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Ⅴ.リバティ・ベルを鳴らして

 場内をうろつくこと小一時間、ようやくにして半周することができた。他人がゲームを遊んでいる姿は安心して見物することができるので、ついついゲームの行方を最後まで見たくなってしまう。

 それに、このカジノ場広すぎる。ベースボール球場か、フラワー屋敷ぐらいはありそうな()敷地面積だ。

 人ごみで、はぐれないようにするためか、途中から僧侶ちゃんに腕を握られているのがなんとも心地良い。僧侶ちゃんのシャイニング・ソフト・フィンガーに触れたら、どんな妄想もぶち壊されるに違いない。

「あっ、スロットマシン」

 ハート、星、蹄鉄などなどの絵柄が描かれた三つのリールを無限回転させる機械が、所狭しと並んでいた。横一列ではなく、六台で花びらのような円状に配置されているのがなかなかにくい。

「戦士はまだいるのかな」

「あれからだいぶ時間が経ちましたからね、もしかすると……」

 一時間も遊べば投資したコインが枯渇しているかもしれない。

 しかし、それは杞憂のようだった。棘ならぬ剣を隠した真紅のバラは、真剣な面持ちで停止しているリールをねめつけていた。

「戦士~、調子はどんな感じ――」

「でりゃあっ!」

 うわっ! びっくりした。いきなり大きな声出さないでよ。

 壮烈な掛け声を上げながら、リールを回転させるスピンボタンを押す戦士。モンスターと戦っているわけじゃないんだから、もうちょいリラックスしたらドデスカ?

「くそっ、駄目か」

 指に込めた気迫とは裏腹に、順に停止するリールの絵柄は三つともバラバラだった。トランプにも使用されている赤・黒・赤のマークが、対面するプレイヤーをあざ笑っているかのように見える。

「戦士、どんな按配なの?」

「勇者か。見ての通り、全然揃わない。やはり私もまだまだ未熟なのだな」

 いや、だから運の能力値とか関係ないから。

 そもそもスロットマシンでは勝てないのが普通なのだよ――と僧侶ちゃんから聞いた情報。でも一発当てれば億万長者になれる可能性を秘めているとのこと。

 にしても、随分とスロットマシンも進化したものだ。学校の近くにある喫茶店でお古のマシンを遊んだことがあったけど、本当にシンプルだったからね。今や電光板が装着され、文字や絵文字が演出を華やかにしている。

「ところで戦士、けっこうコイン残っているよね?」

 マシン付属のコイン受け皿にはかなりのコインが入っていた。もしかしていい出目が一度揃ったのだろうか? 意外とやるではないか、戦士も。

「いや、実は今しがた始めたばかりなんだ」

「えっ? なんで?」

 もしかして精神統一でもしていたのだろうか? 戦士ならやりかねない。

「ふむ、少々軟弱な男たちの相手をしていてな。それで時間を取られてしまったんだ」

 !?

 だ、だ、男性の相手ですとー!? えっ、うっそ、まじっすか戦士さん?

「そ、そそそ、それはつまつまつまり――」

「ああ、随分と執拗な輩が何人かいてな。だが所詮は腑抜けばかりだった。殺気を込めた視線を向けたら、震え出して逃げていった。まったく、あれしきで背中を見せるとは情けない」

 …………。

 ああ、そういうことですか。

 まあ、今の戦士は掛け値なしで美人だからね。ちょっと手を出してみたいと思うには分からないでもない。男性客たちも気の毒に。

「ところで戦士さん。どうして一レーン設定なんですか?」

 わたし達と会話している間も、コインを入れてはスピンボタンを押し続ける戦士。よく見るとマシンのレーン設定は一だった。最大の三レーン設定にすれば、払うコインの枚数は増えるけど、斜めのラインも加わるので絵柄の揃う確率も高くなる。周囲の台で遊ぶお客を見るに、みな三レーンで遊んでいた。

「『闘い』とは、いかなる時も一本勝負だ。三本勝負など、その時点で自分は弱いと断言していることだ」

 さいですか。戦士さんマジかっけえっす。

 せっかくなので、しばらく戦士の闘いとやらを見守ることにした。

「見ていろ、次こそは」


 ハート

 スペード

 ダイヤ


 相変わらずのバラバラ大事件だ。

「まだまだー!」


 チェリー

 スイカ

 プラム


 実においしそうな組み合わせだ。でも何でスイカなんだろう?

「くそッ! まだまだまだまだぁッ!!」


 オタマジャクシっぽい生き物

 モグラっぽい生き物

 プリンッとした生き物


 あれ? いきなり絵柄の趣向が変わったね。

「まだだ、まだ終わらんぞッ!」


 黄色の鳥?

 空飛ぶ乗り物?

 竜王(笑)?


 おっ? なぜかリール上部の電光板にウサギが出現すると、コインが吐き出された。スズメの涙ほどしかないけど。

「負ける……! ものかああぁぁぁッ!」


 スター

 キノコ

 キノコ


 オマケな組み合わせでもよさそうな感じだけど、揃ってないものは揃ってない。

 てか絵柄多くないですかこのスロットマシン? こんなんじゃ一儲けはおろか、絵柄を三つ揃えることすら難しいでしょ。

「戦士、やめた方がいいんじゃ……」

「そうですね……。おかしいですよ、このマシンは」

「ふっ、ここまできたからには尻尾を巻いて逃げるわけにはいかないッ!」

 あぁ、財布をカラにする人の常套文句だ。

「戦士道とは、諦めぬことと見付けたり!」

 解釈するのが難しい言葉だな。

「私が座った椅子は、途中退席できない!!」

 いや、できるでしょ。

「今度は揃える! 揃えると決めた!!!」

 スロットマシンが壊れるんじゃないかと思えるほどの、衝撃の指弾丸を叩き込む戦士。


 7


「おお?」

 初めて7を見た気がする。

「よし、次いけ!」


 7


「おおお!」

 もしや、もしやこれはいっちゃうんじゃないですか戦士さん!

「最後――決まれえええぇぇーーー!」

 美女の雄叫びがカジノの喧騒に溶け込む。声を出したところで結果が左右されるわけではないんだけど、こういうノリは理解できなくもない。

 そして運命のリールが回転を止めた。いったか――、


 BAR


 ですよね……。

「ぐはっ、ま、負けた……」

 やっぱ駄目だったか。まあ、気合でどうにかなるようなものでもないからね。

 と、なぜかコイン受け皿に入っているコインがジャラジャラと音を鳴らしながらその姿を消していった。

「おい、なぜコインが吸い込まれていくんだ!?」

 手を伸ばしてコインを掴もうとする戦士であったが、時既に遅かった。

「ぜ、全部……呑まれた……」

 儚くも、戦士艦隊は砂の海へと沈んでいった。

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