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ⅩⅣ.第二層・アイテムの上手な活用術

 錠の仕掛けが施された赤い扉の部屋にて、わたしと戦士が扉から左右へ等間隔に位置する床スイッチの上に立つ。

 同時にスイッチが押されていることが認識されると、押しても引いても叩いても微動だにしなかった扉が、解除音を鳴らしてフワッと消滅した。

「よし、この部屋も解除完了」

 トラップだらけの第一層から階段(無駄に手すり付き)を上って次の階層へと進んだわたし達一行。

「左右離れた位置にあるスイッチか。《分け身の術》がないと一人では解除が困難だな」

 顎に手を当てながら盗賊がボソリと感想を漏らすように、ピラミッド第二層はヘンテコな仕掛けが盛りだくさんあるフロアだった。

 今みたいな床スイッチであったり、同じ色を二つ組み合わせると消える謎ブロックであったり、カラの宝箱を特定のパターンに開閉するであったりと、いちいち頭を使って謎解きしないとならないので、進むのにやたらと時間を要する。

 何度も言うようでくどいけれど、絶対に建造中フロアの行き来に困っただろ。

「また、扉か……」

 うんざりした様子の戦士。せっかく扉を越えたのに、その先の部屋にも同じ形同じ色の仕掛け扉がデーンと待ち構えていた。

「これで何部屋目よ……」

「確か、八だな」

 わざわざ数えていたんだ、盗賊。

 ピラミッドは構造的に、上の階層ほど面積が狭い。第一層の広さから考えるに、第二層は半分ぐらい踏破したかな。確か下では落とし穴のあった分岐点に差し掛かった辺りだ。

 まだまだ先は長そうだね。

「メンドーね。いっそ壁を破壊した方が早いんじゃないかしら?」

 試してみたいけれど、建物自体が崩壊する恐れがあるから無しで。

「見たところ、床や壁にスイッチの類はなさそうだな」

「おそらく、あれが解除スイッチだろう」

 盗賊の指先をたどると、やや離れた場所に半透明で灰色の石塊が、台座の上に固定されていた。宝石のようにきれいに磨かれており、頂点は三角錐になっている。

「あの石が?」

「ああ。似たような仕掛けを別のダンジョンで見たことがある。衝撃を与えれば作動するカラクリのはずだ」

 なーんだ、随分と単純だね。

 では、さっそく――、

「って、おおっと?」

 石塊スイッチの場所までは床がなかった。《メタボスライム》でもすぽっと落とされそうな大きの穴となっている。これでは壁や天井を這っていくしかなさそうだ。

 でも、そんな蜘蛛男みたいなことをする必要はない。

「マホツカ、ひとっ飛びお願い」

 宙に浮いているのなら、落とし穴などないようなものだ。

「むむぅ……パス一で」

 タライトラップが余程堪えたのか、マホツカはあれから釣竿袋で飛んでいなかった。

 気持ちは分からんでもないけど、いかにも怪しいロープを引っ張った自分が悪いんでしょ。まあ、おいしかったけどね。

「石を投げて当てれば事足りるだろう」

 戦士は罠検知で使用していた《石ころ》を投げる。美しいオーバースローから放たれた石はストレートで石塊スイッチにヒットした。ナイスピッチ!

「……む、何も反応しないようだが」

 石塊も扉も静かなままだった。

「あのスイッチはただの石では反応しない」

 衝撃が弱かったとか?

「衝撃はさほど強くなくとも作動するはずだ。だが当てる『物』に問題がある。たとえばこのような……」

 盗賊がサッと取り出したのは、レーザートラップでも使用していたクナイだった。

「さっきも投げてたよね、そのクナ――」

「これは盗賊の七投擲道具がひとつ、《スローイング・ダガー》だ」

 いや、クナイだよね? ねえってば?

「はっ!」

 わたしの指摘を完全スルーした盗賊は、腕のスナップだけでダガーを投げる。

 一寸の狂いもなくダガーは石塊スイッチへ命中した。ナイススロー。

 すると、今度はちゃんと仕掛けが作動したようで、石塊の色が灰色から淡いオレンジ色の光に満ち溢れる。連動してか次の部屋への扉が消えた。

「なぜ石では駄目だったんだ?」

「その筋の情報によると『グッズ』認定されている道具でないと反応しないと聞いたことがある。だが、そもそもグッズという単語が何を示すかが分からない。わたしの場合は所持していたクナ……スローイング・ダガーを当てたら反応したので、今回もそうしただけだ」

 スルスルと細い糸を手繰り寄せる盗賊。何をしているのかと思えば、どうやら糸をダガーに結んであったようで、ちゃっかりと穴に落ちたダガーを回収していた。

「まあいっか。解除できるのなら、それでいいじゃん」

 先を急ぐため、深い事は考えずに次の部屋へと進む。

「また、か…………」

 そこは一目瞭然で仕掛けがあると分かる部屋だった。

 細長い部屋には一直線上に並ぶ九つの燭台(しょくだい)が置かれていた。メラメラと激しく燃える炎は、なぜか熱さが感ぜられず、ススの匂いもしない。

「今度は何だろ?」

「まさか、全ての燭台の炎を消すとか、か?」

「おそらく、そうに違いない」

 試しに一つ、布切れを使って消してみる。

「普通に消えたね。熱くもないし、そいじゃ次も――」

 だが二つ目に取り掛かろうとしたとき、消したばかりの一つ目の燭台から再び火の粉が舞い上がった。

「あり?」

「また点いたわね」

「ふっ、なるほど。刹那の間に全て消さなければならないようだな」

 め、めんどくせ……。

「四人で分担して消すとしても、今の短い時間で二つ三つ消すのは難しそうだね」

 それこそ盗賊が口にする分身の術を用いるべきなのか?

