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ⅩⅩ.最上層・パスワードは何じゃらホイッ

「もう、死ぬ……」

 世の中極暑や極寒の地で命を落とした人はいるわけだけど、古今東西強烈な臭いのせいで事切れた人は、はたしているのだろうか。

 しかし、臭いの効果は発揮されたようで、第三層でキカイヘッドと戦闘を交えることはなかった。きっと嗅覚センサーが壊れたに違いない。

 そんで、次なる第四層は矢印の描かれたタイル張りの、柱や壁が少ないフロアだった。上に乗ると矢印が途切れるまで移動させられる仕掛けによって、正解のルートを発見するまでひたすらフロア内をぐるぐると回る羽目となった。うぷっ、思い出しただけで気持ち悪くなる。

 そして第五層は、鋭い槍がびっしりと生えた床を、上に敷かれた透明な板を歩いて渡る危険極まりないフロアだった。さてどうしたものかと思ったけど、戦士が何かの役に立つかもと袋に詰めていた砂漠の砂を撒くことで板の場所を確認することができたのだ。足を踏み外そうには何度かなったけれど、串刺しにはならずに済んだ。

 それらを乗り越え、ようやくにして最上層へとたどり着くことができたのである。

 え、どうして最上層だと分かるかって?

 それはね、ご丁寧にも各階層を繋ぐ階段に案内が彫られていたからだよ。


 F5 < F6 < R


 みたいな感じでね。

 ちなみに屋上へは第五層から階段がひと繋がりとなっていたので、一応上ってみた。

 けれども、四角錐の頂点部には巨大な宝石もガラスの星もなかった。黒い砂の海が展望できる、絶景ポイントだったけど。

「気分は大丈夫か勇者」

 大丈夫じゃないっす。

「嗅覚を癒すならば、わたしにまかせろ。盗賊の七香料である《クサツの香り》や《ベップの香り》を嗅いで中和することができるはずだ」

 何ですか、そのいい湯だな~♪的な名称は。

 心配せずとも大丈夫。マホツカの言ったとおり、臭いはほぼ消えている。

 しかし、しばらくわたしの鼻は使い物になりそうにない。これならドリアンだって苦なく食べられそうだ。

 貧乏なわたしには縁のなさそうな果物だが、一度アキちゃん家にお泊りしたとき、夕食のデザートで食べたことがあるんだよね。どんな味か気になっていたんだけど、とにかく匂いが凄すぎて鼻をつままないと口まで運べなかった。そのせいか味なんて全然分かんなかったね。アキちゃんのお母さんはムシャムシャ食ってたけど。

「いつまで匂い臭い言ってるのよ。早くお宝を手に入れるんでしょ」

 元凶のお前が言うでない!

「あとはこの扉の奥を残すだけだな。最後だからこそ一層気を引き締めなければ」

 ピラミッドの最上層だけあって、下の階層より明らかに面積がない。おそらく今わたし達がいる場所と、扉を挟んだ部屋しかないだろう。

 そして進路を阻む扉なのだが、天井まで届いている巨大な鉄扉だった。巨人の家にお邪魔したのか、わたし達が小さくなったのかと錯覚させられるほどである。

 当然のことながら押したところで開く気配はミジンコもない。単純に重量のせいだと考えられなくもないけど、この扉も何かしらの仕掛けを解除することで開くはずだ。下の階層が全部そうだったからね。

「怪しいのは、この台しかないね」

 扉のちょい手前右手側に、オフィスデスクみたいな形状の石机があった。

「ふむ、これが解除スイッチに違いなさそうだな」

 と、危険がないか警戒しながら物色する盗賊。

 机の上には箱みたいな置物があり、細長いコードがたくさん机と繋がっていた。

「そんなに不安がることないって…………のわっ?」

 何の気なしにポンッと机に手を置いたら、いきなり机上の箱――よく見るとフラスタム型の物体――の前面部がブワンと光を灯す。カリカリカリ、ガリガリ、という耳障りな音が鳴り終わると、黒い平面に白い文字が浮かび上がってきた。

「何だこれは?」

「またしても奇天烈な仕掛けだな」

 こういう理解不能なものはマホツカ担当だね。

「マホツカ、分かる?」

「懐かしいわね、コンソール画面じゃない」

 コンソール?

