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天空のアトリエ  作者: 黒井 夕
黄緑の章
13/19

第12話 暇人の尾行

――翌日。

今日も魔王はやって来た。


「おはよう、慧君」

「………ん」


つまり、優子が仁科にかかりっきり…と言うか、私が放置状態になる。

別に優子を独占したいわけじゃないけど、私より仁科が優先されるのは…なんだか気にくわない。

もやもやする。


「ね、ねぇ…仁科、君?」


だから思いきって私もふたりの間に割り込んでみた。


「……………」


まあ、もちろん結果は無言。

なんで優子には答えてくれるんだろう。ますます謎…。

優子にチラッと目をやると、顎に手をあてて何か考え込んだような表情していた。

優子の助けがないなら、ここはひとまず退却。

今日はきちんと主を待っていた椅子に腰掛け、溜め息混じりに机に突っ伏する。


「私の何が気に入らないのだ…」


たぶん正しくは私だけじゃなくて、優子以外のみんなだから……まずは優子と仁科の関係を調査しないと。

今私フリーだし。

…いい意味じゃないけど。









――――――――……

と、まあ、そんなわけで暇人な私は次の休み時間から、ふたりの関係を調査してみることにした。

調査と言ってまず思い浮かぶのは、聞き込み調査!


「いきなりこのクラスで聞き込みはまずいか」


チャイムが鳴ると同時にクラスを出て、近場の隣のクラスへ。

優子はやっぱり仁科と話していて、私の不審な行動には気づかなかった。それはそれで、ちょっと寂しいな、おい。


隣のクラスへの侵入は、あっさりと成功。

さて、手頃な人材を探しますか?


「ねぇ、ちょっといい?」

「ん?」


前を横切ろうとしていた、おとなしい感じの女子生徒を捕まえる。


「仁科って知ってる?」

「仁科って…どの仁科?」

「えーと…なんだっけ?……ああ、仁科慧だったかな」


危ない危ない、仁科っていう名字はたくさんいるのか。そういえば、クラスに佐藤ふたりいるし。

私の雲見はなかなかいないけどね。


「仁科…慧…」


私が仁科のフルネームを出したとたん、その女子生徒の顔がサァ…っと青ざめた。


「?私変なこと言った?」

「そういうわけじゃ…で、でもなんで、私に仁科慧のことを…?」


あきらかに何かに怯えているようだ。しきりに周りを気にしている

震えてるし、これ以上聞くのはやめた方がいいかな。

と、言っても…何も聞き出せてないんだけど。


「ごめん、やっぱりいいや。ありがとう」

「あ…」


それから次のチャイムが鳴るまで粘ってみたけど、全員が最初の女子生徒と同じような反応をした。

それでも、男子のなかには少し違う答えで「仁科なぁ…あいつ学校やめたんじゃなかったの?」とか言う人も。

はぁ…よけい分からなくなってしまった。











―――――――……


その日の放課後、私は電柱の影で息を潜めていた。

ターゲットは……正面20m先!こっちには全く気づいていない様子。


「帰りまで一緒とは…あなどったな」


ターゲットはもちろん、優子と仁科。





ことの始まりは、30分前までさかのぼる。


「優子、一緒に帰ろ!」


私は途中まで帰り道が同じ優子を誘うべく、仁科の恐怖に打ち勝ち声をかけた。

なのに。


「ごめんね。今日は慧君と帰るから」


瞬殺でした。

仁科も仁科でさっさと鞄を肩にかける。


「また今度ね。ばいばい」


仁科が立つといつもクラスが一斉におとなしくんだけど、優子はさして気にもせず仁科をつれて出ていったのだった…。





と、いうわけですよ。

ほんと…帰り道まで付き合うって、優子と仁科って仲がいいってより、家族みたい。

そうじゃないと……


「……まさかね」


学年1の美少女と学年1の不良が、まさかね。


「…ますます怪しい」


おっと、こうしてる間にふたりは次のかどを右に曲がった。

音を立てないようにダッシュして、電柱に隠れながら、ゆっくりかどを曲がる。我ながら、尾行が上手くなったと思う。


「ふたりはどこだ…?」


姿を見せないように辺りを見渡す。

すると、――――いた。

ここから10mほど離れた、ある家の門の中に仁科の金髪が見えた。優子は見えない、でもこの直線道路上にいないから、たぶん一緒にいるはず。


「家か…。どっちの家だろ」


ここから表札は…残念ながら見えないな。ふたりがいなくなるまで待つしかない。





10分経過。


「長いなぁ…なに話してるんだろ」





20分経過。


「……長過ぎない?ああ、でも気になるし……」





30分経過。


「いや、さすがにおかしいでしょうよ」


話するならお互い家に帰って電話とか、メールってものもできるらしいじゃん!

世の中便利になってるってのに、あなた達はあえての立ち話ですか!私には門限が迫ってるの!空智君に閉め出させるの!


「お…?」


その願いが通じたのか、玄関のドアが開く音がした。

よっしゃ!そのまま入っちゃえ、どっちか!


「………………」


入っちゃえどっちか!どっちか!

ドアがバタンといい音を立てて閉じた。

仁科の金髪が見えなくなったから、ここは仁科家らしい。あとは、確信のために優子が出てくるのを待って……………んん?

優子が出てこない…。

通行人を装って、家の前まで歩いていく。


「ふーん、ふふ~ん♪私は怪しいものではありませ~ん♪っと」


そして通りすぎ様に門の中をチェック。

仁科はいない。優子は……。


「優子は?」


優子もいなかった。

あわてて門に寄って表札に飛び付く。

艶やかな白い石に彫られた、この家の主の名前。




「……野田………?」















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