ラブレター配達人の魔女
一話の文字数が過去最大に。
このくらいかくと、変換が固まるんですね。
私、アイリーンが恋多き偉大な魔女ユリナに弟子入りしたのは、七歳の子供の頃だった。
今年十七の誕生日をむかえた私は、赤の表紙の本をゆっくりとなで、ため息をつく。
その本は師匠の課題に対する報告を書くためのものだ。
事始めは、私の十七の誕生日。
いつもはボサボサの赤毛を綺麗に整え、お気に入りのリボンでポニーテールを結んだ。
私の誕生会はいつも二人だけ。
豪奢な金髪巻き毛の美女である師匠と背丈が伸び悩んでいる私の二人だ。
師匠が赤い本をくれた。プレゼントの魔法書かと思い、喜んで本をめくったら白紙だった。
「師匠、なんですこれ。全部白紙ですよ。乱丁本掴まされました?」
「元から白紙よ。その本に物語を書くのはあなたよ」
「……物書きになれと?私、魔女クビですか?」
「違うわよ。しいて言えば課題になるかしら。あなた、十七にもなって恋したことないでしょ?」
「あるわけないじゃないですか。ずっと修行してきたんですよ」
「そうね。だからあなたに恋を知って欲しいのよ」
「なぜですか?恋したっておなかは膨れませんよ」
「……はぁ。予想通りだめね。まずは恋の素晴らしさを知らないといけないようね」
別に知りたくない。
私はそう思ったが口に出さなかった。
師匠の二つ名は『恋多き』。何百年生きているのか不明で、年齢と同じくらいの数の恋をしてきた強者だ。
その一つ一つを聞かさられでもしたら、時間がいくらあっても足りやしない。
「師匠の昔話はまた今度で!」
「いつもそう言って逃げるんだから。
まぁ私のような歴戦練磨の恋の伝道師の話は、あなたに合わないわね。
もっと歳の近い子の話を聞くほうがいいわね。
だから課題を出すわ。
街におりて恋の話をよく聞き、この本にまとめてちょうだい。
期間はこの本全てに恋の話をまとめるか、あなたが恋をするまで」
「師匠が最新の恋ばなを知りたいだけでは?」
「だまらっしゃい。そんなに私の話が聞きたいわけ?千夜でも話してあげるわよ」
「すみませんでした。でも師匠、どうやって話を集めるのでしょうか?街に知り合いもいませんし」
他にどうすれば?と私は考える。
酒場は情報集めに向いているが、さすがに恋ばなは集められない。情報の欲しい客層とマッチしない。
「そうね。お店を開きましょう。店主はあなた。
お店の内容はラブレター専用配達人。恋ばなを代金にラブレターを届けるのが仕事よ」
師匠は優雅に紅茶を一口飲み、魔法収納から金貨が大量に詰まった皮袋をとりだした。
「このお金で店舗を借りてちょうだい。あと必要なのは配達用の馬車ね。街での生活費など、しばらくは足りると思うわ」
「……それ人きます?」
「くるわ。手紙配達代はかなり高いのよ。普通の街娘にはなかなか手がでない金額。
逆に制限しないと駄目よ。恋ばなをまとめるためのお店だけど、細かい恋愛中の話は要らないわ。
利用は一人一回だけ、配達先は王国内に限る。
この条件を入れなさい」
「王国内ってかなり広いじゃないですか。端だったら馬車で三週間はかかりますよ!」
「そうね、二週間を越える場所なら私の使い魔を貸し出すわ。転移で行けばいいわ」
「全部転移じゃ駄目なんですか?」
「駄目よ。出会いがなくなるじゃない」
「ええー。馬車三日でも辛いのに…」
やりたくない。
私の課題を取り組む意欲がどんどん衰えていく。
「そうね、課題の特典に報告十件毎にあなたが知らない魔法書をあげるわ。どう?」
「転移魔法の魔法書は?」
「それは課題クリア時の報酬ね。最初は前から欲しがっていた魔法収納でどうかしら?」
「行きます!」
こうして師匠から離れて街暮らしが始まった。
師匠からは客が集まると言われたが、半信半疑な私は、念のために人が多い王都に店を借りた。
家賃は結構高かったが、師匠のお金だ。問題はない。なにせ師匠はお金持ちだもの。
問題は店の宣伝方法。
最初だけは大勢に宣伝しないと、そんな店があるかすら認識してもらえない。
私は王都の複数の洗濯場へと出掛け、おばちゃん達に店の宣伝をした。世間話の拡散にはおばちゃんの口が一番有効だ。
そして開店初日。店のまえには三人の娘さんがいた。まだ誰もいないと思っていたのに。
この仕事の報酬は恋ばな。一人ひとりと話す必要がある。とりあえず三人の予定を聞き、一人ずつ話を聞く約束をした。