「それにシーク音なんて久しぶりに聞いたわ」

 シーク音?

「しかも最初に表示される文字が『Hello! Pyramid!』だなんて、随分と洒落が効いてるじゃないの♪」

 ………………。

「分かる? 戦士、盗賊」

「無論さっぱりだ」

「魔法使いとは、(ぬえ)的な存在だな……」

 ですよね。

「それで、何とかなりそうな感じ?」

「んー、画面に『パスワードを入力してください』って出力されてるでしょ。つまりはそーいうことよ」

 パスワードですか。

「でもどうやって? 声で認識するとか?」

「こんな年代物のマシンでバイオ認証システムなんて無理に決まってるでしょ。普通にキーボードを使うのよ」

 と、マホツカは机と箱の隙間に収まっていた長方形の板を引っ張り出した。よくそこにあるって分かったね。

「アンタもアルフォンで似た感じのを使ったでしょ。アレよアレ」

 ああ、あの文字がジグザグに並んでいる板か。

「でもさ、パスワードって言われましても、全然検討が付かないんだけど」

「何かピラミッド内部にヒントとなりそうな印書きでもあったのだろうか」

「こーいうのは誕生日とかが定番なのよね。もしくは墓ぬしの命日かしら」

「なるほど、暦か。では試しに、今日の日付を入れてみてはどうだろうか」

 とにかく、何かしらのアクションを起こさないと始まらない。とりあえず盗賊案を採用。

 わたしは人差し指一本のぎこちない動作でキーボードを押す。するとそれに合わせて時たまノイズが走る画面上に白の文字が並んでいった。

「全部打ち終わったら、最後は『Enter』キーよ」

 ほいさ。

 ターン! とわたしは言われるがままに大きめなキーを押した。さて、結果は……、

『パスワードが違います』

 ドゥン! という耳に不快を与える効果音が鳴る。やっぱ駄目か。

『セキュリティの安全上、残り二回までの入力となります』

 なんですと?

「どうすんのこれ?」

「私に助言はできそうにない。勇者に一任する」

「何でもいいから、それっぽいパスワードを捻り出しなさい」

「それしかないようだな。女の勘を信じるしかない」

 オンナのカンね…………ん? そう言えば盗賊って、わたしを女だって分かってたんだ。

 そんじゃ、『おとこ』になっても隠し切れないわたしのウーメンパゥワーで、一発でパスワードを当てちゃおうじゃあーりませんか!

「きっとこれに違いない、『ギャレット』と」

 パチーン! と最後にエンターキーを押す。さて、結果は――、

『パスワードが全然違います』

 んぎゃー!

「どうしてアンタは何の脈絡もない文字列を入力すんのよ」

 だってー、オンナのカンがそう告げたんだもん。

『パスワードの入力は残り一回となります。再度の入力はシステム管理者までお問い合わせください』

 管理者って、絶対あの世にいるだろ。

 うーん、どうしよどうしよ、まじで分かんない。

「思案したところで答えは導き出せないだろう。どうせ無理なら適当に入れるしかあるまい」

 確かに。それに失敗しても自力で扉を破壊すればいいだけの話だからね。

 あれ? そっちの方が簡単じゃね?

「ん、何よ?」

 いやいやいや、ないないない。無駄な時間と体力は使いたくない。

 意を決してわたしは最後のチャンスに挑む。

「よし! だったら最後はアレでいくし――――あっ」

 と、わたしは操作ミスを犯してしまい、まだ何も入力していないのにエンターキーをペチンと押してしまった。

「ちょ、何やってんのよ!」

 やべー、やっちまったー。

 もしやペナルティがあったりする? 落とし穴か? 岩が追いかけてくるか? それとも槍が飛び出してくるのか?

『パスワードが入力されました。扉が開きます』

 あり? なんで? どしって? はてさて? まじですか? (スズナ、スズシロ……)

「もしかして、例の噂は真だったのか」

 またですか盗賊さん。

「参考までに、どんな噂なの?」

「ああ、『パスワードが存在しないことがパスワード』という、子供染みた内容なんだ」

 何の意地悪問題だよ。

 まあいっか。答えは何であれ、聞いたことに変わりはない。

 そうこうツッコミを入れているうちに、大扉が左右にスライドし切った。

 はたして《黄金の爪垢》はあるのだろうか――。

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