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ⅩⅦ.地下層・もっと逃げろ!

「どはっ」

「ぐはっ」

「べはっ」

「はっ!」

 万有引力にいざなわれる長い旅路を終えたわたし達は、当然のように大地へと激突した。

盗賊だけはウルトラC級の着地を決めたのだけど、そこわたしの背中の上だから! 早く退いて!

「いてててて、みんな大丈夫?」

「ああ、どうにか」

「もう、ローブが汚れたじゃない」

 よかった、みんな無事のようだ。

「あの高所から受け身も取らずに落下して、おまえ達はよく平気だな……」

 二十メートル以上は落下したのに、確かに怪我らしい怪我は見受けられない。

 まあ、これしきのこと、今ではZ指定となってしまったクライムアクション小説――《馬車泥棒・参》の主人公に比べればたいしたことじゃないよ。防刃ベストを着ればどこから飛び降りても無傷だからね。カナヅチが唯一の弱点だったけど。

「どうやら地下のようだな」

 外と同じく硬い砂がむき出しとなった、ひんやりとした地面。

 上の階層と違って地下フロアは薄暗かった。ところどころに設置された燭台の炎がぼんやりと周囲を照らしてはいたが、視界は非常に悪い。

「何だか、陰気臭い場所だね……」

「そうね。何が出てきても不思議じゃないわ」

「ふっ、こういう場所にこそ、宝は存在するのだ」

 にしても、どうやって上まで戻ろうか?

 天井を見上げると落下してきた大穴が見える。地獄の天蓋に空いた地上への抜け穴のように、一筋の光が地下へと差し込んでいた。

「上には太い柱があったはずだ。あそこにロープでも結べば上れるだろう」

「ならば、これを使うか」

 備えあれば憂いなしな盗賊は、丈夫そうなザイルを取り出した。

「ってなわけで、マホツカお願~い」

「はいはい。言われなくても分かってるわよ」

 と、マホツカは釣竿袋に跨るが、なぜか飛び上がろうとしない。

「どしたの?」

「んん? 何で浮かばないのかしら?」

 台風に煽られて飛び方を忘れてしまった少女のように、マホツカが珍しくテンパる。

「魔力切れとか?」

「そんなわけないでしょ。まだまだ半分以上は残って――」


 マミーおとこたち(×9)が 現れた!


「うおっ、モンスター!?」

《マミーおとこ》――全身を包帯でぐるんぐるん巻きにした(された?)人型のモンスターが、音もなく現れた。しかも九体って多すぎ!

「なぜ極端に数が多いときがあるんだ……」

 だよね。こんだけ多いと枠に収まらないよ。

 落下地点は決して広くない場所だったので、どこかのマラソン大会のスタート地点みたいに渋滞となっている。

「まあいい。ここは倒さなければならないようだ――!?」

 ミイラといえばのろーりと近寄ってくるイメージがあったんだけど、マミーおとこたちは陸上選手顔負けの猛ダッシュで肉迫してきた。(わたし達が四人だからか?)

 そのあまりの迫力に戦士でさえ一瞬どきりと身を竦めてしまったのだが、ミイラたちはなぜか目の前まで接近するとピタリと動きを止める。

「はっ!」

 一向に攻撃をしてこないマミーおとこに、戦士が遠慮なく攻撃を与える。

「うべぁぁぁ」

 変な叫び声を上げながら息絶えるミイラモンスター。ようやくにして成仏した肉体は霧散して包帯だけが残される。

「一体一体は雑魚のようだな」

 数は多かったけど、敵さんは慎ましい性格のようで、一体ずつしか攻撃してこなかった。

「ふー、何とか片付いたね」

 来世では、せめて生けるモンスターになれよ。

 それでは気を取り直して、上へと戻る算段を付けようではないか――、


 マミーおとこたち(×9)が また現れた!


「ほんと『また』だよ!」

 しかもまた九体って、どんだけミイラいるんですか!