初めてのお客様は冒険者のナタリーさん。
恋の相手は故郷の幼なじみ。
その故郷はここから二週間かかるソエの村。初っ端から遠出が決定した。だけど使い魔のリンちゃんが使える距離。
「それではあなたの恋の話を聞かせて下さい」
私はペンを持ち、赤い本をひろげた。
それから二十件の依頼をこなし、『収納魔法』『古いパンを出来立てのパンに変える魔法』の魔法書を取得。
その後もわりと順調に進んでいた。
それなのに今は絶不調だ。
新しい恋ばなを書こうとするのだが、手が止まって筆がすすまない。
「アイリーン、どうしたの?ため息なんてついて。
もしかして、課題が嫌になったの?」
「いえ、書けないんです」
うつむき、固まったままの私に、師匠が心配そうに声をかけてくる。
「いつもの通り、聞いた話をまとめるだけじゃないの。具合でも悪い?治癒魔法はかけての?」
ふるふると私は頭を振る。
「違います。体は元気です。書けないのは……私のこと」
「私のこと?あらあら、あなたついに恋をしたの?」
「……たぶん」
私はぽそりと答える。
師匠は嬉しそうにパチパチと手を叩き、魔法収納から椅子を取り出すと、私の目の前に座る。
ついでにテーブルの上に白磁のティーセットを並べ始めた。
適温のお湯を生み出し、ティーポットに注ぎ、茶葉をティーポットの茶こしにセットし、蒸らしに入る。
最後にバターたっぷりのクッキーを更に並べ、師匠は戸惑う私ににっこりと微笑む。
「さぁ、いつもの通りに最初から話してちょうだい」
師匠にそくされて、私はポツポツと語りだした。
「……結構遠いな」
私は二頭立ての馬車を操りながらぼやいた。
今回向かう港街マルタは、私が仕事場にしている王都から馬車で一週間程かかる。
すでに四日過ぎ、マルタまで続く街道にほとんど人をみかけなくなった。
人恋しいなら駅馬車をつかえばいいのだけど、過去に一度、駅馬車を使って後悔したので使わない。
一人のほうが気楽よね。
そううそぶいて、私はひたすら街道を駆け抜けていく。
天候が段々と悪くなってきた。小雨がぱらついたと思ったら本降りになる。
私は急いで次の休憩所まで馬車をとばした。
休憩所といっても、井戸と木造のトイレが設置されているだけ。泊まるのなら広いスペースにテントを張る必要がある。
ずぶ濡れになりながら辿り着いた休憩所には誰もいなかった。今回のケースでは人がいないほうが助かる。魔法をガンガン使えるからだ。
まずは馬用の大きな天幕を、魔法収納から取り出し設置する。馬をそこにいれると、二匹に乾燥の魔法をかけ、さらさらの毛並みに戻し、水と飼い葉を取り出して与える。
次に自分用のテントを建てた。長い間冷たい雨にあたっていたので、寒さで身体が震える。
テントの中に入るとすぐさま温風の乾燥魔法を使い、火を起こす。このテントには排気の小さな煙突がついている。
もくもくと煙がたち登る頃には、寒気がおさまった。
食事をする前に索敵魔法を使う。
この休憩所の隣は森だ。雨であまり魔物は動かないが、念のため。
索敵で近くに魔物は感じられなかったが、人が森の近い場所にいるみたい。
感知した人を更に辿ると弱っているのか、魔力がかなり小さくなっている。
せっかく乾かしたのに。
軽く愚痴って、私はレインコートを取り出すと、森へと入っていった。
探知魔法を頼りに進んでいくと、森の中の川の近くで倒れている青年がいた。腹部からは血がながれ、白い服を赤く染めている。唇は紫に染まっていた。
まだ生きている。
私はすぐさま治癒魔法を使い、腹部の傷を治す。
あとは担いでテントに運びたいけど、小さな私に長身の青年は運べなかった。何度かトライしてみるが、引きずってもなかなか前にすすまない。
「仕方ない」
私は師匠から預かっていた小さな鈴を鳴らす。
「なぁに?」
ポンと私の目の前に小さな黒猫が現れる。師匠の使い魔のリンちゃんだ。
「この人をテントまで運んで欲しいの」
マルタの街ではなくテントにしたのは、リンちゃんの転移を使うと馬や馬車が置き去りになるからだ。
「えぇ?!それは契約にないよぉ」
リンちゃんは嫌々と首をふる。ただでさえ嫌いな雨の中に呼び出されたのだ。機嫌は悪い。
「あとでサーモンご馳走するから、お願い!」
「おっきいやつにゃ?」
「うんうん、おっきいの」
そう私が答えた瞬間、転移が発動して先ほどでてきたテントに戻っていた。足元には倒れている青年とご褒美待ちの黒猫。
