世界平和は神様と共に
こちらも久々更新です
「戦争ですか? ありませんよ、この世界の場合。国力が強かったり、豊かだったりする国ほど他の国へ支援を積極的にしたり、相手を尊重した態度を取りますし・・・。」
まん丸眼鏡に白いシャツ、黒いベストにサスペンダーで吊ったブラウン系の杉綾織りのズボン。太ったお腹は座っていてもちょっと苦しそう。まん丸の顔にはサンタさんの様な髭が生えている。色は藍色ですけどねぇ・・・。
学者さんと言うよりも喫茶店のマスターと言った方がお似合いの、私の家庭教師役を務めてくれてる王室研究所のボベズズニクさんは、通販カタログで私が出した「世界紅茶巡り」と言う名のティーバッグセットから適当に抜き出したティーバッグで入れた紅茶を飲み、同じく通販カタログで出した「鹿児島産サツマイモを使ったほっこりスイートポテト」を食べながらそう解説してくれました。
「はあ、戦争が無いんですか、それはいいですねぇ。」と無難に返答をしたんですが、そもそもそうした戦争の無い状態というものに理由があるそうで、授業はそちらの方に話が進んでいきました。
「さて、以前の雑談でヒロミさんの出身世界では王制がほとんど無く、民主主義やそれに類する政体が多いというお話でしたが、この世界にある国はほとんどが王制です。もちろん、あなた以前に様々な世界からの稀人がおりましたので、貴方の世界で言う民主主義や共産やらと言った政治システムも、この世界に知識として存在します。しかしながら、民主主義を望む国民はどの国を探しても居ないでしょう。王族の方々にも、その地位と権力を放り出したいと望む方々も多いのですよ? それはいったい何故か、その理由もこの世界に戦争が無い理由と関係しているのです。」
民主主義を国民が望まない?
面倒くさいから?
元の世界でも碌に投票に行かない人は大勢居たし・・・。
王様もこの国の王様とか見てるとプライバシーどころか自由時間すら碌に無さそうで、投げ出したくなるのも分かるけれど、それが戦争が無い事に関係しているとなると私には思いもよりません。
「元々、稀人の歴史の際にも触れましたが、訪れた稀人をいい様に国や個人が利用する際に、武力や軍事知識を利用するケースも現在の様な王室による保護が確立する前にはあって、一人の稀人が原因で戦争が起きるという例もあります。例えば今から624年前のゴザエダ、プロキア間の戦争等がそれですね。そうした流れが変わったのが今から278年前の稀神、契約の力を持つリメロナ様がこの世界へいらっしゃり、戦争に力を貸せと言われた事に腹を立てて作り上げた『非戦の契約』です。」
へ、人じゃなく神様まで来ちゃったのですか?
「この世界にやって来るのが一番多いのが人間、ないし同サイズで意思疎通可能な人間に準ずる者なので総じて『稀人』と称していますが、動物やモンスター、それに神もやってきます。流石に神は創造神やら星全体を管理する菅理神と言ったクラスは自力で行き来出来ますので、来たまま、という事はありませんが、その下で部門菅理を行うクラスの神だと自力で戻る事が出来ず稀人に近い扱いを受ける事に成ります。大体が主神やら時空神やらのお迎えが来て、しばらくすると元の世界に戻っていきますけどね。ただ神様の尺度での『しばらく』なんでリメロナ様の場合、こちらに百年ほどいらっしゃったでしょうか? 今も確かどこかの国に別の世界の音楽の神様がいらしてるそうですよ?」
「えっと、この世界の神様っていらっしゃらないんですか? 他所の神様と喧嘩になったりとか?」
「この世界を作ったのは巨大な白い鯨の神様だと言われています。ほとんど眠ってらっしゃってこの世界に干渉する事はありません。一説によれば神の夢が私たちの今暮らしている世界で、神が目覚めれば世界は終わるという話もあります。」
えっと、穏やかそうでそれでいてえらく物騒な神様ですね・・・。
「まあ、ともかくリメロナ様が作られた『不戦の契約』ですが、この世界から去られても契約は残り続けてまして、他所の世界からいらした方の中では世界に与えた影響が一番大きいのがリメロナ様でしょうね。『不戦の契約』ですが、実の所、戦争行為自体を禁止するものではありません。」
「攻め込まれた国以外の全ての国やその民が納得する様な理由で起こされた戦争の場合が可能な戦争の例ですね。ある意味世界国家間の相互監視契約と言っていいシステムなのですが、ペナルティの発生条件は2つだけです。①国境を接する(これは海を挟んで対岸も含まれます、地続きである必要はありません)国全てから敵対的感情、あるいは極度の蔑視を抱かれる事。②全ての国の内、過半数から敵対視、あるいは極度の蔑視を受ける事。」
えっと、周りの国全部から嫌われる様な事をしたり、世界中から非難を受ける様な事をやったりするとアウトって事ですかね? ジャイアニズムは完全にアウトですねぇ・・・。極度の蔑視ってのもありますから強い方だけでなく、自分の弱さを楯に取ってダダを捏ねたり集ったりして軽蔑される様な事もダメって事ですか?
