第12話 暇人の尾行
――翌日。
今日も魔王はやって来た。
「おはよう、慧君」
「………ん」
つまり、優子が仁科にかかりっきり…と言うか、私が放置状態になる。
別に優子を独占したいわけじゃないけど、私より仁科が優先されるのは…なんだか気にくわない。
もやもやする。
「ね、ねぇ…仁科、君?」
だから思いきって私もふたりの間に割り込んでみた。
「……………」
まあ、もちろん結果は無言。
なんで優子には答えてくれるんだろう。ますます謎…。
優子にチラッと目をやると、顎に手をあてて何か考え込んだような表情していた。
優子の助けがないなら、ここはひとまず退却。
今日はきちんと主を待っていた椅子に腰掛け、溜め息混じりに机に突っ伏する。
「私の何が気に入らないのだ…」
たぶん正しくは私だけじゃなくて、優子以外のみんなだから……まずは優子と仁科の関係を調査しないと。
今私フリーだし。
…いい意味じゃないけど。
――――――――……
と、まあ、そんなわけで暇人な私は次の休み時間から、ふたりの関係を調査してみることにした。
調査と言ってまず思い浮かぶのは、聞き込み調査!
「いきなりこのクラスで聞き込みはまずいか」
チャイムが鳴ると同時にクラスを出て、近場の隣のクラスへ。
優子はやっぱり仁科と話していて、私の不審な行動には気づかなかった。それはそれで、ちょっと寂しいな、おい。
隣のクラスへの侵入は、あっさりと成功。
さて、手頃な人材を探しますか?
「ねぇ、ちょっといい?」
「ん?」
前を横切ろうとしていた、おとなしい感じの女子生徒を捕まえる。
「仁科って知ってる?」
「仁科って…どの仁科?」
「えーと…なんだっけ?……ああ、仁科慧だったかな」
危ない危ない、仁科っていう名字はたくさんいるのか。そういえば、クラスに佐藤ふたりいるし。
私の雲見はなかなかいないけどね。
「仁科…慧…」
私が仁科のフルネームを出したとたん、その女子生徒の顔がサァ…っと青ざめた。
「?私変なこと言った?」
「そういうわけじゃ…で、でもなんで、私に仁科慧のことを…?」
あきらかに何かに怯えているようだ。しきりに周りを気にしている
震えてるし、これ以上聞くのはやめた方がいいかな。
と、言っても…何も聞き出せてないんだけど。
「ごめん、やっぱりいいや。ありがとう」
「あ…」
それから次のチャイムが鳴るまで粘ってみたけど、全員が最初の女子生徒と同じような反応をした。
それでも、男子のなかには少し違う答えで「仁科なぁ…あいつ学校やめたんじゃなかったの?」とか言う人も。
はぁ…よけい分からなくなってしまった。
―――――――……
その日の放課後、私は電柱の影で息を潜めていた。
ターゲットは……正面20m先!こっちには全く気づいていない様子。
「帰りまで一緒とは…あなどったな」
ターゲットはもちろん、優子と仁科。
ことの始まりは、30分前までさかのぼる。
「優子、一緒に帰ろ!」
私は途中まで帰り道が同じ優子を誘うべく、仁科の恐怖に打ち勝ち声をかけた。
なのに。
「ごめんね。今日は慧君と帰るから」
瞬殺でした。
仁科も仁科でさっさと鞄を肩にかける。
「また今度ね。ばいばい」
仁科が立つといつもクラスが一斉におとなしくんだけど、優子はさして気にもせず仁科をつれて出ていったのだった…。
と、いうわけですよ。
ほんと…帰り道まで付き合うって、優子と仁科って仲がいいってより、家族みたい。
そうじゃないと……
「……まさかね」
学年1の美少女と学年1の不良が、まさかね。
「…ますます怪しい」
おっと、こうしてる間にふたりは次のかどを右に曲がった。
音を立てないようにダッシュして、電柱に隠れながら、ゆっくりかどを曲がる。我ながら、尾行が上手くなったと思う。
「ふたりはどこだ…?」
姿を見せないように辺りを見渡す。
すると、――――いた。
ここから10mほど離れた、ある家の門の中に仁科の金髪が見えた。優子は見えない、でもこの直線道路上にいないから、たぶん一緒にいるはず。
「家か…。どっちの家だろ」
ここから表札は…残念ながら見えないな。ふたりがいなくなるまで待つしかない。
10分経過。
「長いなぁ…なに話してるんだろ」
20分経過。
「……長過ぎない?ああ、でも気になるし……」
30分経過。
「いや、さすがにおかしいでしょうよ」
話するならお互い家に帰って電話とか、メールってものもできるらしいじゃん!
世の中便利になってるってのに、あなた達はあえての立ち話ですか!私には門限が迫ってるの!空智君に閉め出させるの!
「お…?」
その願いが通じたのか、玄関のドアが開く音がした。
よっしゃ!そのまま入っちゃえ、どっちか!
「………………」
入っちゃえどっちか!どっちか!
ドアがバタンといい音を立てて閉じた。
仁科の金髪が見えなくなったから、ここは仁科家らしい。あとは、確信のために優子が出てくるのを待って……………んん?
優子が出てこない…。
通行人を装って、家の前まで歩いていく。
「ふーん、ふふ~ん♪私は怪しいものではありませ~ん♪っと」
そして通りすぎ様に門の中をチェック。
仁科はいない。優子は……。
「優子は?」
優子もいなかった。
あわてて門に寄って表札に飛び付く。
艶やかな白い石に彫られた、この家の主の名前。
「……野田………?」
お待たせしました






