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魔女様は粘着質

作者: めいふぁん

すっきりしないかもしれません。

葉が青々と輝き、小鳥が可愛らしい声で囀ずる、人里離れた森の奥にその家はあった。

木でできた小さな家なのだが、その姿はいびつである。

あちこちに小さな出窓がついており、それ事態は可愛らしいのだが、問題は煙突だ。

四方八方、という言葉がこれほど似合うものもないであろうと思われるほどの何本もの煙突が家のあちこちからのびているのだ。

その何本もの煙突からは、紫や緑、桃色に橙といったカラフルな煙がもうもうと立ち上っており、甘い匂いから果てはとんでもない刺激臭までを家の周囲に撒き散らしている。

この臭いのせいか、そこにだけ何の生き物も姿を見せない。


そんなただならぬ家から、子どもの声が響いてきた。


「師匠!西の魔女様に届けるお薬はこれだけですか?」


「あぁ、そうだ、たのんだよ。お代はもう貰ってあるから、渡すだけでいいからね。本当はアロウを行かせたくはないんだけど、私はまだ作らなければいけない薬があるし、あの魔女がどうしてもアロウをよこせと煩いんだよ。アロウ、変なことされないうちに帰るんだよ。薬を渡したら無駄口叩かず、寄り道せず、すぐにだよ。」


子どもの声に続いて、ハスキーなバリトンボイスが響く。妙齢の男性のようで、どうやらそのアロウという子どもにお使いを頼んでいるようだが、内容にいささかの疑問を感じる。



「はい、師匠!行ってきます!」



バタン!という音とともに小さな体に似合わない大きな籠を抱えた少女が元気よく扉から飛び出してきた。

柔らかな鳶色の髪をぴょんぴょんと跳ねさせ、子ども特有の少し丸い顔に、くりくりとした琥珀色の目とちょこんとした鼻と唇がバランス良く配置されている。

長袖の紺色のローブ、先の尖った同色の靴といった地味な服装にも関わらず、彼女の活発そうな雰囲気をみじんも損なっていない。

彼女の名前はアロウ・エマニエル。10歳を迎えたばかりの魔女見習いである。

もともとは森を抜けた所にある小さな村のパン職人の家の次女として生を受けたのだが、洗礼で魔力持ちということが発覚したため、7歳の頃から魔法の修行をするためにこの森に住む魔法使いのもとに弟子入りをしていた。

魔力を持って生まれる子どもは少なく、もし生まれると村や町総出で祝われ、その後魔法を学ぶために魔法使いに弟子入りをさせる。

そうして魔法使いに育った暁には、国に仕えて国防にあてられるか、弟子をとって教育に専念するか、といった仕事につく。

どちらも国から法外な給料が支払われるため、その子の将来は安泰であるとされる。

アロウも例に漏れず、魔法使いの弟子になり、日々魔法の腕を磨いているのだ。


アロウの師はオルタナ・アレス・ラ・コルトと言い、国でも屈指の実力者である。

彼はおおよそ見た目では20代半ばといったところの美丈夫ではあるが、実際の年齢は謎である。

メガネをかけ、おかしな液体を鍋でぐつぐつやりながら流れ落ちる銀髪を耳にかける仕草はなんとも色気に満ち満ちているが、いかんせん鍋がまずい。

色んな色彩が混じり合い、もはや何色とも呼べぬ代物を嬉々としてビンに詰めるその姿はさながらマッド・サイエンティスト。

職業から言うとそう間違ったものではないのだろうが。


そんな師をアロウは尊敬していた。

作っている薬の色はともかく効果は抜群だし、ちょちょい、と魔法をかければ師に出来ぬことなど何もない。

いつか師のような魔法使いになりたい、それがアロウの夢であった。



さて、話しを戻すが、10歳という彼女がもつには大きすぎる籠の中には大きさも形もとりどりのビンがところ狭しと詰め込まれており、その重量は彼女の体重を優に超えているように見える。

