第13話 ショートケーキ君
「野田…って、野田優子の野田?」
当たり前だろーが、と言うようにそびえる一軒家。そして表札。
辺りを見ても仁科の姿はない。
隠れてる…わけないよね。あの金髪ムダに目立つし。
「まさか…まさか、ふたりがそんなに仲良かったなんて…っ」
七架、16歳。
彼氏いない、縁がない歴16年。
「遊ぶなら私も呼べ…っ」
――と、道路から見える二階の一室に灯りが灯った。
なんとなく、ふたりが移動したんだ、と把握。
ぬうぅ…っ、私もまざりたい!
仁科は怖いけど、うん、なんか仲間に入りたい!
完全な不審者になっているのに気づかず、野田家の前で腕を組んで仁王立ち。
部屋の中にはどちらの姿も見えない。
「優子~出てこい~」
変な儀式を行ってみる。
「ま、無理ですよね」
じゃあ、どうしよう。
あの木に登れば、ちょうど部屋が覗き込めるかも。でも、残念ながら、私にそんな運動能力は備わっていないはず。こんな時役立つなら、木登り力欲しいかも。
「……あら?」
ふいに声がして、視線を二階目線から通常に戻すと、優しそうなおばさんが、ドアを開けかけてこっちを見ていた。
「あ…どうも…」
「どなた?うちに用かしら?」
どっからどう見ても優子のお母さんだよね…。
ちょっと今は出てきてほしくなかった。
「えーと…」
「もしかして、優子のお友達?ごめんなさいね、優子気づいてないみたい」
そりゃ気づいてないでしょう。尾行してきたわけだし。
「入っていいわよ。あの子二階にいるから」
そう言われて七架、やっと気づいた。
ペコと頭を下げてから門をくぐる。
―――玄関から普通にお邪魔すればいいじゃん…。
家の中はどこもかしこも綺麗に整頓されてて、玄関の正面にある階段にはたどり着くまでたった数歩なのに、野田家の優しい感じが伝わってきた。きっとあのお母さんがいつも気をつかっているんだろう。
私達の家は玄関から汚いもんな…。
ちょっとだけ、お母さんの存在が懐かしく思えた。
「階段はあがってみたものの…」
どうやって部屋に入ろう。
迷ってて遅れちまったぜ!みたいなノリで、もともと来る予定だったかのようにのりこむか、それともさっきのお母さんの時みたいに優子が出てくるのを待つか。でもその場合は仁科が出てきたら最悪だし…。
「…………何してんの」
「どうやって侵入するか考え中!」
「……………侵入?」
試行錯誤している私影が覆う。
「………侵入って」
「いかに仁科に見つからないように部屋までたどり着くか…」
って、おやおや?私は誰と話してるのかな?ロボットのようにギコギコと後ろを振り返る。
そして数秒前の発言を爆破したくなった。
「………に、に、仁科ぁああぁあ!?」
いつからいたのか、後ろの金髪男がぼけーっと私を見ていた。
手にはなぜかイチゴのショートケーキ。すごいミスマッチ。
「2、2、仁科?」
私、いかに見つからないように…とか言わなかったか!?
あっさり見つかってるし!今日こそ殺される!日頃の恨み込めて殺される!
お父さんお母さん、先立つ不幸をお許しください。
ついでに空智君もごめんなさい、あとは一人でなんとかして。
「…雲見」
「は、はい!?」
「…これ、持って」
と、渡されたのはふたつのショートケーキのうちのひとつ。
「ケーキ…」
仁科があいたほうの手で私の隣の部屋のドアを開けた。
「お帰りなさい、ケーキ君」
「慧、な」
中からは優子の声。ここが優子の部屋らしい。
今逃げだせば、きっと生きて帰れる。そう思い近くの棚にケーキを置いた………のに、部屋からまた仁科が出てきた。
「雲見…来ないの?」
「え、七架来てるの?」
続けて優子もひょっこり出てくる。
「わ~♪入って入って!慧君、ケーキもうひとつ持ってきてくれる?」
無言で階段に向かう仁科と私を部屋に引っ張り容れる優子。
「え、えーと…」
これってどういう状況なんでしょうか。
黄緑の章の終わりが見えない。