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ⅩⅤ.マホツカ先生の魔法教室 ~拳で打つべし!の巻~

「ここは休憩できそうな場所だね」

 無意味な仕掛けだらけの第二層から階段(無駄にスロープ付き)を上ると、ちょっと広めの踊り場があった。

 どうせ第三層も疲れる何かが待っているのだから、ここらで一休みしよう。

篝火(かがりび)の跡があるな」

「さっきの宝泥棒かしら」

 作業員の憩いの場であったのか、探索者の休憩地点であったのか、篝火跡の近辺には椅子代わりとしてのブロック片がいくつも転がっていた。

「何となーく火を点けたくなっちゃうよね」

 寒い冬の日に、暖炉の前で温まりながらうとうとする姿をちょっと憧れていたんだよね。大きなワンちゃんとか飼っててさ、それに寄り添うとか、わっふー! ……だけど現実は布の服を『五枚重ね着』で耐え忍んでげふんげふん。

「どしたの勇者?」

「ううん、何でもない、何でもないよ」現実はマジで残酷だ。

 それよっか、火種はまだ使えるのかな?

「この炭の匂い、囲炉裏を思い出すな」

 囲炉裏っすかぁ。やっぱ盗賊は東ノ国の人なんですかね。

 火で思い出したんだけど、ピラミッドには今のところモンスターが出現しませんね。門番の石像に費用を使い過ぎてしまったのだろうか、それとも嵐の前の静けさなのか。いないことに越したことはないけど、逆に不安になる。

 まあいっか。それよか休憩休憩。

「マホツカお願い」

「はいはい。ほいっと」

 指先一つで篝火跡へと火を灯すマホツカ。うーむ……。

「何よ、じっとワタシの指なんて見つめて」

「いやさ、魔法って便利だよね」

 小さな火を(おこ)したり、宙に浮いたりと、モンスターと戦うだけが魔法の使い道ではない。

 わたしも一応魔法を使える。だけど如何せん理屈を全く理解していないのだ。ゆえにマホツカみたいに他に魔力を応用することができない。

 そうでなくとも、やっぱいろんな魔法を使えるようになりたいよね、

「そうだ! せっかくだから、何か魔法を教えてよ」

 と、マホツカに提案してみる。我ながらナイスアイデア♪

 ってか何で今まで気が付かなかったんだろう。確実に戦力アップになるではないですか。

「どうなのマホツカ先生」

「ん? まあ、減るものでもないから、別にいいわよ」

『先生』という呼ばれ方に気を良くするマホツカ。本人は我慢しているつもりだけど、頬が緩んでいるのがバレバレだ。

「魔法だと? 是非私も覚えたいものだな」

 戦士も興味津々のようだ。魔法戦士に転職っすか?

 目を輝かせる戦士に対して、マホツカはなぜか、高望みの志望校を受験しようとする生徒を見る先生の顔になった。

「見たところ、アンタには魔法の素質ゼロだから、一生無理ね。諦めなさい」

「ぐはっ」

 真実の刃にばっさりと一刀両断される戦士。余程ショックだったのか、踊り場の隅にて体育座りをしながらずーんと沈んでしまった。可哀想に……。

 とりあえず戦士は放っておくとして、わたしはマホツカ先生指導の下、魔法を一つ覚えることとなった。

「最初だから、簡単なやつでいくわよ」

 魔法といえば、やっぱ火の玉を飛ばしたり、雷の矢を放ったりとかが定番だよね。わくてかわくてか。

「一度しかやらないから、よーく見てなさいよ」

 と、マホツカは手の甲を前に向けながら、色の白い両の拳を力強くぎゅっと握った。

「纏え、《炎の拳帯魔法(セスタス)》!」

 拳を薄っすらと覆う光が、詠唱とともに細長い帯のように変化する。その帯がマホツカの腕にぐるぐるっと巻きついた。

 ん? セスタス?

「はっ、せいっ!」

 シュシュッ、シュシュッと軽やかなステップでシャドーボクシングを始めるマホツカ。

 そして手頃なブロック片を見つけると、真上から正拳を叩き込んだ。わたしより細い腕なのに、ブロック片は砂糖菓子のように簡単に砕ける。

「どうよ!」

 いや、そんなドヤ顔されましても……。

 ってか何で拳?