優先順位は青年。さっと温風魔法を使い、乾かしたあとに毛布を取り出して青年にかける。
薪を薪火に追加してさらにテント内を温める。
これで青年のほうはたぶん問題はない。
ビショビショのレインコートを脱ぎ、乾かすとリンちゃんが不満そうに鳴いた。
「リンちゃん、生と焼きはどっちがいい?」
魔法収納から大きめのサーモンの切り身を取り出して、リンちゃんに見せる。
「ううん…」
「半分ずつにしようか?」
「それにゃっ!」
リンちゃんは興奮すると語尾に『にゃ』がつく。お兄さんぶりたい年頃なので、普段はつけないけど。
その素振りが可愛いね。
半分にきったサーモンをフライパンで焼いていく。
リンちゃんは待っている間に、乾かした毛を綺麗に毛繕いし始めた。
「ところでリンちゃん。今回の件は師匠には内緒ね」
「わかってるよぅ、お魚まだぁ?」
契約外の取り引きは師匠に禁止されているので、互いに内緒にするしかない。
サーモンが焼き上がると、生で切ったものと二皿をリンちゃんの前に並べる。ついでにモーモーのミルクも、深皿で振る舞う。
うみゃうみゃと喋りながらリンちゃんはサーモンを平らげていく。
私はそれを聴きながら野菜スープと、角ウサギのソテーを作っていく。パンは魔法で焼きたてに戻しておく。
師匠の収納魔法は経過時間なしだが、私の魔法は遅延が入るだけ。そのうちに経過時間がなしの魔法書も欲しいところだ。
「……ッ」
倒れていた青年の意識が戻った。
彼は目を開けると、ぼんやりと周りを見回す。
「……ここはどこだ?私は……誰だ?」
「えぇー、まさかの記憶喪失?リンちゃん、記憶喪失治すのって治癒魔法でいけたっけ?」
「ユリナなら治せるぅ?わかんないぉ」
師匠に頼むのは最終手段。リンちゃんを呼び出したことが芋づる式でバレる。
「じゃあねぇ」
面倒事はごめんだと、リンちゃんがさっさと消えた。
ぐぅと私のお腹が鳴る。
人前でそれはかなり恥ずかしかった。鳴らなかった振りをして、私はパンをスープにつけてふやかし、それを青年に渡した。
青年は椀を置いてから身をゆっくりと起こし、毛布を外した。
パラリと広がる長い銀髪。その髪や全身が泥と血にまみれている。今は汚れているけど、着ている服は銀の刺繍が大きく入っていて、庶民の着るものじゃないね。
私はピンッと指を弾く。すると青年の全身から汚れが綺麗に落ちた。だが右腹部の縦に十センチほど破れた箇所はそのまま。
「浄化魔法」
青年は綺麗になった服をみて呟いた。
それから服の破れに気がつく。
「あなたはそこを怪我して倒れてた。さっき見た血はあなたの血。怪我は治癒魔法でなおしたよ」
「……なぜ?」
「なんで怪我したかは知らないから聞かないで」
「すまない。助けてくれてありがとう」
「まずはご飯を食べて。魔法で治したけど、血が足りてない」
「わかった」
私は自分の分のスープをよそい、またお腹が鳴らないようにと黙々と食べ始めた。
青年もそれにならい、座って食事を始める。
私はそっと青年を見る。
治癒魔法は教会でよく使われるので、こちらは有名。でも浄化魔法は一部の人たちしか知らない。
浄化魔法の魔法書は結構高いし、魔力がそれなりにないと習得できない。魔力は血統で引き継がれることが多い。
庶民は魔力がないし、魔法を買えないので浄化魔法を知らないことが当たり前。
それに綺麗になった顔は美形だった。
顔がいいのは貴族だから気をつけるようにと師匠に言われたことを思い出す。
お金があるからお嫁さん、お婿さんは選びたい放題。たいがい美人が選ばれる。それが代々続くので貴族はたいてい顔立ちがいい。(師匠談)
青年はどうみても貴族にしか見えなかった。
……どうしよう。
私は途方くれる。
拾ってしまったからには、捨てられない。
黙々と食事を始めた青年を見つめながら、私はため息をついた。
青年は食事をとったあと、毛布にくるまって眠った。治癒魔法で傷はなおっても消えた血や体力は戻らない。
師匠のポーションを飲めば、体力は回復するけどね。
眠る青年から少し離れて、私は寝袋にもぐり込んだ。
とりあえずどこかの街で彼を預けるしかない。
貴族なら家族が心配して、探索依頼を出しているはずだ。
なんかドキドキする。こんな近距離で知らない人と一緒に眠るなんて……。
昔、孤児院でみんなと寝たとき以来?
