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ⅩⅥ.第三層・逃げろ!

 キカイヘッドが 現れた!


「いきなり!?」

 第三層へと上がった直後、ピラミッド内部では初となるモンスターと遭遇した。

《キカイヘッド》――タマゴを横に倒したような流線型のボディを持ち、生やした四本の手足を地につけて歩行するヘンテコモンスター。メタリックなシルバーグレーの体色からは、血と肉ではなく、オイルと鉄で造られたのだと判断できる。

「随分と奇怪な番犬だな……」

 うん、そうだね。(機械なだけに?)

「エサは……いるのかしら?」

 うーん、どうだろ。(きっとセルフなんでしょ)

「ふっ、立ちはだかる敵は全て倒すまでだ」

 戦わないことには先に進めない。とりあえず戦闘態勢へと移るわたし達。

 それに反応してか、キカイヘッドのおそらく目に当たる部分がモールス信号のように数回点滅すると、挨拶代わりの攻撃を先制で仕掛けてきた。は、速い!


 キカイヘッドの 攻撃!

 マスタードボム!


 へ?

 キカイヘッドの背中から寸胴型の物体が射出される。白い尾を引くそれは、わたし達四人の真ん中ぐらいまで飛来すると、落下直前で破裂した。

「うげっ!?」「ぐはっ!?」「ぶはっ!?」「ごわっ!?」

 周囲に赤と黄の混ざったガスが撒き散らされる。

「な、何じゃこりゃ? 目が痛いし、それに舌が――辛い!?」

 パンとソーセージとレリッシュがほしくなる刺激が沸き起こるのは気のせいか?

「これは辛子なのか?」

「水、水っ!」

「ぬおっ? 頭巾の中にこもった!」

 阿鼻叫喚の様相を呈するわたし達。マスタードってそのまんまの意味かよ! 何という対人間には絶大な効果のある攻撃だ。

「くそっ、怯んでなどいられるか!」

 ガスが晴れると、どうにか苦痛を我慢してキカイヘッドへと反撃を行う。


 勇者の 攻撃!

 キカイヘッドに ダメージを 与えられない!

 戦士の 攻撃!

 キカイヘッドに 12のダメージ!

 盗賊の 盗む!

《迎撃ミサイル》を 盗んだ!


 か、かってー!?

「見た目通り、鋼鉄の硬さだな……」

 腕が痺れるし、ショーテルが一部欠けてしまった。

 だが、そんなことよりも――、

「何でちゃっかり『盗む』なんてやってるのさ、盗賊」

「む? ああ、すまない。つい癖で」

 まさに手癖が悪いだな。それと《迎撃ミサイル》って何ぞ?

「また来るぞ!!」

 キカイヘッドの今度は口に相当する部分が開く。そこからノズルが伸びてくると、ゴーッと炎が勢いよく噴出された。


 キカイヘッドの 攻撃!

 火炎放射!

 勇者は 燃えた!!


「あっつ、あっちいいいぃ!!」

 蛇腹のようにうねる炎がわたしを飲み込んだ。

「だ、大丈夫か勇者?」

 全然大丈夫じゃないよ、めっちゃ熱いよ!

 しかも説明が「燃えた!!」だけって、簡潔すぎるだろ!

「厄介な敵だな。防御力もかなり高い感触だった」

 攻撃も厄介といえば厄介だよね。

「ふっ、ならば見せてやろう。盗賊の七符術のひとつ――」

 盗賊は素早く三枚の符を取り出すと、キカイヘッドに向けて全て投げつけた。

「くらえ、《龍爪符》!」

 ただの薄いペラ紙のはずなのに、符はまるで龍の爪のごとき鋭さを持ち、硬質なキカイヘッドの左前足部分に突き刺さった。


 盗賊の 攻撃!

 龍の爪が 敵の肉を断つ!

 キカイヘッドに 合計102のダメージ!


『ギギギィ』

 呻き声のような駆動音を鳴らしながら、敵の動きが一時停止する。攻め込むチャンス!

「いくよ戦士、前足に集中攻撃だ!」

「了解した。はあぁっ!」

「あ、待て二人とも――」

 え、何で――、

「ぶべばっ」「ぬおはっ」

 盗賊の攻撃でダメージを負った箇所を攻撃しようとしたわたしと戦士であったが、立て続けに起きた爆発三連発によって吹っ飛ばされる。な、なぜ!?

「起爆符を元にした符だ。一定時間経過すると、そして符は爆発する……」

 先に言ってよ!!

