ⅩⅡ.第一層・やっぱり罠には御用心?
下品な笑いをする石像兄弟を倒したわたし達は、やっとピラミッド内部へと進入した。
まず手始めにお出迎えしてくれた第一層は、狭い通路が真っ直ぐ延びるフロアだった。人が一人分通れるぐらいの幅しかなく、天井も低い。圧迫感で息が詰まりそうだ。
それと敵に挟み撃ちされたら嫌だな。戦士でなくとも慎重に進みたくなる。
だが、そんなことは想定の範囲内だ。ツッコミどころは別にある。
「随分と明るい内部だな。これならカンテラを使う必要もあるまい」
「そう……だね」
「そう……だな」
「そう……よね」
盗賊のごく自然な感想に、わたし達三人は口を揃えて相槌を打つ。
「灯りが一切見当たらないな。どういう仕組みなのだろうか」
「えー……っと、気にしたら負けだと思う」
「? 何か知っているのか」
いえ、別に。
精霊の洞窟と同じく親切設計この上ないダンジョンだな、このピラミッドも。グッドなデザインの賞に選ばれた有名仕様なのだろうか。
「ふっ、まあいいか。探索するのには好都合だ」
「そうだよね、電気料金をわたし達が払うわけじゃないし」
そんなことよりも、率先して先頭に立った戦士が、さっきから通路の前方に石を投げては罠の有無を確かめているのが気になる。そこまで心配する必要ないんじゃない。
と、転がっていく石が突然消えた。
「落とし穴?」
一本道の通路を進むと、六角形の太い柱が天井を支えるひらけた場所へとたどり着く。
そこにはメタボな人でもすっぽり落とされそうな大きな穴があった。穴が深いのか地下が暗いのか、穴はまるでインクの水溜りのように不自然なまでに黒かった。
「かなり深そうだな」
試しに石を落としてみると、落下音がいつまで経っても聞こえてこない。
「でも、こんな分かりやすい落とし穴に引っ掛かることなんてないでしょ」
「そうだな、これに落ちるなど愚の骨頂だな」
「そうよね、これに落ちるなんてバカの極みだわ」
「そうだな、これに落ちるとは忍びの恥……おっと、盗賊の恥だな」
もうバレバレなんだから隠す必要ないと思うけどな……(ツッコミ待ち?)
その話題はとりあえず脇に置いといて――先に重要な問題を片付けなければ。
「どうやら、分かれ道みたいだね」
二本の柱の間に落とし穴がある分岐点には、そのまま直進する通路の他に、左右それぞれ枝分かれした、これまた細い通路があった。
今回は地図がないので選択に迷うところである。しかし――、
「こーいうときは、ずばり『左手の法則』でしょ!」
時間はかかるかもしれないけど、下手に進んで迷うよりかはましだからね。
「その法則は当てになるのか?」
なるなる。瞳の色が変わる人のお墨付きだし。
「そいじゃ、さっそく左手を壁に当てて進みましょ~♪」
と、左側の通路に足を踏み入れた瞬間、足裏から嫌な感覚が起こる。
「? ぎょえびばえーーーーーーーーーー!」
わたしの全身をビリビリの衝撃が血液のごとく隅々まで流れる。
「これはもしや、電流床か?」
「そうみたいね。何万ボルトぐらいあるのかしら?」
「実に恐ろしい罠だな」
って、何でみんなして冷静に分析しているんだよ!
誰も助けてくれなかったので(助ける側も危険だから仕方ないけど)、自力で電気が流れる通路から離脱する。
「うげー、死ぬかと思った……」
「いや、普通は死ぬかと思うが」
「さすがは勇者だ」
「便利な身体ね」
電気や雷ならわたしはへっちゃらな身体なんだよね。まじで命拾いしたよ。初めて勇者に生まれてよかったと思えたかもしれない。
それに身体が軽くなったような気がする。充電完了?
「左の通路は電流の床か……。やはりこのダンジョンには危険な罠が仕掛けられていることが分かった。ここからはより周到に進まなければならないぞ!」
戦士は右側の通路を選ぶ。わたしの被害を考慮してか、入念に足で床を叩きながら一歩ずつ亀の歩みで進む。日が暮れるよ、それじゃ。
「ふむ、右の通路には何も罠がないようだ――」
と、戦士が両足を揃えた刹那、床からカチッと音が鳴った。
「? ぬおはあぁっ!」
突然床が爆発を起こし、戦士が閃光と火花が混ざった黒煙に包まれる。
「これはもしかして、地雷床?」
「そうみたいね。TNT火薬何キロ分ぐらいあるのかしら?」
「実に危険な罠だな」
って、冷静に分析している場合じゃないよ!