私は物事ついたときから親がいなかった。
孤児院での暮らしはただひもじかった。いい思い出はない。
七歳の収穫祭で教会で受けた魔力判定で、魔力が多いことがわかった。
すぐさま教会に入るかと神父に聞かれたことを覚えている。お腹いっぱい食べられるぞと。
すぐに頷こうとしたら、師匠がやってきた。
師匠はピンッと指を弾くと、植物魔法でツルを出し、私をぐるぐる巻きにして、ひょいっと自分の元に引き寄せた。
「いやね、魔力判定A以上は魔女協会行きでしょ?
最近は全然魔女候補がこないから、様子を見に来たら、これだもの。
教会は魔女協会を敵に回すつもりかしら?」
ピシピシと別のツルが教会の床を激しく叩く。
「滅相もございません!その子が教会に来たそうだったので、つい」
神父は真っ青になり、ガクガクと震えながら土下座した。
「つい?約束破っちゃった?」
「いえいえいえ!その子は魔女協会行きです!」
「ねぇ、教会じゃなくてもごはんお腹いっぱい食べれるの?」
私はツルに吊るされながら、師匠に尋ねた。私にとってそれは大事なことだったので。
「あなた、よくその体勢でそんな質問できたわね。
ビビらない子供は久しぶりだわ。ご飯ね。食べれるわよ、魔女は高給取りですからね」
にっこりと微笑む師匠は綺麗だったな。
私は昔を思い出しながら、また青年を眺める。
なかなか眠れない私は赤い本を取り出す。
恋ばなの報告書だ。
今回マルタに向かうことになった恋ばなを読み返す。
___________________
依頼人は宿屋の看板娘のエリザ。
想い人はマルタの冒険者ランドル。
ランドルのパーティが王都に遠征にやってきて、その宿泊先に選んだのが、エリザの宿だった。
エリザの宿に泊まる冒険者は多い。ランドルもそんなお客の一人のはずだった。
ある日、森に行ったランドルがお土産に可愛らしい花を摘んできた。
それを宿で出迎えたエリザに照れながら渡した。
『知ってます?その花の花言葉。[可憐な人]よ。可憐って姿や形が愛らしく、見ていると思わず「守ってあげたい」と感じる美しさなんだって』
ランドルのパーティメンバである、彼の妹が横から口をはさむ。
その内容にエリザは恥ずかしくなって、顔を赤らめた。
付き合ってくれと何度か言われたことがあるエリザだが、愛らしいとか守ってあげたいとか言われたことはない。
ランドルも照れて頭をかく。
その日からランドルはエリザにとって特別になった。
重い荷物を持っていれば、すぐに代わりに運んでくれる。
エリザの作った料理を、うまいうまいといっぱい食べてくれる。
そんな小さな積み重ねが特別になったとたん、ドキドキと心を刺激し輝き始める。
ランドルたちが宿に滞在したのは二ヶ月。
エリザの特別になったときには、もうあと一週間しか残っていなかった。
もしかしたら、残ってくれるかもしれない。エリザは期待したけど、ランドルたちは予定通りにマルタに帰ることになった。
ランドルたちの最後の休息日に、二人で出掛けた。
誘ったのはランドル。
人気の告白スポットでもある開放された城壁の絶景スポット。そこからは街を見渡せて、沈む夕陽が大きく見える。
エリザはかつてないほど期待に胸を高鳴らせて、ランドルと並んで暮れゆく夕陽を眺めた。
一緒にマルタに行こうと誘われるかもしれない。それはプロポーズなのか?告白すらまだなのに。
エリザの頭の中でぐるぐると思いがめぐる。
『明後日にはマルタに帰る』
『……うん』
『あのさ、俺……』
黙り込むランドル。
早く何か言って欲しいとエリザは願う。
『……そろそろ帰ろうか』
だが無情にもランドルはそう言葉をきって、歩いていく。
期待していただけ、エリザの絶望は大きかった。
それからランドルたちはマルタに戻っていった。
それからさらに二月が過ぎても、エリザの心にランドルは居座っていた。
『私、ランドルに告白して欲しかった。でもそれは聞けなかった。
あれからずっと考えていたんです。なぜか彼のことが嫌いになれない。そもそも彼は私を好きだったのでしょうか?
