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忍者の末裔

 友情というよりかは強い仲間意識で結ばれた四人の少女たちが、眠らないゼガスの街へと溶け込んでいった。

 その後ろ姿を見送る影が建物の屋上に一つ。

「ふっ、面白い連中だったな」

 自分のことは脇に置いておき、二日に渡って砂漠のピラミッド攻略を共にした者たちの、率直な感想を漏らす。

 顔まで覆ったアースカラーの旅装が風で靡く。

 彼女らに『盗賊』と名乗った、同じく少女の姿がそこにあった。

 失われた家宝の武具を探すため、定期的に故郷を離れ世界中へと足を運ぶ忍びの子孫。そんな彼女にとって他の冒険者と協力した経験は今回が初めてだった。

「類は友を呼ぶ、か」

 何の気兼ねなく会話を楽しむことができたのは、ただ年齢が近いというだけが理由ではないだろう。

「行ったようだな」

 一行が見えなくなったのを確認した後、彼女は懐から今回の旅の目的であり戦果であるか《魔法の石版》を取り出す。

 石版には、現代では失われた古代文字で何かを意味する文章が彫られていた。

 当然、彼女も石版の文字を解読することはできない。

 だが、読めても読めなくとも大差はない。なぜなら、この石版の用途と使用する場所は既に調査済みだからである。

「これさえあれば……」

 石版を、まるで我が子を慈しむ親のような表情で見つめる。

 彼女が欲する物を手に入れるための唯一と云っていいほどの手段となる鍵なのだ。落とさぬように大事にふくろに戻した。

 だが、いつまでも喜びに浸っている場合ではない。彼女自身も口に出したとおり、本当に大変なのはこれからなのだ。

「一にも二にも、まずは修行のやり直しだな」

 加えて武具や防具の新調、忍具の補充もしなければならない。

 今回の旅で己はまだまだ未熟だということを彼女は痛感させられた。不意なトラップに心が乱れ、力量の伴わないモンスターとの遭遇、そして遁術の扱いも完璧ではない。

 あの三人がいなければ、ピラミッドの地下でミイラと成り果てていたかもしれない。罠の解除は及第点であるが、戦闘力が不足していた。

「『あの城』に赴くことを考えると、やはり一人では限界があるな……」

 とはいっても、余程信用に足る人物でなければ仲間など組めるわけがない。背中を預けられない輩がいては、却って邪魔になるだけだ。

 何より石版の意味することが大きい。同じく石版を所有した者か、金さえ払えば余計な詮索をしない者でなければ、後ろから斬られるかもしれない。

 それ程までに、石版によってもたらされる効果は魅力的なのだ。

「彼女たちならば、あるいは……」

 そこまで考えて、続く言葉を捨てた。

「ふっ、いつからこんな甘えた考えを持つようになったのやら」

 端から他力本願など甚だしい。

 彼女たちには彼女たちの旅があるはずだ。無用な頼み事を気安くするべきではない。

 それに今回は偶々利害が一致しただけであって、こちらからの一方的な条件で誘うのは、いくらお人好しそうな性格とて、リスクを考慮すれば難色を示すに違いない。

「結局は、自分が強くなることが先決か」

 時間が限られているわけではない。拙速に行動を起こしたところで、取り返しの付かないことになるだけだ。万全の準備と磐石(ばんじゃく)の布陣で臨むべきだ。

「急がば回れ、か」

 まったく、先人たちは偉大な言葉を遺してくれた。

「修行の件はともかくとして、まずはホームに帰還することだな。はっ――」

 忍び走りでビルの屋上を駆けながら、より人気の少ない場所を探す。ネオンの多いこの街では、誰が見ているか分からない。

 素早い身のこなしと軽やかな跳躍によって進む足取りは、まるで空中に橋が掛けられているようだった。月明かりに生み出されたそのシルエットを見た人物はどれだけいただろう。

(それにしても、『ゆうしゃ』とは、また変わった名前だったな)

 どこか懐かしい雰囲気を感じ取れる少女(?)。昨晩彼女(?)と会話していたとき、つい素の自分が出てしまいそうになったのだ。

(はて、どこかで会ったことがあったのだろうか?)

 と、瞬く間にゼガスで最も高い建物の屋上に足を付ける。彼女の姿を見る者は、夜空に輝く万の星と唯の月以外にはいない。

「ふー」

 彼女はそこで、顔を覆っていた旅装と頭巾を取った。

「また、会えるかな」

 素顔が露になると、大人びた固い口調がなくなり、年相応の少女の声となる。

 黒い髪と黒い瞳は、彼女の故郷では当たり前の容姿だ。

 髪を染めてみたい憧れはあったが、今の自分の置かれた環境では無理だった。早くともあと一年待つしかない。

「あの『せんし』って呼ばれていた人も同じ生まれなのかな」

 しかし顔立ちが明らかに違っていた。おそらく両親のどちらかがそうであると予想する。

「あっ、そうだ。もう一つあったんだ」

 幼さの残る顔の少女は、懐からもう一つの戦利品を取り出した。

「このタマゴ、どうしようかな……」

 鍵付きの宝箱に入っていた《不思議なタマゴ》だった。わざわざ貴重なアイテムを使ってまで入手したのだ。それ相応の価値がないと釣り合わない。

「でも、食べるわけにもいかないよね……」

 割って黄身と白身が出てくればよいが、薄気味悪い生物が入っていたらどうしようかと思う。きっとトラウマを覚え、二度と卵を割ることができなくなりそうだ。

 それに腐っていないかも心配である。

 稀に宝箱の中に新鮮な状態の生魚や野菜が入っていると聞くが、誰が何の目的で入れたのやら。食料に困っていれば別だが、せめて保存食にしてほしいところである。

 宝箱とは、何とも奇妙な物である。

「う……ん、一応異臭はしないな」

 そっと耳元へタマゴを近づける。すると、

「! 動いた?」

 ほんのわずかであるが、生命の胎動を感じた。

「ここで考えても仕方がないか」

 タマゴを戻し、帰宅の準備をする。

(それじゃ、また)

 眼下にひしめく雑踏の中へと別れを告げる。

 彼女の両手が印を結び、口で術を発すると、その姿は夜の闇へと消えていった。

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