「だから、なぜ……」

 まずいな。いくら弱いからといっても、ノーダメージでは切り抜けられない。

「マホツカさ~ん。何かいい魔法ないですか?」

 戦士はともかく、わたしと盗賊では敵を一撃では倒せない。

「まったく、枯れた男相手になーに手間取っているのよ。仕方ないわね」

 飛ぶのをしばし中断して、マホツカが戦列に加わった。

「烈火の大剣よ、物理で殴るばかりの者たちに魔の力を与えよ!」

 そんな言い方はないんじゃないかな……。

「炎を奮え! 《エンチャント・フラムベルク》!!」

 補助魔法っぽいネーミングだな。いったいどのような効果なのだろうか――、

 …………。

 あり? 何も起こらない。

「え? 何で!?」

「やっぱ魔力が切れたんじゃないの」

「だから、そんなわけないはずなのよ……」

 さすがのマホツカ先生も、お疲れ気味のようだ。

 ここはわたしがやるしかないようだね。一日に何度も使用するのは少々きついけれど、

「一気に片付ける! 《雷の狂化魔法(バーサーク)》!」

 …………。

 あり? 何も起こらない。

「どうした勇者」

 あれれ、わたしも魔力切れ?

「どうやら、あの噂は本当のようだな」

 噂? (盗賊って噂話好きだよね)

「ピラミッドの地下には、魔法が無効化される仕掛けが施されているらしいんだ」

 な、

「何ですって!?」(うぐっ、マホツカに取られた)

 だからわたしもマホツカも魔法が発動しなかったのか。

『うばあぁ』

 !?


 マミーおとこたち(×9)が 追加派遣された!

 契約ミイラ社員募集中!

 墓荒らしをやっつける簡単なお仕事です!


 死人を募集してんじゃねーよ!

「ま、まずい。みんな一旦逃げるよ!」

 今日は逃げてばっかりだな……。

「くそっ! まさかミイラ如きに背中を見せて逃走することになるとは。この屈辱は絶対に晴らす! その顔決して忘れないぞ!」

 いや、包帯巻いているんだから、顔なんて判別できないでしょ。

 必死に逃げようとしたわたし達であったが、()人海戦術によって、回り込まれてしまった!

「まずいまずいまずいまずい」

「お、落ち着きなさい勇者。取り乱しても太い二の腕は細く――ん?」

 せっかく一難去ったと思ったら、また水を背にしたマナ板の上の鯉状態じゃないか。

「ふっ、魂の抜けた死者風情が。盗賊の七遁術のひとつを見せてやろう!」

 もうツッコミはしないよ。っていうか心に余裕がない。

「火に葬られるがいい! くらえ、《火遁・黒炎灘(こくえんだん)の術》!」

 懐から巻物を取り出すと、それをシュルシュルッと開封する盗賊。

 巻物には翼のない竜が墨で描かれていた。その竜が紙の中で躍りだすと、大きな口を開け墨色の炎を吹き出した。

「うばぁ」「うびぃ」「うぶぅ」「うべぇ」「ウボァー」

 ミイラたちが包帯ごと灰となっていく。すげー火力だ。

「さっすが盗賊、やるー!」

 十体以上いたミイラたちが瞬く間に全て火葬されていった。

 けれど、なぜか竜は未だ炎を吹き続けている。

「盗賊さん盗賊さん。もういいんじゃないですかね」

 だが盗賊は攻撃をやめようとしなかった。

「そ、それが、一度封を解くと効果が終わるまでこのままなんだ……」

 な、

「何だと!?」(うぐっ、今度は戦士に取られた)

 ミイラだけでは物足りず、砂や壁まで燃やす墨竜。狭い通路であったため、黒煙があっという間に立ち込める。や、やばい!

「みんな、急いで脱出するよ!」

 わたし達は急いで地上への階段を探した。

 もう、逃げるのにも疲れたよ……。

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