いくら考えても答えがでません。
だからこの店の話を聞いたときに、私の気持ちを彼に伝えて聞いてみたいって思ったんです』
___________________
私は本に挟んでいた、エリザの手紙をじっと見つめる。
「必ず返事もらってこないとね」
本を閉じてしまうと、私は目を閉じた。
次の日。
寝不足でしょぼしょぼした目をこすりながら、朝のスープを作る。
「おはよう。何か手伝おうか」
青年が起きてきて、井戸で顔を洗ってきたようだ。
「大丈夫。もうできたから。はい、どうぞ。
ところで記憶は?」
「ぼんやりと。少し思い出せた。
名前はウィリアム。歳は十九だ。まだなぜ怪我したのかは思い出せない」
少なくとも出自がわかったのなら、問題はない。
私はほっと胸を撫で下ろす。
「ところで君の名前を教えてもらっていいかな?」
「アイリーンよ」
「アイリーン。
それでね、助けてもらったお礼をしたいのだけれど、支払えるものは何も持っていないようなんだ」
知ってる。
「この食事代すら払えない。申し訳ないけど、後払いでいいかな?
大きな街なら、冒険者ギルドの身分証が再発行できる。ギルドに預けたお金で払うことができるんだ。
それまで一緒にいていいかな?」
うーん。まぁいいか。
すでに魔法をさんざん使っているのを見せているけど、魔女だってことは黙っとこう。
「いいよ。助けておいて見捨てられないし」
「ありがとう。ところでアイリーン、君はどこに向かっているんだい?」
「行き先はマルタだけど」
「マルタ!僕の家があるんだ。それならきちんとお礼できるね」
「別に気にしなくていいよ」
「そういうわけにはいかないよ。
それでね。マルタまで本当は護衛でもしたいんだけど、武器をなくしてしまったみたいだ」
護衛してもらわなくても大丈夫だけど、武器ね。
確か昔買った剣ならあったかな。魔法剣を作るのに参考にしたやつ。
収納をあさってみると、安物の鉄剣があった。
ちなみに収納魔法はかなり特殊なので、いかにもマジックバック使ってますってかんじで、普通のバックで演技してます。
「これ、使える?」
差し出した鉄剣をウィリアムは受け取ると、数度振り下ろし、笑顔でありがとうと答える。
やだぁ。
師匠並みの美人の笑顔爆弾。
さすがに少しドキマギする。
馬たちにも朝ご飯をあげてからブラッシング。
ウィリアムも手伝ってくれた。馬好きらしい。
ささっとテントを片付けて、出発!