「ふふん。こーいうときは、ワタシに任せなさい」

 ドンと平らな胸を叩くマホツカ。まさか、氷の魔法で消そうとか思ってないよね? 加減を知らないマホツカのことだ、燭台ごと全部壊すかもしれない。

 懐疑的な視線を向けるわたしを余所目に、マホツカはガサゴソとローブの中から何かを取り出した。

「じゃじゃん、《フリーザーパペット》よ!」

 フェルト地っぽい素材でできたファンシーな雪だるま型のパペットだった。縫い目や継ぎ接ぎ部分が見つからないのは、マジックアイテムの証左なのだろう。それと、小枝の腕とバケツの帽子は魔法使いの世界でもお決まりなんだね。

「腹話術でもするつもりなのか?」

「まあ、黙って見てなさいって」

 マホツカは九つの燭台が一直線に重なって見える位置に立つと、パペットを燭台に向けて突き出した。

「それっ」

 おそらくパペットに魔力を注いだのだろう。雪だるまの両目がカッと光ると、口から白い粉雪を吹かせながら、薄氷色の冷気が吐き出される。ちょっとコワ。

 ビームの如く射出された冷気は、九つの炎を貫通しながら全て消火させた。

 すると、やはり連動して部屋の奥にあった扉が開く。

「ほう、便利な道具を所持しているようだな」

「本来は防災用のマジックアイテムの一つよ。炎しか消さない特殊な冷気を出すの」

 一家に一個ほしいね。

「ところでさ、マホツカと盗賊はいろんなアイテムを持っているけどさ、そんなたくさんのアイテムをどこにしまってるのさ?」

「それは私も気になっていたな。重量だけでも馬鹿にならないはずだ」

 いいかげんこの辺りで種明かしをしてほしいところである。

「どこって、《ふくろ》の中に決まってるじゃない」

「どことは、《ふくろ》の中以外にどこにしまえというのだ」

 ……何ですか《ふくろ》って。

「ふくろはふくろよ。口に入る大きさの物ならいくらでも入って、取り出したいときには、取り出したい物を思い浮かべながら手を入れるとそれが掴めるの」

「旅には欠かせない必需品だな」

 そんな便利なアイテムがあったとは。何で教えてくれなかったの。

「どこに売ってるの? わたしもほしいな」

「うーん、完全受注生産だから、時間とお金が掛かるのよね」

 そうなんだ。今は無理でも、いつかほしいところである。

 と、わたしは有限な量しか入らないマイバッグの中身を見る。これまでの冒険で入手してきたアイテムが入っているが、そろそろ容量の限界かもしれない。


 E ショーテル

 E 旅立つ人の服

 シンヨーク王家の証

 精霊の洞窟の地図

 薬草

 薬草

 毒消し草

 焦げた薬草

 小ビン(効果が切れた回復の泉の水)

 風の精霊の羽

 折れたブロンズナイフ

 砕け散った翠銀の槍の欠片


「ゴミばっかりね……」

「そこまで言わなくても!?」

 大事な思い出の品ばかりだ。捨てるなどモッタイナイ!じゃん。お化けは出るなよ。

「なぬ、これは!」

 興味なさ気な盗賊であったが、いきなり目を奪われたようにバッグの中身を覗いてくる。

「面白いものなんて入ってないけど」

「この焦げている薬草、これは――」

 ああ、マホツカのせいでウェルダーンしちゃった薬草だね。初お宝の成れの果てだ。

「この元薬草がどうかしたの?」

「これは《バーン・ベリー》ではないか」

 え? バーン……何だって?

「《バーン・ベリー》だ。魔法薬の素材として、かなり価値があるはずだ」

 こんな真っ黒なのに? 毒薬か劇薬の間違いじゃないの。

「……いらないのなら、譲ってくれないだろうか」

「まあ、別にいいけど」

 わたしが持っていても猫に小判ザメだからね。思い出はプライスレスだけど、盗賊がほしいというのなら、渋る理由はない。

 わたしは《焦げた薬草》改め《バーン・ベリー》を盗賊に渡した。

「只で貰うのは気が引けるな。代わりといっては詰まらない品だが、これでどうだろうか」

 と、盗賊が大きな純白の羽を渡してきた。


 《怪鳥の羽》を 手に入れた!


「見ての通り鳥の羽なのだが、それなりに珍しい品だと思われる。アイテム収集家などが欲しがっているかもしれない」

 切手マニアならぬ羽マニアですか。いるのかそんな人?

 せっかくなので、わたしは《怪鳥の羽》をありがたく頂戴した。もしかしたら何かの役に立つ……わけないか。

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