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Ⅸ.盗賊††

 い、生きている、って、すばら……しい…………。

 砂漠のヘヴンズドライブから解放され、それから彷徨うこと数時間。既に体力も精神力も限界を超えていた。お花畑と川が見えるのは気のせいだろうか。

 このままでは「その後勇者達の行方を知る者は以下略」になってしまう。

 だが、神様はわたし達を見捨てはしなかった。

「オ、オアシスだ! 今度こそ本物だー!!」

 蜃気楼によるフェイクオアシスに二回騙されること三度目の正直、ようやくにして水分補給できる約束の地へと辿り着いた。

「こ、ここが楽園なのか……」

「そうね、アム・シェアーではなさそうね……」

 すごくオーバーな表現をしているけど、今のわたし達にとっては過言ではない。

 ではさっそく、清水で喉を潤すとしますか。

 と、オアシスの池の水をすくったとき、ふと気付いた。

「ちょっと濁ってる?」

 精霊の洞窟にあった回復の泉みたいな透明な水ではなかった。喉の渇きは癒えるかもしれないけど、その後で腹痛に襲われそうで怖い。

「ふふん、そーいうときは、任せなさい」

 マホツカはガサゴソとローブの中で何かを探し始めた。もしかして策有り?

「飲み水で困った時はコレに限るわね」

 取り出したのはトールサイズのタンブラーだった。ウィッチハットとブルームのロゴマークが描かれたカラフルなデザインが可愛らしい。

 見た感じは普通のタンブラーと遜色はない。何かのマジックアイテムだろうか。

「これは魔法使いの七つ道具がひとつ《アルカナ・タンブラー》よ。どんな濁った泥水だって簡単迅速に飲み水にできるのよ!」

 店頭でやっている実演販売の売り文句みたいな説明だな。

「どうやって使うの?」

「まずフタを開けて、そこに液体を入れて……」

 マホツカはタンブラーにオアシスの水を適量注いだ。ふむふむ。

「次に魔力を込めて、よーーーーーく回す」

 やっぱ何事も基本は回すことにあるよね。

「そして完成!」

 はや!

「ほらっ、飲んでみなさい」

 マホツカからタンブラーを手渡される。フタを開けてみると――、

「おおっ! 本当にキレイになってる!」

 濁りがなくなって透明な水になっていた。さっすがマホツカ先生。

「それじゃお先に失礼、いっただきまーす」

「一つ気をつけないといけないことがあるのよね。その水は――」

 マホツカが何かを言いかけたけど、わたしは気にせず水を口に含んだ。

 数時間ぶりの水分だ。きっと天上の味がするに違いない――、

「――? むがむぐむご?」

「どうしたんだ勇者?」

 何か…………おいしくなくなくないですか?

「何なの、この味は?」

 というか味がない。

「このタンブラーには欠点があってね、水分以外は完全にろ過しちゃうのよ。つまりは超純水になるわっけ」

 なるほっど、どうりで無味無臭なわけだ。

 早く改良版が出ないかしらと小言を呟くマホツカ。別に飲めないわけではないので、そんなに気にすることでもないけどね。

 わたし達は水の大切さを改めて五臓六腑に染み渡らせながら、ひと時の休息を過ごした。

 そして、

「これからどうしよっか?」

 結局ピラミッドのピの字も見当たらなかった。

「そもそも本当にピラミッドなど存在するのかが疑問だ。やはり、あのオーナーに騙されたのかもしれん……」

「マホツカ、アルフォンの地図で位置をつかめないの?」

 精霊の洞窟の場所だって分かったのだ。伝説のピラミッドの位置だって――、

「ん~、無理ね。暇鳥がいた塔と同じで、データベースに登録されていない場所は検索に引っ掛からないのよ」

 む~ん、どうしたものか……、ん?

「あれは……人?」

 池の反対側に人影らしきを発見した。てか人だ!

「あの人に聞いてみない? 何か知ってるかも」

「人だと? どこにいるんだ」

「あそこだよ。池の向こう側」

「んー……、よく見つけられたわね」

 並みの市民プールよりかは広いオアシスの池。確かにそう言われてみると、どうして人がいるって分かったんだろ。草木も鬱蒼(うっそう)としているし。

 まあ、偶然目が捉えてしまったに違いない。

「ちょっと尋ねてくるね」

「待て勇者、危険だ――」

 心配性な戦士の制止をスルーして話しかけにいくわたし。果報は寝ててもやってこない。どん詰まりに陥ったときは、とにかく小さなことでも行動あるのみだ。

「すみませーん」

「…………?」

 全身をアースカラーの旅装で覆った旅人然とした人だった。身長はわたしと同じぐらいで、やや細身な印象。顔も目の部分以外を布で隠しているので、男性か女性かはイマイチ判断が付かなかった。