手綱はウィリアムが持ってくれたので、私は少しだけ眠ることにした。昨日ちゃんと眠ればよかった。さすがに眠い。
ふと目が覚める。
うきゃああ。
声をなんとか出さずに、シャキっと起きる。
なんとウィリアムに寄りかかって寝ていたみたい。
恥ずかしい。
「あ、起こしちゃったかな」
「だ、大丈夫」
「もうすぐお昼だから休憩しようと思うけど、どうかな」
「うん。馬に餌をあげないといけないからね」
お昼に寄った休憩所には、先客がいた。
どうやらマルタ方面から王都に向かう駅馬車のようだ。
目立たないように、こっそり馬用の水いれに魔法で水を入れる。
ウィリアムはタオルで馬の汗を拭いて、ブラッシングしてくれている。
普段は夜しかブラッシングしてないので、馬たちは喜んでいるみたい。
さて、お昼はどうするか。
本当はここで煮炊きしたいのだけど、魔法収納からいろいろだしてると、注目を浴びてしまう。
確かまだサンドイッチがあったはずだ。おやつのパウンドケーキも合わせればなんとか二人分になる。
馬車の中で食べ物と飲み物をだしてから、それを外に持ち出す。馬車の中で食べるにはスペースが狭すぎる。
馬車と呼んでるけど、荷馬車なんだ。だから座席はないの。
だって私一人で運用するから、馭者台にしか座らないもの。
ウィリアムと二人並んで馭者台で食べる。
「このパウンドケーキ美味しいね。オレンジとナッツ?珍しい組み合わせだね」
「うん。私が作ったの。師匠には組み合わせがいまいちって言われたけど、美味しいよね」
同じ好みの人発見。
私のパウンドケーキ食べたのは二人だけだから、どちらが主流の好みかわからないけどね。
彼は貴族なんだろうど、飾らないので話しやすい。
なんとか駅馬車をスルーするして、改めて出発!
「この先に夜泊まれそうなところはある?」
「確か小さな村があったはずだよ。でも宿屋はないから、空き家か馬小屋に泊まることになる」
馬小屋は匂うから嫌かも。
私の嫌そうな顔みて、ウィリアムが提案してきた。
「休憩所でテントではダメなのかい?昨日も眠れていないようだし、僕が一緒なのが気になるなら、馬たちと一緒に寝るよ」
「えっ。別に嫌じゃないわ。人と一緒に眠ることに慣れてないの。そのうち慣れるわ。
どちらかというと、休憩所で他の人たちが一緒にならないかが心配なのよ」
「そういえばお昼の休憩所では、魔法をこっそり使っていたね。魔法を隠したいの?」
「前に駅馬車に乗った時に、魔法が使えることがバレてね。毎回馬の水を出してくれって言われたの。さらにマジックバックに入っている食材を分けろ、とかも。
駅馬車での食事は基本保存食でしょ。
私がなにも考えずにマジックバックを使って、食材や鍋を取り出したからいけないんだけど。
暖かいスープとか肉とか食べたいのはわかるけど、ただで食料をみんなに分けろって言ってくるのはおかしくない?」
「おかしいよ。
食事をただでもらっている、今の僕が言える事じゃないけど」
「ううん。ウィリアムの誠意は伝わってるから大丈夫」
「その人たちが特殊なのでは?マジックバックを僕も持っているけど、その収納物をただでよこせと言われたら断るよ」
だよね。
師匠と山にこもっていたから、常識が変わったのかと思ったわ。
たまたま常識がない集団に当たったのかもしれないけど、二度と同じ目に合いたくないから、駅馬車には近づかない。
「アイリーンが嫌な目にあって、休憩所を警戒していることは理解した。
とりあえず次の休憩所に人がいたら村まで向かおう。馬小屋が嫌なら村の外れでテントを建てればいいんだから」
よし。うまくウィリアムと認識合わせができた。
結局、ウィリアムに魔女か問いただされなかったな。
魔法は治癒、水そして浄化しか見せてないからね。教会関係かと思われてる可能性もある。
ま、あえて言わなくていいでしょ。
夕方に次の休憩所についた。
休憩所には他に人がいたので、ウィリアムが知っている村までそのまま走らせることにした。
夜も遅くなったので、ウィリアムに村長に挨拶にいってもらっている間に、私がテント建てた。
最近ずっと一人でいたから、ウィリアムと話をしながら移動するのは楽しかった。
それはウィリアムが話上手だからかもしれない。旅の豆知識とかいろいろ教えてくれた。
「ただいま。馬のブラッシング終わってる?」
「ううん、まだ。ご飯は出してある。お願いしてもいい?私、晩ご飯作るから」
「了解」
気がついたら鼻歌を歌いながら、野菜炒めを作っていた。
やだ、私なにか浮かれてる?