「ペナルティは国家の『責任者』に下されます。一律で『死』です。例外も情状酌量もありません。これが民主主義を国民が望まない理由でもあります。契約発生当初はそうした政体を持つ国家もありましたが、隣国に領土欲から戦争をしかけ、責任者である成人国民全てがペナルティで死亡したという事件以降、全ての国家が王制或いはそれに準ずる国家体制となりました。象徴制やら議会制やらで契約を誤魔化そうとした例もありますが、全て失敗に終わっています。宗教制も建前として『神の下での平等』を謳ってますので、国民全員何かあればアウトです。こっちは下手すると年齢が関係無いので物心付く前の子供以外全滅という事すら有り得ます。」
なるほど、悪い言い方をすれば王族って何かあった時の「生贄」って事なんじゃないですか? そりゃ投げ出したくもなりますよねぇ。「リアル・ダモクレスの剣」? ちょっと違うか・・・まあ、玉座の座り心地は実に冷たそうですね。
そんな状況で頑張ってる姿を見れば国民も忠誠心持ちますよねぇ。
なんか「玉座に縛り付けてしまっている、申し訳ない」とか良心と忠誠心から来るこの世界ならではのクーデターとかありそうな気がします。
「また、戦争で無くとも、持てる国が周囲を気にせず1国のみで富を抱え込んでいれば嫉妬から来る悪感情を周辺国から持たれます。豊かな国、強い国ほど周囲に気を使う必要が有るのはこのせいです。かと言って、持たない国、弱い国が自分の足で立とうとせず、他国からの支援を当然のものとして貪れば蔑視を受けます。弱い国、小さな国でも自助努力と自尊心は必須です。」
なーんか、元の世界の国、大半が無くなりそうですねぇ。この契約が元の世界で適用されたら・・・。人口も半分以下になりそう・・・。
「まあ、ここ数十年、契約によるペナルティを受けた国はありませんし、余裕の有る国が無い国を助ける、国の大小で卑屈にならず、一方的な恩恵を甘受しない、というのは一般常識になってます。天災やら飢饉やら流行病やらが発生した際にはあちこちから支援が届けられ、国の規模によっては却って豊かになった例すらあります。とはいえ失われた命が戻るという事はありませんので、防げる病気、災害は国の規模を超えて協力する事も良くあります。」
まあ、それならあのショタ王様がすぐにどうこうって事も無さそうですねぇ。
もしかして、王様って一定年齢達すると楽隠居で今までの重圧から解放されるって事になってて、だからあんな若い王様が今はこの国を統治してる、とかなんでしょうか?
「当初はかなり混乱も合ったようですが、私個人としてはリメロナ様がこの世界にいらして『不戦の契約』を作ってくださった事は、この世界にとって良かったのだと思っていますよ。戦争をしたり、他所の国を妬んだり、貶めたり等やってる暇があったら、もっと他の有意義な事をしてた方がいいでしょう? こうしておいしいお茶やお菓子をいただいたりとか?」
そう言ってウインクしてくるボベズズニクさん。
年輩の男性に言う台詞じゃないですけどチャーミングなおじ様ですよ。
本当、こんなマスターが居る喫茶店があったら常連になってるくらいです。
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残魔力:2679万1947円
支出:1530円
2150円(世界の紅茶セット)
収入:3千円×3(3日経過)
平和な世界、それなりに進歩しているのに王制オンリーの理由付け解説回でした
主人公はごく一般的? な女性で、緑の鎧の鬼畜な勇者の話は知りませんので、神様について説明を受けても何の反応もしませんでした