ⅩⅩⅢ.合流、そして次の街へ
華やかなネオン、豪奢なビルディング、そして都会の喧騒。僧侶ちゃんを救うため、モンソロよ! わたしは帰ってきたぞ!!
というわけで、ゼガスに戻ってきたわたし達。すっかり夜になっちゃったよ。
「で、すぐに乗り込むわけ?」
「今の体力では、あまり大胆な行動は取れないぞ」
往路に比べれば断然楽な復路だったけど、炎天下のウォーキングでみんなお疲れのようだ。正面突破の奪還作戦では、捕まってブタ箱行きになるかもしれない。
でも僧侶ちゃんのことを思えば元気百倍!
それに何を隠そう、わたしには秘策があるんだよね。ふっふっふ。
「アンタが秘策だなんて、嫌な予感しかしないわね」
マホツカが勘ぐるようなジト目を飛ばしてくる。
いやいや、過去を振り返ればマホツカこそ酷い策ばっかだったじゃん。宝箱の爆砕とか、暴走特急羽とか。
「それで、いったいどのような策なんだ?」
よくぞ聞いてくれました。
「ずばり、《ピンチ》を使うんだよ!」
「「ピンチ?」」
そう、歓楽街を一瞬にして停電させてしまう恐るべき兵器のことだ。あれさえあれば、僧侶ちゃんを確実に救い出せるに違いない!
「それは、この世に存在するものなのか?」
うーん、おそらくどっかの科学研究所にあるはず。
「どーやって手に入れるのよ?」
うーーん、きっと手を怪我すれば貸してくれるはず。
「停電したところで楽になるとは思えんが」
うーーーん、そこは気合で!
「全部確証がない話じゃない……」
むむぅ。やっぱ現実は小説のようにはいかないのだろうか。
「盗賊、何かいい方法ない?」
「そもそもわたしは無関係なのだが……」
そんなつれないこと言わないでよー。旅は道連れ、世は情けって云うじゃん。
何と言っても神に等しい存在である僧侶ちゃんを救うためだ。たとえどんな犠牲を払ってでも――、
「勇者さーん、戦士さーん、マホツカさーん」
!!
こ、この全てを暖かく抱擁する福音ならぬ福声は!
「はあ、はぁ、皆さん……無事でよかった」
息せき切らしながらわたし達の前に現れたその人物は、
「そ、そ、そ、そ、そそそ僧侶ちゃん!?」
きゃー!! 僧侶ちゃんがいるー! なんで何でナンデ、うひょー!!
「わぷっ。く、苦しいですって勇者さん」
感激のあまりわたしは僧侶ちゃんに抱きついた。
あー、夢でも幻でもない本物の僧侶ちゃんだ。んー僧侶ちゃんの柔らかさがするー、はー僧侶ちゃんの匂いがするー、むー僧侶ちゃんの胸の大きさ…………う、うぅ。
「何で泣いてるのよ。二日ぐらいしか経ってないでしょーが」
うぅぅ、そうじゃない、そうじゃないんだよマホツカ。
それに二日は長いよ。48時間もあれば人種を超えた友情が築けるには十分だからね。
「それより、どうして助かったんだ? まさか脱走したのか」
む! もしや追っ手がすぐそこまで迫っている? わたしの僧侶ちゃんはもう二度と手放さないぞ! どこからでもかかってきなさい!
「えー……っと。まあ、その、いろいろとありまして……」
僧侶ちゃんにしては歯切れの悪い説明だ。でも可愛いから気にしない♪
「気になるわね」
「別に何だっていいじゃん。こうして僧侶ちゃんがいるわけだし」
僧侶ちゃんのことだ。トムやディックやハリーの手助けを借りずとも、《モーセンの十三戒》のようにあらゆる障害が道を開けてくれたに違いない。
「イカサマ師に勝つほど、心地良いものはないですよね」
ん?
「何か言った僧侶ちゃん?」
「! い、いえ、何でもないです」
なぜか慌てふためく僧侶ちゃん。でも可愛いからいいや♪
「わ、私のことより、皆さんの方は大丈夫でしたか?」
「うん。こっちもいろいろあったけど、盗賊のおかげでどうにか事なきを得たんだ。ね、盗賊――って?」
僧侶ちゃんに盗賊を紹介しようとしたが、旅装を纏った少女の姿はどこにもなかった。
「あれ? 盗賊は?」
「盗賊さん……ですか?」
「いつの間にかいなくなったな」
「まるでニンジャね」
まるで、じゃなくモノホンなんだけどね。
一時的とはいえ、せっかく仲間になってくれたのだ。何の一言もなしに立ち去ってしまうとは、ちょっと寂しいな。
でもまあ、盗賊らしいといえばそうかな。
それに、きっとまた会えるから、さよならの言葉はいらないはず。
「そんじゃ、僧侶ちゃんも戻ってきたことだし、次の街にいこっか」
わたし達には大魔王を倒すという重大任務があるんだ。こんな歓楽街にいつまでも滞在しているわけにはいかない。
でも、なーんか重要なことを忘れている、というか忘れたい案件があったような……、
「そんで、お金はどうすんのよ?」
ぎゃおす! そうだったー!
「あの、これ戦士さんとマホツカさんの負け分は返してもらったのですが」
「おおっ、かたじけない」
「アンタ見かけによらずやるじゃない♪」
でもそれだけじゃウィーハ島までは心許ないよね。
「ふふん。だったら別のカジノで稼ぎにいくってのは――」
「やめい」「やめとけ」「やめましょう」
今回の件で懲りたでしょ。博打はいい加減頭の中からポイしなさい。
「じゃーどうすんのよ。砂漠に札束は埋まってないわよ」
うーん、どうしよっかな…………! あ、そういえば、
「この《黄金の爪》を売却しよっか。一応純金っぽいから、そこそこいい値段で売れるんじゃないかな?」
「そうだな。誰も装備しないだろう」
「爪の方はあったんですね」
「レアなアイテムそうなのに、不憫な使い道ね」
レアでもミディアムでも、ロースにサーロインは代えられないからね。
何はともあれ、こうしてまたみんなで旅ができる。一時はどうなるかと思ったけど。
さてと、ウィーハ島に行くには、まず目指すのは西海岸の港街だね。
黄金の爪の売却額を想像しながら、わたし達は四人揃って最後となる歓楽街の夜へと足を踏み出した。
(了)