その晩、昨日とは違ってすぐに寝れた。
ウィリアムへの警戒がなくなっていたから。
マルタへと向かう旅は順調に進んだ。
いつもなら一週間の旅なんてキツイだけだったけど、今回は楽しくおしゃべりしてたので、あっという間だった。
そう。目の前にマルタの街が見える。
ウィリアムとの旅も終わりだ。ひとりぼっちで帰る復路を考えると、気が滅入ってくる。
……お仕事しなきゃね。
マルタについたなら、ランドルにエリザの手紙を渡して返事をもらわないと。
「アイリーン、マルタに着いたよ。今日は僕の家に泊まっていくだろう?」
「どうしよう。とりあえず手紙を届けに冒険者ギルドに行かないと。」
「僕も再発行があるから、一緒に行くよ」
まだお別れじゃないみたい。
冒険者ギルドにつくと、受付嬢にランドルの居場所を聞いた。
「ランドルさんたちパーティは、今依頼を受けて街を離れています。本当ならそろそろ帰ってくるはずなのですが……」
「何の依頼を受けているんです?」
「マルタの外れに盗賊が出たみたいで、その討伐です」
「盗賊?」
私の後ろで話を聞いていたウィリアムが、こめかみを押さえて低く呻くように声を出した。
「ウィリアム?頭痛いの?大丈夫?」
「あら、ウィリアム様じゃないですか。ギルド長に報告書してこないと」
そういって受付嬢はカウンターから出て奥に走って行く。
顔色が悪いウィリアムに治癒魔法をかける。
「ああ、ありがとう。アイリーン。
思い出した。僕は盗賊団に拉致されて、逃げ出したんだ」
「盗賊団?おい、依頼は小規模な盗賊って話だったな?」
奥から現れた大柄な男の人がウィリアムの言葉に反応する。隣の受付嬢が依頼票を確認する。
「やぁ、ギルド長。
そうだよ、盗賊団だ。その規模は五十人以上はいたよ。人身売買をやっているようで、街から人をさらっている。
僕も油断して、街で薬をかがされて拉致されたんだ。やつらのアジトで隙を見て味方を呼ぶために逃げ出したが、見つかって川に転落した。
アイリーンに助けてもらったんだ」
「無事でよかった。あんたを探す依頼が伯爵から出ていたんだぞ」
「ギルド長!依頼は小規模の盗賊討伐になっていて、盗賊は推定五人程度になっています。
なので、依頼を受けたパーティは二組七名」
「まずいな。生きていればいいんだが…」
生きてって、ランドルには生きててもらわないと困る!
「ウィリアム、アジトはどこ?私の依頼受取人が危ないの!」
「僕が案内する。逃げ出したときにしか見てないけど、この地だからおおよその場所はわかる。
父上に騎士団の出動要請をする。
アイリーンはここで待っていて。馬車を借りるよ」
ウィリアムはそういって走り出した。
目の前のギルド長も「緊急依頼だ!」と騒ぎ、人をかき集め始めた。
うわぁぁ。
リンちゃん呼んで、アジトに転移してもらいたい。
でもアジトの場所をイメージできる人が一緒にいないと、転移できない。
ランドル生きてるよね?
人身売買目的なら生きてる?ウィリアムも生きて捕まってたし。大丈夫だと思いたい。
ウィリアム早く戻ってきて!
しばらくして、冒険者ギルドに人が集まって来た。
どうやら今すぐ動員できるのは中堅ランクが二十一名。高ランクが四名。
今はちょうど夕方で、依頼から戻ってきた人たちを捕まえられたようだ。
ギルド長の話では伯爵の騎士団はおよそ五十名。十分盗賊団とやり合うことができる人数になる。
特に高ランクは攻撃魔法が使えるので、集団戦で先手をとれるそうだ。
私も魔法ぶちかましていいですか?