「旅の人ですか? 道に迷ってしまいまして。ピラミッドに行きたいのですが、どう行けばいいか知らないですか?」

「東の流砂地帯を抜けたところに、巨大なモンスターが徘徊しているらしい」

「モンスターが?」

「どうやら縄張りを守っているような気配だ」

「縄張りを守っているか……。でもわたし達は急いでピラミッドに行かなければならないんです」

「ピラミッドに行くには、モンスターの縄張りを抜けるしか方法はない。わたしが抜け道を案内してやってもいいんだがな。

 ただし、気が変わったら、いつでもわたしは抜けるからな」


 仲間にしますか?

 →はい

  いいえ


 へ?

 何ですかこのイメージは? 初出だな。

 それと会話がやたらと芝居っぽくなっちゃったけど、どして?

「あーっと、ちょっと待っててもらえませんか」

 トトトっと、戦士とマホツカがいる場所まで戻る。

「どうした勇者、やはり怪しい人物だったのか」

「いやさ、どうやら仲間にできるみたいなんだけど」

「仲間ですって? あんな不審者を?」

 うん、まあ、怪しいっていったら怪しく見えるけど、砂漠のど真ん中で黒服な格好をしているマホツカだって十分不審者に見えますけど。

「あの出で立ちは明らかに賊に違いない。危険すぎるぞ」

 でも、モンスターを回避する抜け道を知っているっていうし。それに、

「元はと言えば、二人のせいでこうなったんだから、今回は文句なしね」

「むう、勇者の決定とならば仕方がない」

「まったく、意外と酔狂ね、アンタも」

 しゃーねーなー、な反応をする戦士とマホツカであった。

 二人が危惧するように、見知らぬ人物をパーティーに加えるのは危険かもしれない。

 だが、わたしにはなぜか彼(彼女?)が他人とは思えない感じがした。仲間になるべき存在がすると言いますか、匂いが漂うと言いますか、口ではうまく説明できないな。

 これはもしや、勇者に備わる第六感だったりする?

 とにかく、話はまとまったので、仲間に加えるべく三人揃って池の反対側へと移動した。

「道案内お願いします。えっと、名前は……」

「好きに呼べ」

 まじすか? 本当に好きに呼んじゃうよ、ふっふっふ。

「どうする?」

「では『盗賊』だな」

「ストレートすぎるわね。そこは『シーフ』でしょ」

「捻りがないよ、二人とも」

 てか、まだ職業が盗賊って決まったわけじゃないでしょうが。

「じゃあ何よ?」

「うーん、やっぱ『ジューダス』?」

「どんな脈絡でそうなるのよ。意味分かって言ってるの?」

 すいません、ただ言ってみたかっただけです。

「では『アサシン』でどうだ」

「そうくるなら『シャドウ』がいいわね」

「ダメダメ、それなら『クライド』でしょ!」

「「どうしてそうなる」」「んだ」「のよ」

 と、ブレインストーミング感覚で五分ほどディスカッションした末、ようやくにしてコンクルージョンした。

「満場一致で『ヤシチ』に決定しました! よろしくね、ヤシ――」

「……盗賊でいい」

 ええー! 好きに呼べって言ったのに、もー。

 それとやっぱ盗賊なんですか。指名手配とかされていないよね?

 まあ、細かい事は無視しよう。

「それじゃ、しばらくよろしくね、盗賊」

 手を差し出すと、少し躊躇されたが、最後は握ってくれた。

「あっ、わたし達の名前は――」

「好きに呼ばせてもらう」

 クールなのか、自分勝手なのか、線引きの難しいタイプだな。

 と、盗賊の何かがわたしに流れ込んでくる。おおっ、この感じ久しぶりだな。


 職業  盗賊

 レベル 17

 武器  叩き潰す小太刀(+5) 名状しがたい小太刀(+3)

 防具  忍びの衣

 装飾品 忍びの小手 忍びのカフス


 あの、装備がすごーく忍者と主張しているんですけど……、本当に盗賊なの?

 それと武器に変な言葉が修飾されているのは、ツッコミ待ちなんですかね?

 ま、いっか。いろいろと複雑な事情があるのだろう、ん?


 スリーサイズ B90・W58・H88 ※推定Gカップ


 スリーサイズ……だと?

 ということは女性なんだ。まあ、声はそこそこ高かったし……。

 ってそんなことよりもGカップってどゆこと? 胸元はスラリとしてますけど、どこにそんな豊満なバストッ!があるというんですか!?

「どうした、行かないのか?」

 着やせするタイプなのかな……。気になる、実に気になる、非常に気になる。

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