それにも関わらず、ひょい、と軽々と持ち上げており、さらにそれを片手に提げると扉の横に立て掛けてあるホウキを手に取った。

少々古いもののように思われるが、大切に扱われているようで、丁寧に手入れがされているそのホウキは、少女が手に取った瞬間から微かに光と風をまとい、見るものを魅了する何かを放っていた。

これはオルタナが藁や木に魔法をかけながら作った代物で、行き先を命令すればどこへなりとも飛んでいってくれる優れものだ。

もちろん乗っている本人が気まぐれに自分で操作することもできる。


「今日はちょっと遠いけど、よろしくね。」


アロウは優しくホウキに話しかけると、ホウキにまたがり、片手で柄をしっかりと握ると、とん、と地面を蹴った。

すると、そのホウキはアロウを乗せたままふわりと空に浮かび上がり、彼女の示す方に向かって颯爽と進み始めた。


彼女が目指すのは西の魔女こと、エイヴィー・メル・ラ・ヴォルトのもとである。

妖艶な肉体をぴっちりとしたドレスに押し込め、ゴージャスな金髪の巻き毛に緑の瞳、そして厚めのセクシーな唇の横にはこれまたセクシーなほくろを持つ20代半ばの官能美女。

優美な手で手招きされれば、男なんぞイチコロである。

さて、この魔女であるが、実はアロウが大のお気に入りなのだ。

オルタナの所に出向いたときに、笑顔でお出迎えをしてくれた可愛い少女、アロウ。

その琥珀色の目がキラキラと光っており、まだ幼く丸い顔にえくぼを浮かべて笑いかけてきたいたいけな少女に、可愛いもの好きなエイヴィーは一瞬でノックアウトされ、それ以降オルタナの代わりにアロウの師となろうと躍起になってアロウを勧誘&誘惑している。

その度にオルタナに追い返されるのだが。


オルタナは可愛い弟子がこの魔女の毒牙にかけられぬよう必死に守っているのだ。

それというのも、何を隠そうこの魔女・・・




実は魔女ではないのだ。



魔法で姿を変えてはいるが、れっきとした男性なのである。




性的嗜好はヘテロであるが、いかんせん趣味が女装の変態である。


オルタナは気づいていた。

エイヴィーがアロウを見る眼が獣のようにギラギラとしていることに。

隙あらば喰ってやると言わんばかりの姿から、アロウの行く末が果てしなく暗いものとなるということに。

それゆえ弟子を守るために常に気をつけてはいるのだが、あの狡猾な魔女は自分の手が離せないときに限って薬品を頼み、アロウが自分の元に来るようにしむけている。


アロウが無事に帰ってくることを神に祈るオルタナであった。




「あぁ、もうすぐアロウがくるわ、楽しみねぇ・・・うふふ」


こちらは西の果ての湖の近くに居を構える西の魔女宅。

可愛い獲物が自分のもとにやってくるのを手ぐすね引いてまちうける女郎蜘蛛が巣食う魔窟である。

その女郎蜘蛛―エンヴィーは妖艶極まりない笑みを浮かべてうっとりと言葉を漏らした。


今日はどういう手を使ってあの子を誘惑しようか?

そろそろ自分の本当の姿を見せてもいいかもしれない。

異性を意識する年齢になってきたことだし、女装をしていない自分は、かなり美しい男性と言える。

アロウだって見とれるに違いない。

あぁ、でもまだ手は出さないでおこう。

幼い身体に自分はまだ受け入れられないだろうから。

でも味見ぐらいは許されるだろう、くっくっく・・・


なんとも薄気味悪い声が響く家に、可愛らしいノックの音が響いた。


「西の魔女さま!アロウです!師匠のお薬を届けに参りました!」


―何も知らない哀れな獲物が自ら蜘蛛の巣に飛び込んできました―


そんな言葉がエイヴィーの頭に浮かび、その美しい顔を醜悪な笑みで歪ませながら、返事をした。


「はぁい、開いているわよ、アロウちゃん。入っていらっしゃい」



キィ、という音をたてて扉が開かれる。

愛しい少女を絡め取るまで、あと数瞬の余地を残していた。



連載にするかしないかはっきりしない私でごめんなさいm(__)m

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