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ⅩⅨ.エンカウント・邪魔・キャンセラー

 夢って目が覚めた途端に内容を忘れちゃうよね。僧侶ちゃんが出てきたことは覚えているんだけど、話の流れを思い出せない。

 まあ、夢の中とはいえ、ウルトラプリティな僧侶ちゃんを拝むことができたから、いっか。これで僧侶ちゃん成分を少しは補充できたはず!

「朝っぱらから何ニヤケ面してんのよ」

 マホツカが不審者を(とが)めるようなジト目を向けてくる。おっと、いかんいかん。夢は所詮幻だ。現を抜かして油断している場合ではない。

「(待っていろよ、黄金の爪垢!)」

 わたしは気合を入れ直す意味を込めてピラミッドの頂点部を見据えた。

「それにしても、随分と変わった食べ物だな」

 もぐもぐと口を動かすのは戦士。

 ピラミッド攻略に向けてしっかりと朝食を摂らなければならなかったのだが、わたし達はそれほど食料を買い込んでおかなかったのだ。

 そこで非常食をたくさん持っている盗賊に分けてもらったわけである。全く持って至れり尽くせりだね。神様仏様盗賊様だよ。

「携行糧食と同じでライ麦パンのような味かと思ったが、フルーツの甘みがあるな」

 盗賊が提供してくれた携帯食料は、さすがは忍者であるといいますか、《兵糧(ひょうろう)(がん)》という名前通りの丸っこい食べ物だった。

「こっちはカカオっぽい味がするわね」

「近年は購入層拡大のため、様々な味の兵糧丸が販売されているんだ。そちらはフルーツ味で、こちらはチョコレート味だ」

「わたしが食べてるのは?」独特な芳香が口の中で広がる。

「それはライトシナモン味だな」

 ぶほっ。ミイラに追われた次の日にシナモンとは、洒落(しゃれ)を効かせすぎだよ……。

「ちなみに、わたしは断然ベジタブル味派だ」

 と言いつつ、既に食事を済ませていた盗賊。やっぱ素顔は見られなかったか。

「これから再びピラミッド探索をするわけだが、第三層に出現したあのモンスター群をどうにかしないことには、最上層までは到達できないぞ」

 確かに、素通りはできそうにないね。

「外から飛んでいくってのはどうかしら」

「あの手のダンジョンはズルをしない方が身の為だ。ろくな事にならないぞ」

 だよね。未完の冒険小説こと《狩人×狩人》に、トラップだらけの塔を外壁から降りようとして人面鳥に連れ去られちゃうシーンがあったからね。

「じゃあさ、もう一度透明になるとかは?」

 と、盗賊を見る。

「すまないのだが、四人全員を透明にするだけの木の葉がもうないんだ」

 なぜ葉っぱが必要なのかは、訊いても教えてくれなさそうだ。植物→光合成→酸素→空気→空気王?

「マホツカ~」

 と、ダメもとでマホツカに振る。

「ダメ」

 ですか~。

 まさか一体ずつおびき寄せて戦うわけにもいかないからな。

 やばい、行く前からして既に詰んでいるジャマイカ。

「もう、仕方ないわね。透明になる魔法は無理だから、代替としてとっておきのアイテムを使ってあげるわよ」

 と、マホツカはガサゴソといつもの擬音を立てながらローブの中をあさる。

「あったあった。えーっと《ディアボロスの香り》よ」

 取り出したのは、赤と黒の液体が混在した小ビンだった。

「それは……香水?」

「そうよ。魔法薬品で有名な《G.F.LIMITED》製の特注品よ」

 そんな有限会社があるんだ。

「どんな効果があるんだ?」

「ふっ、まさか機械相手に誘惑でもかけるつもりか」

 戦士と盗賊が興味深げにビンの中を流動する液体を覗いている。

「ずばり、モンスターを寄せ付けなくする効果があるのよ」

 おおっ、それはまさにこの状況を打破するのに打って付けじゃん――――なのだけど、さっきからマホツカの様子がおかしい。いつもなら「じゃっじゃじゃーん!」とか「ふっふふーん」とか自慢気に見せびらかすのに、今回はそれがない。まさか、記憶障害が発症する副作用があるとか?

「そんな便利なアイテムがあるとは、世界は広いな」

「そうだな。だがしかし、なぜ『ディアボロス』なんだ?」

 盗賊のツッコミをマホツカは聞こえていないのか、なぜか一人物思いに沈む。

「はあ……、何で副賞がこんな微妙な物だったのかしら……」

「どうしたのマホツカ?」

「! な、何でもないわ、何でも……」

 スーパーレアアイテムを手にして珍しく面妖な態度を取るマホツカ。

「どんな香りがするの? 早く使ってみてよ」

「い、今はダメよ!」

 え、何で?

「いや、だって……しょ、食事中じゃない」

 食事と言っても丸薬をかじっているだけじゃん。匂いとかあんまり関係ないと思うけど。

「どうしたマホツカ、何を躊躇しているんだ?」

「ぐぐ……、じゃあいくわよ。勇者にシュシュッと」

 と、苦渋を嘗めるかのような表情で、香水をわたしに吹き掛けるマホツカ。なぜか手を伸ばして可能な限り離れた位置にいる。しかも鼻までつまんでいた。

 もしかして、マホツカってキツイ匂いとか苦手なのだろうか?

 しっかし香水ですか。山で獲物を探すときに血で匂いをつけた経験は幾度もあるけど、香水などという大人な女のアイテムを使うのは生まれて初めてだな。しかも『ディアボロス』とは、いったいどのような悪魔的な香りが――、

 !?

「く――くっさー!!」

 うげっ、何じゃこりゃ!? 鼻がひん曲がる!

「うごっ、ぐはっ、な、何だこの腐乱臭は!?」

「ごわはっ、くさやより酷いぞ」

 何なのマホツカ、この強烈な匂い――もとい臭いは!?

「そういうアイテムなの。だから使うの嫌だったのよね……」

 鼻をつまんで苦々しい顔をつくるマホツカ。だったら出さないでよ!!

「こ、効果時間は……?」

「ま、まあ……一時間も経てば切れるでしょ」

 ま、まじかよ! し、死ぬ……。

 とはいえ、みんなもつけるのだから我慢しよう。

「先頭を歩くアンタにだけ吹き掛ければ効果はバッチリなはずよ」

 なんですとー!?

「よし、効果が切れる前に行くぞ、勇者」

「そうね、早く歩きなさい。それと風上に立つんじゃないわよ」

「身を犠牲にする精神、実に恐れ入った」

 みんなしてわたしから逃げるように距離を取る。

 むがー鼻がー!

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