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Ⅰ.三十秒で分かる前回のあらすじ

 タイトル 『わたし勇者』

 著 勇者


 わたし

 勇者

 体重?

 よんじゅ……ひみつ!

 彼女?

 いえ

 女ですから

 でも

『おとこ』ですから

 みたいな


 魔王を倒すため

 旅に出た


 風の精霊

 エロかった

 ので

 フルボッコにしてやったり!


 嵐の精霊王

 一度は敗北した

 けど

 ペシャンコにしてやったり!

 みたいな


 魔王

 倒しましたとも

 戦士と

 僧侶ちゃんと

 マホツカと

 みんなで力を合わせて

 みたいな


 そして世界は

 平和になった


 おしまい



「こ・ん・な・ん・で分かるかー!」

「そんなッ……バカな……ッ!?」

 ガタ、ゴトと不規則に揺れる車内にて、マホツカが落雷のごとく憤慨する。

 わたし達はカリメア大陸横断鉄道の寝台車両の一室にいた。二等寝台の四人部屋で、サービスは一切なし。まあ、贅沢はラスボスだからね。

 目的地の《ラスゼガス》まで時間があるので、マホツカの提案で、魔王を倒すまでの経緯を小説として活字に起こすことにしてみたのだ。

 さっそくわたしが、トロールもタップダンスをするであろう躍動した文章を書き上げた――のだけど、編集長マホツカに怒られた。なぜだ?

「何堂々とパクってんのよ! しかもあんな駄文を!」

「ええー、読みやすくていいじゃん」

《ぼくは彼氏》――数年前に一世を風靡(ふうび)した恋愛小説。『男の子の全てがここに濃縮してある! みたいな』なキャッチフレーズで、シンヨーク中の女の子が、男子の気持ちを理解するために読み(ふけ)った名(迷?)作だ。その奇抜な文体を真似してみたんだけど、ちょっと地の文が少なくて説明不足だったかな?

「少ないじゃなくて『皆無』でしょーが!」

 むむむ、でも模倣は独創の母って言うし。

「はぁ、勇者も意外とミーハーねぇ」

 そりゃまあ、一応『女子』ですから(キリッ!)。

「ん……ん? 何しているんですか、お二人とも?」

「あ、ごめん僧侶ちゃん。起こしちゃった?」

 人生初の寝台列車に浮かれて夜更かししてしまった昨晩。徹夜など縁のない僧侶ちゃんはすっかり熟睡中だったのに起こしてしまった。あ~僧侶ちゃんの寝顔は激かわいかったな~。けれど寝癖をつけて眠りまなこでとろ~んとする姿はもっとヤバイ! 発狂して虎になりそう!

「まったく、この駄作はゴミ箱に直行ね。メモリの無駄だし、ポチっとな」

「うそっ、消しちゃうの!」

 マホツカはアルフォンの『消去』と表示されたボタンを無情にも押した。わたしの傑作が一瞬にして――灰をスキップして――墓場逝きとなった。鬼編集長だ、血も涙もない。

「ううぅ、せっかく書いたのに……」

「あんな昔流行(はや)ったのを今時書いたら、苦笑されるか不燃物扱いされるかのどっちかなのよ。次はオリジナルの文体で書きなさい」

 そんなこと言われましても、わたしに文才なんてないし。

 それにあのタッチしながら文字を書くのってすごく疲れるんですけど。間違えて別の文字が入力されるのがほんとイライラしまくった。

 僧侶ちゃんは髪を()き、マホツカがアルフォンで新着ニュースを読み、わたしは次回作のネタ出しを考えていると、突如窓の外が明るくなった。

「うわぁお、地平線だ」

 州境の長いトンネルを抜けると――砂漠だった。獣一匹棲息していない極暑の地である。

 太陽が()燦々と輝いていた。怒った顔して突進してきそうな雰囲気である。

「もう少しで到着するみたいだな」

 スライド式のドアが開くと、朝の鍛錬に出かけていた戦士が首にタオルを巻いた格好で戻ってきた。狭い列車のどこに鍛錬する場所があったの?

《ヌバダシティ》の最大都市であるラスゼガスは、砂漠のど真ん中に築かれたオアシスの街である。その昔、《ゴールドゴーレム》が大量繁殖した時代に、前線基地として重宝されたのが起源だった。今では世界有数のカジノの都として、世界中から観光客や一攫千金を狙ったギブソンさんと、ブラックジャックで一山当てようとする暗記の得意な学生達が集う。

「とうとう着くんだな」

「そうですね。ギャンブラーの聖地に」

「ふふん、キャビアとドンペリ用意して待ってなさいよ」

 みんなして眼光鋭く街がある方向を窓越しに眺めている。何か怖いんですけど……。

 それもそのはず、ゼガスでの目的は観光ではなく、さらに精霊や精霊王とかましてや大魔王とかとは全く関係のない用事なのだ。

 すなわち『(マネー)』である。

 大魔王討伐のため、世界中を旅するための資金をカジノで稼ぐために訪れたのだ。

 お城がほぼ全壊したぐらいでビタ一セント王様が出してくれなかったから、こんな寄り道をわざわざする羽目になったのである。

「まあ、これも旅の良い思い出になるかな」

 しかし、どうしても嫌な予感しかしないのはなぜだろう、そしてなぜだろう……。

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