「ごはっ、ごはっ。こ、これしきの衝撃など露程も痛くなどない!」
「いや、普通は重傷を負うと思うが」
「さっすが戦士だ」(言葉に多少の強がりが含まれているっぽいけど)
「無駄に頑丈な身体ね」
しっかし電流床に地雷床のトラップがあるとは。どうやって進めばいいの?
「まったく、アンタたちには難儀ね。こうやって宙にいればなんともないのに」
天井近くまで高度を上げるマホツカ。一人だけずるーい。
「ふふー、ん? 何かしらコレ?」
天井から蜘蛛の糸ならぬ一本のロープがなぜか垂れ下がっていた。
「何かのスイッチかしら? 気になる、気になるわね……」
「待ってマホツカ! それを引いちゃ――」
「えーい、グイっとな!」
「「「あっ」」」
マホツカは何かの衝動に駆られたかのような感じでロープを思いっ切り引っ張った。
「? どがんぱっ!?」
突如天井がパカッと開くと、大きなタライが降ってきてマホツカの頭頂部に直撃した。
「これはもしかして、ド○フ?」
「そうみたいだな。何ボケ分の笑撃があるのだろうか……」
「実に危険な罠……なのか?」
この罠に関しては冷静に分析を行う必要がありそうだね。
「何なのよ、このアホな仕掛けはー!!」
どうやらとんがり帽子のおかげで大事には至らなかったようだ。
それにしても、上からタライを落とすとは、分かっているな、建造主よ。
「左右上全部駄目っぽいから、素直に真っ直ぐ進もう」
「そうだな……」
「そうみたいね……」
…………じー。
「……なぜ三人してわたしを見つめているんだ」
いや、だって、ほら、順番的に次は盗賊でしょ。ささ、どーぞどーぞ。
「ふっ、罠を恐れてダンジョン探索ができようか」
おおっ、何と頼もしいお言葉!
と、盗賊が中央のルートに足を踏み入れた矢先、突如狭い通路に一筋の白く光る線が真横に引かれた。それが通路への侵入者――盗賊に向かって迫ってくる。
危険を感じたのか、盗賊は懐から取り出したクナイっぽい投げナイフを白い光線に向けて投擲する。すると線に当たったナイフが真っ二つに切断された。
「っ!」
迫り来る凶器を盗賊は屈んでやり過ごす。
だが、それで終わりではなかった。盗賊がさらに数歩通路を進むと、再び引かれた光線が襲い掛かってくる。
「これはもしかして……何だろ?」
「見ての通りじゃない。レーザートラップよ」
「「レーザー?」」
「通路の奥に台座があるけど、あれが解除スイッチのようね」
相変わらず訳分からんことを平然と解説するマホツカ。
そのレーザーとやらが、今度は足元の高さで盗賊へと迫った。
跳躍してかわそうとした盗賊であったが、いきなりレーザーは上へと軌道修正する。
「くっ!」
盗賊は天井にあった小さな突起部分を掴むと、身体を持ち上げて紙一重でレーザーを回避した。あ、危なかった。
「ふっ、これしきのことで」
さらに一歩、台座までもう少しのところで、三度レーザーが発生する。
「これを避けさえすれば――」
その希望が絶望に塗り変わる。レーザーが通路の幅目一杯に網の目状に広がったのだ――回避する隙間など虫の通り穴ほどもない。
「盗賊!!」
狂気のレーザーが盗賊の身体をサイコロステーキのように切り裂いた――と脳裏にトラウマが焼き付けられようとしたまさにその時、盗賊が丸太に代わった。
「ふっ……、間一髪だったな」
と、奥までたどり着いた盗賊が台座のスイッチを押して仕掛けを解除する。
無残に木屑となった丸太を見ると、先のガーゴイル戦での攻撃痕が残っていた。使い回しっすか?
「くっ、これでは《身代わりの術》はもう使えないか」
まあ、何個も持ち歩けなさそうだからね、って一個も無理だろ!?