あ、師匠に許可もらわないと。
こそこそとギルドの裏手でリンちゃんを呼んで、師匠に確認に行ってもらった。
その結果、大々的にやるのは駄目。アジト内に突入してからたぶんバラけるので、そこで局地的に使うならいい。
だけど命は最優先に。ヤバい場合は、乱射も許可。
植物魔法が目立たなくていいらしい。
師匠が初めて会ったときに使ってた、ツルのやつですね。
「ごめん、待たせたね」
武装したウィリアムが騎士団を連れて戻ってきた。
いつもよりキラキラ度が上がっている。
「野郎ども!カチコミじゃ!」
ギルド長が先頭に立って、ギルメンにカツを入れる。
……ヤクザもんにしか見えないよ。
こうして、盗賊団殲滅戦が開始された。
ウィリアムがみんなを案内したのは、マルタの郊外にある山の中。
盗賊に見つからないように、薄暗い闇の中で明かりをおさえた行軍。
山の中腹に小規模だけどしっかりした砦が作られていた。
砦の横には滝があった。
あそこに落ちたんだとウィリアムから聞き、私は青ざめた。よく生きてたね。助かってよかったよ。
砦の跳ね橋は上がっていて、砦の上層では見張りがいるのか、松明の明かりがひょろひょろと動いている。
ここは冒険者の斥候部隊が、砦にこっそり侵入して、門を開けてくることに。
跳ね橋は、橋を巻き上げた太いロープを高ランクの魔法使いが、火魔法で燃やして落とすことになった。
橋が落ちたら総攻撃開始となる。
「ウィリアム、私受取人の無事を確認したいの。囚われていた牢に案内してくれる?」
「もちろん。君の望む通りに」
騎士服を着たウィリアムが、片手を胸に当て、私に向かって深々と礼をする。
昔物語で読んだ騎士が抜け出して来たかと思った。
「門が開いたぞ!」
誰かが叫ぶ声が聞こえ瞬間、ボッと跳ね橋の一部が燃え落ちた。
「突撃!」
ギルド長の野太い怒鳴り声が聞こえる。
私を見てから、ウィリアムが走り出した。
その後を私は追いかける。
砦の中ではパニックに陥った盗賊たちが右往左往していた。中にはちゃんと迎撃に向かってくる者もいる。
ウィリアムは進路上の盗賊を切り捨てながら走る。
私もたまに横から飛び出してきた盗賊の顔面に、ツタをぶち当て倒す。
しばらくそう進んで行くと、牢らしきものが見えてきた。牢は広く捕まっている人たちは二十人くらいいた。
「助けに来たよ。遅くなってごめん」
ウィリアムがそう謝りながら、牢の錠前に剣を何度もぶち当てた。
見張りが見当たらなくて、鍵が見つからなかったせいだ。
「ウィリアム様!」
「助けが来た!」
牢から歓喜の声が上がる。
やがて錠前が壊れて牢の扉が開いた。
すぐさま私は中に飛び込む。
「ランドルさんはいますか?」
そう尋ねながら、怪我している人に治癒魔法をかけていく。
「ランドルは俺だ」
奥から聞こえてきた声に向かって私は走る。
ランドルと名乗った男の人は、足を斬られたようで、立ち上がることができない。
すぐさま治癒魔法をかける。
曲がっていた骨が勝手にもとに戻り、腐敗していた傷口がみるみる塞がり、正常な肌に戻っていく。
さすが師匠がアレンジした治癒魔法。
ここまでの怪我を治すのが初めてなので、その威力を知らなかった。凄いわ。
呆気にとられたランドルさんは固まっていた。
「お兄ちゃん、立てる?」
妹さんにそう言われておずおずとゆっくり立ち上がる。
「あなたに会いに来ました。エリザさんの代わりに。後で落ち着いたら時間を下さい」
私はそういってにっこりと笑った。
「それでどうなったの?」
師匠の問いかけに、私は首をひねる。
「エリザさんの手紙を渡して、返事もらいました」
「いいのよ、他人の話は。あなたの話よ」
エリザさんの話も大事だよ。
エリザさんは今はマルタへの引っ越準備中だ。
「助けたお礼をしてもらって、ひとりで王都に帰ってきましたよ」
本当につらい一週間だった。
「なにも言わずに帰って来ちゃったの?」
「……だって、恋かなって気がついたのが帰り道でしたから」
「なんで引きかえさないの!」
「そう言われてもどうしたらいいかわからないですよ。相手は貴族の次男だし、私は魔女だし」
「馬鹿ね。恋は考えるものじゃないわ。感じるものよ。
しょうがないわね。手紙書きなさい。
この私が配達してあげるわ」
にっこりと微笑む師匠。
どうせ相手の顔が見たいんじゃないの?
考えが顔に出たらしく、師匠にげんこつを食らう。
私はしぶしぶと手紙を書き始める。
まずは一番言いたいことからかけと、隣にいる師匠からのアドバイス。
なら書き出しはこれしかない。
拝啓 あなたへ
会いたいです。
タグは恋愛だけど、なんか微妙になってしまいました。短編を書くと説明部分が大半を占めてしまいます。
私には恋愛ものは無理なのかもしれない。
できれば評価お願いします。
ダメダメだよって評価もお待ちしてます。
それを見てから、このジャンル諦めようかと。
感想もお待ちしています
読んでくださり、ありがとうございました。




