしたの、りったんだよね?」
藤崎がダメ押しの質問をした。
「はい。申し訳ありません」
ズボラも大概にしないとそのうち痛い目に遭うと思う律子であった。
という訳でした。