『ギギギギギィ』

 爆発によって左前足が破壊されたキカイヘッドであったが、右前足一本で器用にバランスを取りながら体を起こす。まだまだ動けるようだ。

「盗賊、符はまだあるの?」

「すまないが数に限りはある。この先のことも考えれば、ここで全て使うわけにはいかない」

 だよねー。あんな強力な技がバンバン使えたら反則だよね。

 とはいっても、物理攻撃だけでは太刀打ちできそうにない。ここはやはり――、

「ふふん、そろそろワタシの出番かしら」

 頼れる四番バッターは待ってましたと言わんばかりに腕をぐるぐると回す。休憩したばかりなので、存分に魔力が有り余っているようだ。

「こんなポンコツモンスター、すぐにスクラップにしてあげるわ」

 せめてリサイクルはできる程度にしてあげてね。ゴミは増やしたらダメっすよ。

「天空を統べる赤き竜の息吹よ、雷の槍となりて、敵を滅せよ!」

 マホツカの両の手にものすっごい量の魔力が集まるのが肌で感じられた。詠唱の文言が真面目なパターンの場合は総じて威力が高いと、過去の体験が教えてくれる。

 そしてわたしの持つ対マホツカ危険信号(レッドランプ)がアラートを鳴らした。

「全力全壊でいくわよ! サンダーフォース――」

「ちょっと待った!!」

「ブリューなっ、ととととっ?」

 魔力の波動が手から身体へと戻っていく。どうやらギリ間に合ったみたいだ。

「ふー、危なかった」

「ちょっとー、どうして邪魔すんのよ」

「だって、いつもの調子でドカンと魔法を使われると、フロア全体が崩壊して確実に生き埋めになりそうなんだもん」

 モンスターは倒せるかもしれないが、わたし達もすぐ後を追うことになるだろう。

「確かにそうだな。塔の屋上といい、城の天井といい、散々破壊してきたからな」

 だね。

「おまえ達は、いったいどのような旅をしてきたんだ……?」

 その話については時間があるときにじーーーっくり語ってあげるよ。

 だが少なくとも、今はそれどころではない。

「もうちょっと軽めな魔法はないの?」

「軽めって、魔法は夜食じゃないのよ。まったく、しょーがないわね……」

 肩透かしを食らい不満を露にするマホツカだったけど、ちゃんと魔法は使ってくれた。

「だったら半分のカロリーのにしてあげるわよ。えーっと、メンドーだから詠唱は破棄、《サンダーフォース・ジャベリン》↓↓↓」

 テンションが駄々下がりの、すげーやる気なさそうに魔法を唱えるマホツカ。

 しかし、その右手には空気を破壊する黄雷の槍が握られていた。やはりあの詠唱文言は不要なんだね。

「ほいっ、戦士」

「ん? っておおい」

 マホツカは魔法の槍を戦士へと無造作に放り渡した。

「やっぱ全力じゃないと調子が狂うわね。アンタ代わりに投げなさい」

 魔法って、意外と大雑把なんだな……。

「そういうことか。では、いくぞ――!」

 魔法を間接的に使えることに笑みを浮かべる戦士。

 後ろに下がると、戦士は軽い助走からタタッとステップを刻み、槍を豪快に投擲した。さっきの石投げといい、やっぱスポーツ万能なのか。


 戦士の 攻撃!

 雷の槍が キカイヘッドを貫く!

 キカイヘッドに 962のダメージ!

 キカイヘッドは 機能停止した!


 つ、つえー!

 機械って水とか雷に弱そうな印象があるとはいえ、これで威力半分なの?

「ふぅ、気持ちの良い勝利だな」

「あんな歩く分銅なんか、楽勝に決まってるでしょ」

 でも強敵には違いなかった。連戦だけはしたくない。


 キカイヘッドが ご期待に応えて 現れた!


「なぜー!?」

 ってか誰も期待なんてしてねーよ!

「まだ……いたのか」

「おい、後ろかも来たぞ!」


 キカイヘッドが 満を持して 現れた!


 ぎゃー!!

「やばいやばいやばいやばい」

「お、落ち着け勇者。取り乱したら負ける戦いも勝利する――む?」

 瓜二つのモンスターが二体。まるで前門の虎、後門の狼のごとく、わたし達は挟み撃ちにされてしまった。となると結末は……。

「どうすんのよ!?」

「言わずもがな、逃げるに決まってるじゃん!」

 完全に逃げ道を塞がれる前に、横手に伸びる通路に飛び込むと、無我夢中に逃走した。

「ちょっ、追いかけて来るわよ!」

 絶対に負けられない、命懸けの鬼ごっこが開幕した。

「くっ、見た目にそぐわず機敏な奴だな」

 戦士の感想通り、キカイヘッドはさすが第三層の番犬であるのか、デカイ図体のくせして小刻みにカーブを曲がってくる。ガチャンガチャンといつまでも執拗に追いかけてきた。

「階段はどこだ?」

「早く見つけなさい!」

「おい、前からも――」

 十字路にたどり着くと、何と四方をキカイヘッドに囲まれてしまった。やべー!

「盗賊、何かないの!」

 七錬金術でも、七錬丹術でもいいから!

「くっ、こうなれば盗賊の七投擲道具のひとつ《メタル・アーチン》を使って……」

「それただのマキビシでしょ!」

 しかも今さら撒いても遅いから!!

 大抵のことは冷静に対処してきた盗賊も、さすがに動揺しているようだった。

 と、キカイヘッドが一斉に火炎放射の合唱を始めようとしたとき、足元が急にヘコんだ。

「ん?」「お?」「え?」「む?」

 足裏から床を踏む感覚が失われる。つまりは――、

「「「「うわあああぁぁぁぁぁ!!」」」」

 わたし達四人は竜穴――普通の落とし穴トラップに引っ掛かってしまった。

 まさかこんな古典的な罠に――いや待て、これはこれで助かった?

 下の階に落ちたところで、謎仕掛けは全て解除済みだ。再び上まで戻るのに時間はさほど要しないはずだ。

「ん?」

 徐々に近づいてくる下の階を見やると、そこに待っていたのはまたしても大きな穴だった。ちょうと石塊スイッチがあった部屋である。

 まあ、第一層に戻っても……。

 重力に従ってさらに下の階へと落下し続ける。そこで待っていたのは――、

「げっ!」

 そう、またしても大きな穴だった。しかもあの穴は――、

「愚の骨頂で――」

「バカの極みで――」

「盗賊の恥――」

 の

「「「「落とし穴!?」」」」

 すっぽりと、仲良く四人揃って闇よりも黒く深い穴へと飲み込まれてしまった。

 どこまで落ちればいいんだよーーー!

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