「あの、できれば遠距離攻撃の魔法がいいんですけど……」

 その文句に、明らかに不機嫌な顔へと変わる鉄拳教師。

「あぁん? そんな難しい魔法、今のアンタじゃ無理よ」

 ええっ、遠距離タイプってそんなに難易度高いの? 魔法使いの皆さんたちが杖を振りながらちょちょいのちょいって使ってそうじゃん。

「せめて拳で戦うのは……拳じゃなくって剣があるし」

「剣が折れたときのためよ。覚えておいて損はないでしょ」

 いや、まあ、そうだけどさ。

「そんなに遠距離魔法を覚えたいのなら、まずは魔法学のイロハとホヘトを徹夜で叩き込む必要があるわね。言っとくけど、数学や物理の比じゃないわよ」

 うげっ、勉強は嫌だ。

「贅沢言って御免なさい。セスタスでいいです。是非ともご教授お願いします」

「分かればよろしい」

 念願の遠距離攻撃魔法はお預けのようだ。まっ、次があるさ。

「で、どうやって発動させるの?」

 まさか、口で魔法名を叫べばいいというわけじゃないよね?

 ちなみに、わたしの雷の魔法はそんなノリで発動している。何で発動すんだろね。

「魔法はとにかくイメージすることが大事よ! 拳帯魔法なら、魔力をセスタスへと変化させるイメージを頭の中で思い浮かべるの」

 ふむふ……む?

「手は一番魔力を集めやすい場所なの。拳帯魔法はその名の通り拳に魔力を纏うだけだから、魔力を変化させるコツさえ掴めばすぐにできるわ」

 えーっと……。

「ん? 説明不足だったかしら」

「いや、そうじゃなくって」

 マホツカってどことなーく天才肌って感じだからさ、てっきり「ギューンと魔力をタメて」、「バーンと炎を腕に巻いて」、「ズガーンと殴る!」とか言うと想像してたんだよね。分かりやすい説明かどうかはいまいち判断し兼ねるけど、案外論理派なんだな。

「魔法は不思議現象じゃなくって、ちゃんと理論に基づいた物理現象よ。それが理解できないで、オリジナルの魔法なんか作れないわ」

 さいですか。

「とにかく、まずは習うより慣れろね。複雑なことは考えずに、まずはやってみなさい」

 なるへそ。ならば期待に応えて一発で成功してみせようじゃないですか!

 わたしは両手に力を込める。イメージだ、イメージ……拳に魔力を纏うイメージを……!

「よし、いくよ! 纏え、《炎の拳帯魔法(セスタス)》!」

 ……、

 ……、

 ……?

「あり? 何も出ないッス」

「何で炎の属性なのよ。アンタが使えるのは雷の属性でしょーが」

 やっぱそうなんだ。

 でもさ、それならそっちでお手本見せてくれればいいのに。

「ワタシは雷の属性はあんま得意じゃないの」

 そうなんだ? その割には、精霊王や魔王相手にめっちゃ強烈な雷の魔法をお見舞いしようとしてたよね。

 まあ、マホツカも何だかんだでわたしと同い年だからね。苦手や嫌いなものの一つや二つはあって当然ってことか。

「では改めて。纏え、《雷の拳帯魔法(セスタス)》!」

 ……、

 ……、

 ……!

 パチパチっと、冬場の静電気並みの微弱な雷が手の甲で踊った。

「まあ、誰だって最初はこんなものよね……」

 言葉とは裏腹に、いかにもできない生徒を見る教師の顔をするマホツカ先生。そんな目でわたしを見ないでー!

「し、仕方ないじゃん。魔法なんて理屈を知るのは初めてなん――」

「纏え、《氷の拳帯魔法(セスタス)》!」

 へ?

 魔法を唱えたのは盗賊だった。両腕に冷気の帯が巻かれているのがはっきりと視認できる。

「な、なぜ!?」

「ふっ、盗賊とは何も物品だけを盗むに限らず。森羅万象を盗むのさ」

 どこぞのコピー忍者だよ!?

「アンタは仮にも勇者なんだから。これぐらいの低級魔法はすぐにできるようにしなさいよ」

 初授業にしていきなり宿題を課せられてしまった。

 でもさ、できない子ほどかわいいものはないって――、

「センジンの谷に落とすわよ」

 うぐはっ!

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