ぬいぐるみのお医者さん
小さい時、妹が泣きながらぬいぐるみを持ってきたことがあった。
「どうしたんだよ」
「うさちゃんおててとれちゃった……」
「うわ、重態だ」
妹のお気に入りのうさぎのぬいぐるみは見事に腕が宙ぶらりん。
「緊急手術が必要だな」
「しゅーつ?」
「そ、すぐ直してやるよ」
手先の器用さには自信があった。
「んじゃあ手術を始める」
そう言って裁縫箱を取り出し、ちくちくと腕を縫い付けてく。
痕が目立たないように慎重に縫う。
「ほら、直ったぜ」
「うわぁ、うさちゃん!」
嬉しそうに妹がうさぎに抱きつく姿を見て、俺も嬉しくなった。
「おい、早くしろよ。次間に合わないだろ」
「ごめん。って、読めない。字、汚すぎ」
「うるせぇ、医者ってのはんなもんだよ」
異界の娘は文句が多い。
これを助手に使うのは本当に疲れる。
「あんた、何で医者なんてやってんだよ」
「んー、うさぎのせいだ」
「うさぎ?」
「ああ」
まさか、あんな遊びがきっかけだなんて言える訳が無い。
「なにそれ」
「お前には関係ねーだろ? それより急げ。薬は番号順に並べろよ」
「はいはい、って私はパシリか!」
「給料払ってんだ。そんくらいやってくれ」
けれど、今はそれに感謝しているかもしれない。
こいつと知り合ったのもそのお蔭だ。
「たまに顔くらい見に行くか」
「へ?」
「なんでもねーよ」
12も離れた妹を訪ねるのは少しばかり気恥ずかしいが、今度はこいつも連れて行こう。
その時には、うさぎの出番があってもいいかもしれない。
柄にも無くそんなことを考えた。